BANVOX「Intense Electro Disco」(Maltine)

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Banvox.jpg  バンヴォックスが《マルチネ》からリリースした「Intense Electro Disco」は、初期衝動に満ちた素晴らしい作品だ。とにかく"壊したくて"サイレンを鳴らしたケミカル・ブラザーズ、ディストーションで巨大な要塞を築き上げ聴衆を蹂躙したジャスティス、「デカいスピーカーでベース聴こうぜ!」と、ぶっとい低音を快楽的に垂れ流したダブステップなど、本作には過去のダンス・ミュージックの最大瞬間風速がいくつも刻まれている。新しいものが誕生する喜びと興奮が、「Intense Electro Disco」には確実に存在する。


 ダンス・ミュージックはその昔、豊穣を願ったり神様へ祈りを捧げる儀式としての"踊り"であった。それぞれの土地や国が持つ固有のリズムやグルーヴという"らしさ"があったけど、"K-POP"や"J-POP"といった言葉に代表されるように、昨今のポップ・シーンは"らしさ"を強調した音楽が流行っているのに対し、ダンス・ミュージックは"らしさ"や"意味"を排除してきた面もある。例えば世間一般では"エレクトロ"と呼ばれるニュー・エレクトロだって、歴史的に見ればアフリカ・バンバータのような音楽を指す言葉だったからね。こうしたある種の乱暴さが、「ただエスニックな響きの曲をサンプリングして、西洋のビートにくっつけただけの曲は、ほんと音楽として醜悪だよね。それって現代の植民地主義なんじゃないかな」と、イギリスのガーディアン誌で発言したニコラス・ジャーのような面白いアーティストが出てくる要因でもあるが、乱暴な面がダンス・ミュージックにロマンとダイナミズムをもたらしたのは否定できないし、どうしても僕は、このロマンとダイナミズムに惹かれてしまうのだ。

 

 「Intense Electro Disco」を繰り返し聴いてしまうのもだからだと思う。だってさ、ニュー・エレクトロを基本としながらレイヴ、ハピコア、ダブステップ以降のベース・ミュージックまで飲み込んだバンヴォックスの音楽は、ネオンのようにキラキラした"現在(いま)"を力強く表現してるんだから。本能的獰猛さと理性的洗練がハイ・レベルに融合した奇跡的なダンス・ミュージック、強いて言うなら"ミュータント・ベース"と呼べる雑食性をまざまざと見せつける本作は、僕が音楽に求めるものが詰まっている。地球から宇宙全体を掌握するかのようなリーチを錯覚させ、すべての音がクラブへの"憧れ"として鳴っている。

  

 "憧れ"としたのは、彼が高校生だから(ツイッターのプロフにそう書いてました)。おそらく彼は、クラブに行ったことがないと思う。あるとしても、ズルをして深夜のクラブに入るようなことはせず、デイ・イベントなどに行くくらいだと推察できる。だとすれば、完全なDJライクになっていない曲群にも納得がいく。そして、クラブに対する"理想"が本作を特別な作品にしているという僕の直観も当たるのだが...。どうだろう?


 こうして原稿を書かせてもらうようになってから、1年以上になる。おかげさまでいろんな出会いに恵まれなんとかやってきたが、「伝えたい」というモチベーションを喚起させてくれるのは、数多くの作り手たちが作り上げた作品だ。それでも「これは!」という衝撃に遭遇できる機会は少ないが、「Intense Electro Disco」は間違いなく衝撃的だ。こんな出会いがあるから、音楽を聴くのはやめられない。


(近藤真弥)

 

※本作は《マルチネ》のサイトからダウンロードできる。

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