【合評】THE DRUMS 『Portamento』(French Kiss / Universal)

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THE DRUMS.jpg  彼らのファーストの冒頭を飾っていた「Best Friend」は死んだ友達をずっと待ち続けている、という切実な歌詞を躁状態のサウンドに乗せた傑作だったが、今作も決してただダウナーに陥ることなく、だが音の雰囲気はガラリと変わって、ファーストを昼から夕方にかけてのアルバムとするならば、今作は夜のアルバムだと言えるかもしれない。「Money」のPVの、あの薄暗いトーンとメンバーの「爆発してしまう寸前」のようなテンションが、まさに今作を象徴している。そしてその「Money」は彼らのソングリストのなかでも屈指の名作だ。《おれは君のため・ノ何か買ってあげたいけれど、そんなお金はどこにもない。車を持っていたらそれを売っても良いし、銃を持っていたらそれを売っても良い。だけど、おれは何も持っていない。死ぬまでに君に何かしてあげたい》。せわしなく動くギターとベースのフレーズがこのリリックにぴったり寄り添っていて、情けなくもユーモラスである。これを日本の汗臭い青春バンドにやられたら台無しなんだけどね、彼らはこういうの、ほんとうにうまくやるよね。

 だけど今作のベスト・トラックは別にある。その曲は「I Don't Know How To Love」というタイトルで、《3カ月前まで君の髪を触ることができたのに、いまはそれをしても君を混乱させるだけだ》《君はおれを愛する方法が分からない、ただ自分の人生が分からない、と言う》《なぜもっとおれを愛してくれないんだ》と歌われている。そしてリリックに登場する主人公が感じているであろうもどかしさをもっとも完璧に表現しているパートは、コーラスとコーラスのあいだに入る間奏部分にある。このシンプルで美しいギターの旋律はそれ自体が「なんで?なんで?」という感情の堂々巡りのように聴こえてくる。そしてこのあとに電子音のみをバックに《いま、僕たちは天国を求めているんだ》というフレーズが繰り返される「Searching For Heaven」が続く。とても良い流れだ。

 ドラムスのセカンド・アルバムはファーストの何倍も素晴らしい。真夜中の海に潜って海底に非現実的な光景を目にした時のような、夢心地を味わうことができるアルバムだ。ほぼ「Let's Go Surfing」1曲で次世代の窮児ともてはやされ、ファッション・アイコンとしても一目置かれるような存在になり(スキニーにホワイトの靴下にスニーカー。うむ、完璧だ)、彼らにはお決まりのプレッシャーが襲いかかってきた。メンバーを1人失い、危うくバンドも失うところだったが、思ったよりも早く精神的復帰を果たし、ニューウェイヴの香りがとくに強く残っている曲たちを集めたアルバムを完成させた。今作は現実に打ちのめされた悲しさもそこかしこに散らばっているアルバムではあるけれど、あくまで飄々として、ときどき笑ってしまうくらいハイテンションな彼らが2010年代の新たなヒーローだ。

(長畑宏明)

 


 

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  すごく真っ当な進化をしたアルバムだと思う。エレクトロニクスを多く導入し、歌詞でも人生におけるネガティヴな側面やダークな感情といったテーマを多く取り上げている。音楽的に新機軸と言い切れるものはないけど、実験的になりすぎず、ジョナサンとジェイコブが元々好きだったクラフトワーク的なエレ・ポップの要素と前作の50~60年代クラシック・ポップの要素が絶妙に絡み合っている。前作『The Drums』の頃から音楽的教養の高さを感じていたが、セカンド・アルバムである本作でようやくそれが明確に発露したということだろう。

 

  発露と言えば、冒頭で少し触れたように歌詞面が興味深い。生きる上での戸惑いや、どうしてもコントロールできない衝動など、絶対答えが出ないであろうテーマや感情についてジョナサンなりに考察し悩んでいる姿が惜しげもなく披露されている。しかしそれは華奢で不安定な心の揺らぎから生じているものではなく、TV Brosのインタビューでも語っているように「違和感や緊張感や軋轢は、創造性を育むには最高の土壌なんだよ」と認めてしまえる強さからくるものだ。まあ、この「違和感や緊張感や軋轢」を誇大して被害妄想も入り乱れるような物語にしちゃうと癪に障るが、ドラムスの場合いまのところ地に足を着けた"内省的に開放する"という境地にいるから頼もしい。それはポップであろうとする曲群にも表れているし、自分たち以外の他人や現実に対して何かを求めていることが聞き取れる。つまり、『Portamento』はここで僕たちはその日その日を生きていくという彼らなりの力強い宣言書のようなアルバムであり、ダークな雰囲気に包まれながらも着実に前進していく非常に前向きで光に向かっていくものだ。

 『Portamento』も『The Drums』と同様にラジオやクラブで流れるだろうし、街を歩いていても彼等特有の親しみやすいメロディーが聞こえてくるはずだ。しかも今回は、そのメロディーに多くの人々が進んで見つめようとはしないが決して避けることのできない感情や体験を乗せている。しかし、それでも『Portamento』は時代のサウンドトラックになるだろう。なぜならば、メロディーに勝るとも劣らないくらいそこで吐露されているものが我々の心を掴んで離さないものだから。そういう意味でも、『Portamento』は時代を象徴する素晴らしいアルバムなのは間違いない。

(近藤真弥)

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