SACOYAN 「Tivu Folded Shelves」(同窓会)

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sacoyan.jpg  まず《同窓会》というレーベルについて簡単に説明すると、《同窓会》は2011年9月11日の5作同時リリースを皮切りにスタートしたネットレーベルで、公式HPに掲載されている主宰者のコメントを引用すれば、「オルタナティブ・ポップミュージックをインターネットで拡散していくことを目的としたネットレーベル」だそうだ。クッキーシーンにおけるTropicsのレビューでも触れたけど、何かを対象としたカウンター・カルチャーが成立しづらくなった現在において"オルタナティブ・ポップミュージック"と銘打つのはとても興味深いし、むやみやたらとナード音楽を持ち上げようとしない姿勢や個性豊かなリリース楽曲群も含め、今後の活動が楽しみなレーベルであることは間違いない。

 さて、その《同窓会》から新たにリリースされたミニ・アルバムがSacoyan 「Tivu Folded Shelves」だ。本作は、Sacoyanが持っている溢れんばかりの才能が詰まった素晴らしい作品となっている。神聖かまってちゃんもインタビューで彼女の名を挙げたりしているから名前だけは聞いたことあるという人もいるかもしれないが、僕がSacoyanの存在を知ったのはニコ生がキッカケで、初めて触れた作品はファースト・アルバムにあたる『虎モ猫になる』だ。そこに収録されているチープでありながら破壊力と繊細さが共立した楽曲群に完全ノックアウトされてしまった。そして「Tivu Folded Shelves」ではその破壊力と繊細さに加えて、壮大なコンセプトのようなものも取り入れるなど非常に興味深い音楽を鳴らしている。特にサイケデリックなローファイ・ポップに仕上がっている「アグニの煙」という曲がそれを顕著に表していると思う。"アグニ"とはインド神話に出てくる火神のことで、この世の人間と天上を繋ぐ存在とされている。アグニは儀式の祭火としての役割もあり、その祭火に投じられた供物は煙となり天に届けられるそうだ。この神話を歌詞という形で引用しているのは容易に推察できるが、「とろける炎に夢をみたよ / あなたはまるで燃える糸」という一節が「アグニの煙」に影を落としているよう見える。「あなた」は我々であり、「燃える糸」が天に上る煙だとしたら、メタ的な視点を通してSacoyanが見つめた現実そのものではないだろうか? もっと憶測を深めれば、「とろける炎に夢をみた」という一節も窮屈な日常からの脱出を願う非常に切実で死と隣り合わせな叫びと取ることもできる。

 アルバムを通して聴いても、《ミスタードーナッツでブレンドをずっと飲んでいた / すみません、ボールペンをお借りしてもよろしいですか / 店員さんのまばたき / 油と砂糖のにおい / こいつらみんな生きている》という一節が日常的な風景を見事に描写している「指もんを迷ろする」があれば、《この門は開いてるよ / こっちだよ、こっち / きみを呼んでるよ / 一面が花模様 / とっても恐かったことがふわふわ浮いて / 白くなっていくね》と、まるであの世を想起してしまうような言葉が登場する「花模様」など、本作でのSacoyanは"天"への憧れを地上から吐露しているように思えてくる。さらには「Tivu Folded Shelves」のラストを飾る「決裂」だ。ファンファーレのように鳴らされているこの曲は、いったい何を意味するのだろうか? "祝福"の意味も内包するファンファーレだが、「決裂」と名づけられた曲で祝福というのも彼女のユニークなセンスが出ていて面白い。

 ちなみにSacoyanのホームページでは、既に次のアルバムに向けた予告がされている。次回作はその名も『Ate』だそうだ。『Ate』はギリシャ神話の女神であるアーテ("アーテー"と表記する場合もある)を表す言葉であり、破滅や妄想といった意味も含有する。ギリシャ神話によると、アーテが地上に堕とされ人間と暮らすようになった結果、人間は愚行や悪事を犯すようになったとされている。さらには日本語の"宛・行き先"といった意味もあるらしく、どうやら『Ate』は様々なダブルミーニングが込められたタイトルのようだ。

 現在Sacoyanはニコ生を中心としたネット界で人気急上昇中とのことだが、「Tivu Folded Shelves」を聴けばそれも分かる気がする。それは彼女の目と心を通した"あなたの風景"が音楽として表現され、それが多くの者の琴線に触れているからだろう。ゲーテの名詩である「幸福と夢」のような、儚い喜びと哀しみが混在した本作は、間違いなく2011年のいま聴かれるべきアルバムだ。

(近藤真弥)

追記: 「Tivu Folded Shelves」は《同窓会》のホームページからダウンロードできる。

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