TINARIWEN 『Tassili』 (Anti / Rice)

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TINARIWEN『Tassili』.jpg  00年代半ばに「砂漠のブルーズ」という言葉が行き来しだしたころ、ロバート・プラントはモロッコやサハラ砂漠に向かうときは、音楽そのものの強さよりも、その音楽が鳴らされている意味そのもの、原始性や祭祀性に言及していた。生命力の強さ、サハラ砂漠で行なわれるフェスティバルを基点とした泥臭いブルーズ的なうねり、そういったものにジャーナリストのみならず、世界中の音楽家も注視していた。

  今回、紹介するティナリウェンはその代表格であり、グローバルに活躍しながらも、現在はマリ北東部のキダルを拠点とする「トゥアレグ」人のグループである。ちなみに、「トゥアレグ」は、北アフリカにアラブ人たちがやってくるその前から住んでいた先住民の一つであり、砂漠を巡る遊牧民である。トム・ヨークやブライアン・イーノも熱愛するその骨太なグルーヴとレベル・ミュージックとしての逞しさは、世界中のフェスティバルやイヴェントにも呼ばれ、今年のフジロックでも圧巻のステージ・パフォーマンスでオーディエンスの心を奪ったのも記憶に新しい。

  07年の『Aman Iman』で、確固たるポジションと音を手に入れ、絶賛を受けた彼らは、原点に帰るように、前作『Imidiwan』では地元のテサリット村の砂漠に機材を持ち込んで、共同生活をしながら、リラックスしたムードで音を固めていった。リーダーのイブラヒムがイニティアヴを取り、書き下ろした曲は伸びやか、且つ、研ぎ澄まされたものであったが、そこで、頭角をあらわしたのが若いアブダラーだった。彼は、グループにアコースティック・ギターを持ち込むことを提案し、ラップ調にトゥアレグの深い歴史を語る術を表象せしめた。骨太で芯の通ったギターのグルーヴに、野性的なボーカル、そこに女声コーラスが合いの手のように絡みながら、パーカッションとリズムはしっかりと地に根付き、突き上げるような躍動感がストイックというよりは、たおやかさとフレンドリーさもあった前作から2年経ち、待望の新作『Tassili』はそのタイトル名通りに、アルジェリア南部の砂漠にあるタッシリ(Tassili)という街でレコーディングがされた。

  今作における劇的な変化といえば、あの重厚なエレキ・ギターが全面的に出ている訳ではない点だろうか。全体的に、アコースティック・ギターとパーカッションによる素朴なアレンジメントが目立つ。サンタナもティナリウェンも称賛していたが、それはあのエレキ・ギターがもたらすグルーヴとボーカル、女声コーラス、パーカッションの化学反応から発されるバイタルな熱さだったとしたならば、ここでのティナリウェンは骨身としての生々しさが砂塵混じりに増幅されて、より身近に響く。Tv On The Radioのトゥンデ・アデベンペ、キップ・マローン、ウィルコのニルス・クライン、ダーティー・ダズン・ブラス・バンドなどの参加も功を奏し、アレンジの幅では過去作の中では一番と言えるかもしれない。

  1曲目の「Imidiwan Ma Tenam」から、隙間の目立つアコースティックなアレンジといつもより抑え目のボーカルやコーラス・ワークに少し驚く人も多いかもしれないが、その分だけ、「間」を活かし、過去の作品群になかったような風通しの良さを得ているのも確かだ。3曲目の「Tenere Taqhim Tossam」での軽やかな響きはこれまでにはなかったものだし、これまでは、どちらかというと「土臭さ」と繰り返されるデモーニッシュな響きが特徴的だったが、今回はよりミニマルにサウンドが絞られ、幾本ものギターのシンプルなフレーズが有機的に絡み合いながら、じわじわと「深み」へと連れてゆくという、初め聴いた印象は地味かもしれないが、聴けば聴くほど新しい発見がある内容になっている。そして、声の「生々しさ」やコーラスの幽玄さも含めて、サイケデリックな要素が一番、強く出ている作品とも言える。ワールド・ミュージックや砂漠のブルーズといった冠詞を越えて、フラットに「ロック」の快作として、良い一枚になった。

  オリエンタリズムには常々、エキゾティックな東洋的な趣味が含まれているが、中でも「砂漠」という呼称に魅かれる作家やアーティストは後を絶たない。例えば、フローベールが砂漠のイメージに視たのは雄大、尽き果てぬ天上への想いであり、元来の自然の持つ強さの中に、果てしない実存と旅の「先」について孤独に思念を紡いだ。今、ティナリウェンは「砂漠のブルーズ」というような名称の下で語るには無理があるくらい、汎的な音楽の豊かさを手に入れた。この作品を通じて、「トゥアレグ」の歴史背景を考えながら、更に、イメージではない、「砂漠」の砂塵を掻き分けながら、鳴る音楽の意味を嚥下してみるのもいいと思う。

(松浦達)

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