YUCK 『Yuck』 (Mercury / Universal)

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Yuck『Yuck』.jpg  輸入盤のリリースから半年近くが経って、やっと日本でもアルバムのリリースが決定したヤック。ケイジャン・ダンス・パーティーのダニエルとマックスが中心となって結成されたニューバンドだが、そこにかつてキレキレのギタープレイを披露していたロビーの姿はない(いまどこで何をしているんだろう?)。サウンドもイギリスの青春バンドから90年代アメリカンインディ志向へ、ガラリと変わった。おそらくダニエルの個人的趣向がより反映されたバンドなのだろう。ボニー"プリンス"ビリーあたりに心酔しているらしいしね、彼は。

 バンドのサウンドを特徴付けているのは、感情ほとばしる粗いギターの中から聴こえてくるくぐもったダニエルのヴォーカル。あるいは絶望の一歩手前で佇んでいるような物悲しいフィーリング。だがこれはけっして彼自身が人生のどん底で苦しむ姿の痛々しさを表現しているわけではないだろう。それはただ彼が憧れて止まない音楽の形であり、基本的に彼はいまも「Amylase」のときと同じお花畑のなかに存在していて、それがカラフルか、モノクロかの違いしかないように思える。そしてその表現のセンスは同世代と比べてやはり飛び抜けている。ソングは実体験がすべてではない。彼が頭のなかで何を想い、何を描いているのか、それが人々にコミットし得るもので、しかもジャストな音さえ鳴らすことができれば、それは天才ということになる。残念ながらケイジャンは「10年に1度のバンド」になることは叶わなかったが、ダニエルはこれから先、自らの価値観を更新し続け、それに相応しい音楽を作り続けていくに違いない。

 とにかくこのヤックというバンドは良い。少なくともわたしのまわりではむしろケイジャンより高い評価を得ているようだ。アルバムはとくに中盤の流れが美しい。個人的ベストソングは「Shook down」。現時点では2011年のベストソングかもしれない。このバンドは長く続けてくれることを祈るばかりです。

(長畑宏明)

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