THE WOMBATS 『Proudly Present...This Modern Glitch』(14th Floor / Hostess)

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The Wombats.jpg  筆者とザ・ウォンバッツとの出会いはアメリカだった。最初に日本で彼らの7"「Backfire At The Disco」を買い、そして世界初となるアルバム『Girls, Boys And Marsupials』(共に2006年リリース)を日本の《Vinyl Junkie》からリリースしたことで「インディー・ポップ・バンド」としての彼らを知ることとなった。そして翌2007年、まだ本国でもアルバムを出していなかった頃(本国UKでは2007年にデビュー・アルバムとして『Proudly Present: A Guide to Love Loss & Desperation』をリリース)、アメリカに彼らのライヴを観に行った。当然ラストを飾ったのは「Backfire At The Disco」。しかし新曲もプレイした彼ら、特に印象に残ったのが「Let's Dance To Joy Division」という曲だった。ただポップなだけではなく、彼らの隠れたルーツや影響を垣間見た気分になった。

  当時(2006年~2007年)のザ・ウォンバッツの一般的イメージはもっぱら「ポップ」であった。イギリスはリヴァプールの3ピースということである種それは当たり前の気がしていたのだが、たまたまアメリカ滞在中に同じホテルに泊まっていたためロビーでご挨拶すると、日本から来たというだけで3人共興奮気味! 何せ世界中で唯一のアルバムがリリースされている国なのだから、そして西新宿に店舗を構えていた頃のVinyl Junkieにもちょくちょく行っていたのでオーナーとも面識があり、日本で音楽雑誌の編集をやっているとくれば、かなり食いついて来てくれた。私が英語を上手く喋ることが出来たら是非取材を敢行しようと約束したのだが、結局出来ずじまいで残念な結果に終わってしまった。しかし滞在中の約1週間の間はヴェニューの近くですれ違うたびに声をかけてくれ、同行していた親御さんにも「彼女は日本の音楽雑誌の編集でライターをやっている」と紹介してくれたりもした。本当に、フレンドリーでナイス・ガイな3人だった。特に「I'm from Norway」と言っていたリヴァプール育ちのノルウェー人ベーシストは、同じ北欧のMewの大ファンだと言い、筆者にもMewについていろいろ語ってくれたしおすすめもしてくれた。彼だけは好みが若干他の2人と異なっているようで、そのとき「この人たちはただのポップ・バンドではないな」と確信したのであった。

  そんな彼らの満を持した新作は、邦題が『ディス・モダン・グリッチ ~ポップ中毒患者への処方箋~』と名付けられている。これは一般公募した中から選ばれたもので、「ポップ中毒患者」という言葉がやはり今までの彼らのイメージを引き継いだまま考えられたタイトルだと推測する。だが実際にはメチャメチャエレクトロ・サウンドになっているのだ。ややレトロで非常に大胆なシンセをとにかく多用し、多種多様な音楽が生まれるリヴァプールに相応しい個性的なバンドへと完全に生まれ変わっている。変わらないのはキャッチーなところか。アルバム全体としての完成度、クオリティ、統一感も素晴らしく、いい意味で裏切られた作品と言えよう。当然「インディー・ギター・ポップ」を求める人たちも決して少なくないと思う。だがシンセが入ったからといってギターがなくなったわけではない。彼ららしさはきっちりと残っている。

  アルバム全体を通して聴いてみると、MySpaceなどで1曲ずつ視聴するのとは全く印象が変わっているのが本当に驚かされた。これから発売される日本国内盤には本編に負けないくらいのたくさんのボーナス・トラックが収録されるとのこと。その数、実に8曲! これは是非とも国内盤を買ってみたいと思わざるを得ない。これを書いている時点では発売前ということでそちらはまだ聴くことが出来ないが、果たしてエレクトロ路線で攻めてくるのか、或いは前作と今作の約4年のブランクにおける「中間的」転機真っ最中の音源が聴けるのか、今から楽しみでならない。

  尚、今作ではプロデューサーにザ・ウォンバッツ自身の他Rich Costey、Eric Volentine、Butch Walker、Jacknife Leeといった有名人が名を連ねている。これらの名プロデューサーが前回プラチナ・ヒットを叩き出したプレッシャーをはね除けるべく現在のザ・ウォンバッツの楽曲たちを使ってうまくアルバムを一つの音楽作品として世に出そうと一役二役買ったのだろう、全体的に隙という隙が全く見当たらない完璧な仕上がりになっている。

  決してこれまでの彼らを知っている必要はない。むしろ新しいファン獲得にはもってこいの出来ばえで、初心者にも入りやすい作品になっている。とはいえ、これまでのファンの方々にも彼らの生まれ変わった変化ぶりを一聴してみてほしいという気持ちもあるので、結果論としては万人におすすめ出来るアルバムとなっていると思う。これを機会に、是非お手に取ってみてはいかがだろうか。

(吉川裕里子)

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