A WINGED VICTORY FOR THE SULLEN『A Winged Victory For The Sullen』(Kranky)

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A WINGED VICTORY FOR THE SULLEN.jpg  2011年の上半期はダスティン・オー・ハロラン(Dustin O'Halloran)の『Piano Solos Vol.1 And 2』というアルバムを愛聴していた。それは、過去リリースされた彼の作品の内、入手困難な2004年と2006年のピアノ作品集を二枚組にして再発したアルバムであったのだが、これが今年の(正確には今年ではないが、アルバム二枚の間における不思議な統一性は特筆すべき)私的なベスト・アルバムになるのだろうと、漫然とタカを括っていた。しかしながら九月に至り、思わず唸らざるを得ないアルバムが再びリリースされてしまった。それがア・ウィングド・ヴィクトリー・フォー・ザ・サレンというプロジェクトのファーストだ。ドローン・アンビエントの雄であるスターズ・オブ・ザ・リッド(Stars Of The Lid)のAdam Wiltzieが立ちあげたユニットであるのだが、蓋を開けると悔しいかな、彼の新たな活動を共にするのはダスティン・オー・ハロランなのである。記事の多くは、このプロジェクトを通過した先にあるスターズ・オブ・ザ・リッドの新作に想いを馳せているが、ダスティン・オー・ハロランだって何も劣ることはない。

 敬虔なアルバムである。チルアウトという一言で片付けることを拒む、宗教的な荘厳さと神秘的な美しさを秘めている。スターズ・オブ・ザ・リッド直系の、シネマティックなドローン音は過度に持続しすぎず、生々しく余韻を残す。ストリングスやホルンなどによるオーケストレーションは輪郭がぼかされ、不鮮明でくすんだレイヤーとして滲むように響く。それらが曖昧に溶けあうことで浮かび上がる重厚なアンビエントを背景に、ダスティン・オー・ハロランのノスタルジーで色彩感の無いピアノが響く。ユニット名の通り"高遠"なピアノは、ベルリンのグリューネヴァルトという教会でレコーディングされたものであるようだ。

 アルバム内には、スパークルホースのフロントマンであったマーク・リンカスの死を追悼する曲が収録されている。鎮魂のために捧げられた曲は一曲のみであるが、その曲がアルバムの流れや統一性を損ねたり、ぎこちなさを醸し出したりすることはない。そういった敬虔さがアルバム全体に浸透している点から、このアルバムの本質を垣間見ることができる。ゲストにはピーター・ブロデリック、ニルズ・フラーム、フランチェスコ・ドナテロ(ジャルディ二・ディ・ミロ)、Hildur Gudnadottirなどが参加しており、華々しい手向けとなっている。美しいアンビエント・ミュージックの一つの理想系であると、昂然と評す価値のある作品である。

(楓屋)

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