VARIOUS ARTISTS『R-way Junction』(Ramp / Melting Bot)

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R-WAY JUNCTION.jpg  アンダーグラウンド・ミュージックの多くは、ブレイクという形で大勢の目に触れた後、リスナーに消費されていく過程でアンダーグラウンドに戻るというのがパターンとしてある。しかし、多くの人に名が知られた現在においても、ダブステップは高い匿名性を保っているように見える。その結果としてイメージや現象が先行しているように感じるが、本来日本の悪い面であるこの先行は、ダブステップ生誕の地であるイギリスでも同様ではないだろうか? 例えば、マグネティックマン『Magnetic Man』や、スクリーム『Outside The Box』をキッカケとしたブレイクスルーも、ダブステップと呼ばれる以前のダークな2ステップの頃から触れている者以外の人たちからすれば、突然現れたように映ったかもしれない。だとすれば、ブリアルなどのメランコリーなダブステップはさらなる解釈と再評価の余地を残していると言えるし、もっと言えば、ジェームズ・ブレイクが存在感を強めているのも、メランコリーなダブステップに対する新たな解釈や再評価の文脈上で成り立っているということだ。もちろんこの解釈や再評価の中心となっているのは、「ダークな2ステップの頃から触れている者以外の人たち」なのは言うまでもない。そして、この"捻じれ"と呼べるものがダブステップの順応性と相まって、我々の理解や消化を待つ前にダブステップは"ベース・ミュージック"となり、もしくは応急処置的に、"ポスト・ダブステップ"と呼ぶしかない領域に達してしまったのかもしれない。だからこそ、誕生から数年経った現在でもダブステップは変化し続けているし、良い意味で先が見えない曖昧模糊な状態となっている。

 とはいえ、日本オリジナル企画としてリリースされる『R-way Junction』によって、そんな曖昧模糊な現状も少しはハッキリしてくるかもしれない。なぜなら、イギリスのレーベル《ランプ》のコンピである本作は、近年のベース・ミュージックが辿ってきた潮流の一部が刻まれているからだ。《ランプ》はトム・ケリッジが主宰のレーベルで、フライング・ロータスジェームズ・ブレイクのリリースなどで知られている(前者はデクライム、後者はエアヘッドとのコラボレーションという形でのリリース)。カタログも多様なものになっていて、『R-way Junction』収録のアーティストだけでも、フライング・ロータスやサブトラクト、フェルティ・DLにトキモンスタなどのビート系やベース・ミュージックはもちろんのこと、マキシミリオン・ダンバーのようなハウスもある。クラッシュ誌のインタビューでトム・ケリッジは、ヴァイナルの購入に多額のお金を使うと語っているが、《プラネット・ミュー》のマイク・パラディナスなど、こういったオタク的な人たちが音楽シーンの中で影響力を持ちはじめている。それは音楽に対して寛容で、勇気があるからこそ持てるものだ。でなければ、マイク・パラディナスはジュークを積極的に紹介しなかっただろうし、トム・ケリッジは、今をときめくアーティストたちを次々とフックアップすることもなかった。この寛容さと勇気が、《ランプ》を注目すべきレーベルへと成長させ、ベース・ミュージックの中心に押し上げたのは間違いない。

 そして、『R-way Junction』に収録されている2曲の未発表作は、《ランプ》の未来を指し示すものになりそうだ。まずは、イギリスの《ザ・トリロジー・テープス》からのデビューEPも話題となった、ドロ・キャリー(Dro Carey)による「Velvet Mouth」。DJシャドウに影響を受けたという彼は、シドニー在住の18歳だ。ブリーピーなベースに、R&Bやヒップホップの影響を窺わせるプロダクションが特徴的な、疾走感溢れるサウンドを聴かせてくれる。FACTのMIXシリーズに登場するなど、今後のブレイクが期待される新鋭だ。もうひとつは、ステイ・ポジティブ(Stay+)「Fever」。ステイ・ポジティブはマンチェスター出身のデュオで、インディー精神に基づいたベース・ミュージックを鳴らすのが面白い。レイヴィーな熱狂を生み出すグルーヴに、キラキラとしたシンセのシークエンスが聴く者を高揚させるアンセムとなっている。サウンドクラウドで聴ける彼らの音源からは、幅広い音楽性を持ち合わせていることも確認できるし、来月ブリクストン・アカデミーで行われるフレンドリー・ファイアーズの公演で前座を務めるなど、注目度も右肩上がり。今のうちにチェックしておいて損はない逸材だ。

 本作を聴けば、近年のベース・ミュージックの流れを振り返ることもできるし、2011年以降の動きを予測した要素も散りばめられているのが分かる。『R-way Junction』をキッカケに、ベース・ミュージックの素晴らしき混沌に身を投じるのも有りだろう。

 (近藤真弥)

※『R-way Junction』は10月23日(日)発売予定。

 

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