CLAP YOUR HANDS SAY YEAH 『Hysterical』(V2 / Pachinko / Universal)

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CYHSY.jpg  クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤーが帰ってきた。まずは、お約束どおりに手を叩いて「ヤ~!」と言った人は手を挙げて! もちろん、僕もそのひとり。前作『Some Loud Thunder』から約4年。その間にメイン・ソングライターであるアレック・オンスワース(Vo/G)のソロ名義『Mo Beauty』や別プロジェクトであるフラッシー・パイソンのデビュー作もあったから、"シーンから姿を消した"という感じでもなかったけれど、ちょっと心配だった。ロビー・ガーティン(G/Key)とタイラー・サージェント(B)のアンインハビタブル・マンションズのアルバム・リリースもあったし。もうバンドとしてのモチベーションはなくなってしまったのかな? そんなふうに感じていたのは、僕だけではないはず。だから、こうやって無事に新作がリリースされたことが素直に嬉しい。

 彼らの登場でいっそう大きな注目を集めることになったブルックリン・シーンも、今ではあの頃と様子が違っている。ヴァンパイア・ウィークエンドは2nd『Contra』で、トーキング・ヘッズもなし得なかった全米ヒット・チャートのNo.1に輝いた。MGMTはポスト・パンク/ニュー・ウェーヴへの憧憬と造詣の深さを感じさせる2nd『Congratulations』をリリースして賛否両論を浴びた。アニマル・コレクティヴからはパンダ・ベアというアニマルがすくすく育っているし、TV・オン・ザ・レディオは(ベーシストのジェラード・スミスを癌で失うというとても悲しい出来事はあったけれど、)バンドとしても、デイヴ・シーテックのプロデュース・ワークも評価が高まるばかりだ。ブルックリンを拠点としていたバンドたちは、時間枠の制限を持つひとつの場面(シーン)から、ロック/ポップ・ミュージックを鮮やかに彩る大きな流れへと成長している。それは必然だ。

 クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤーというバンド名が縮まったりしなくて、本当に良かった! ブランクがあったり、メンバーが変わったり、訴えられたりするとバンド名が変わることがたまにある。長いバンド名の場合は短縮されることが多い。ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンが単なるブルース・エクスプロージョンに変更して、結局もとに戻ったり。カルトの場合は、サザン・デス・カルト→デス・カルト→カルトだったはず。サザンにならなくて良かったな、とか。ブラザーがビバ・ブラザーになったのは勢いが増したから良いけれど、バンド名の変更は迷いを感じさせることがほとんど。クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤーという長ったらしい名前のまま、お帰りなさい! 『Hysterical』のクオリティと変わらぬ彼らの本質に敬意を表して、(以下CYHSY)とか略すのもやめよう。迷いのないサウンドが高らかに鳴っている。

 『Hysterical』のプロデュースはモデスト・マウスやザ・ウォークメン、エクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイ(!)を手掛けてきたジョン・コングルトン(John Congleton)。彼自身も《Kill Rock Stars》からアルバムをリリースしているペイパー・チェイスというバンドのメンバーだ。今後、さらに要チェックの才能だと思う。アルバムはクリアなトーンのギターとストリングス調のシンセがキラキラと輝きながら混ざり合う「Same Mistake」で幕を開ける。ドラムとベースはタイトさを増し、アレックのヴォーカルはいつになく力強い。《開かれた道で 僕たちは同じ失敗をする》というコーラスも開き直りではなく、覚悟と確信を感じさせる。

 《狂ったように 幸運を求める声 弱さを克服して 僕たちはとにかく成長しなくちゃ》(「Hystrical」)

 2曲目のタイトル・ソング「Hysterical」ではシニカルさは微塵もなく、そう宣言される。そして1曲目の「Same Mistake」と呼応するように《僕は同じ失敗を繰り返してみたい》とさえ歌われている。シンセを前面に配置しながらも、メロディー・ラインがよりくっきりと描かれたサウンド・デザイン。歪んだギターがうなり、フロア・タムが野太いビートを叩き出す。ダイレクトな言葉とサウンドが「狂騒的」に鳴り響く。

 ニュー・ウェーヴっぽい「Maniac」、壮大なアウトロが最高にカッコいい「Into Your Alien Arms」、ドラムレスで子供の頃の記憶を歌うアコースティック・ソング「In A Motel」など、前半だけも聞き所が満載だ。ちょっと一息、アルバム・ジャケットを見てみると・。レディオヘッドの『OK Computer』を思わせる白を基調にしたイメージと滲んだ色彩のコラージュ。白が「根源」を連想させるものであるとすれば、色のあるもの/形のあるものは、"そこへ向かうのか?"それとも"そこから生まれたのか?"という想像がふくらむ。『Hysterical』は後者かもしれない。そう思えるフレッシュな感覚が心地良い。

 後半もまったくテンションが下がることはない。ポップなギター・リフとシンセが宙を舞う「Yesterday, Never」、ミドル・テンポで雄大なメロディの「Siesta (For Snake)」、多重コーラスとドラム・ロールで盛り上がる「The Witness' Dull Surprise」など、ライヴ映えしそうな曲が並ぶ。かつてのロー・ファイっぽさやサイケデリック・サウンドからの意識的な脱却ではないだろう。クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤーが持っていた本来の「ポップさ」が今、理想的な形でアルバムに凝縮されている。

 《手を叩こう! でも、なんだか悲しい気分 手を叩こう! だからって、どうにもなるもんじゃないけど 手を叩こう! だけど、僕にはお金がない》(「Clap Your Hands」)

 デビュー・アルバムの1曲目は、自分たちのバンド名を歌い上げながらもユーモラスでシニカルだった。アレックの声質とヴォーカル・スタイルから、同じくニュー・ヨーク出身のトーキング・ヘッズ(デヴィッド・バーン)と比べられたりもした。いま、時は流れた。いくつもの音楽シーンが移り変わり、R.E.M.も約30年に渡るバンド活動を終えた。僕たちの日常はどうだろう。世界を見渡しても、日本を見つめてもシニカルではいられない。2011年、クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤーは、このアルバムでその名にふさわしい傑作を作り上げた。来年1月には来日公演が決まっている。僕たちは彼らの演奏に負けないくらい手を叩かなくちゃ。そして、大きな声で「ヤー!」と叫ぼう。2011年のことは忘れないけれど、2012年が良い1年になるように。皮肉でも冗談でもなく、「狂ったように」叫ぼう。

(犬飼一郎)

 

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