808 STATE 『Blueprint』(ZTT / Salvo)

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808 state『Blueprint』.jpg  今回リリースされた『Blueprint』は、808 Stateにとって『808:88:98』以来となるベスト・アルバムだ。こういった類のアルバムに必ずと言っていいほどついてまわる議論といえば、「なぜこの曲を入れたのか? どうしてあの曲を選ばなかったのか?」といったものだと思うけど、ゴリゴリなアシッド・ハウスが詰まった彼らのファースト・アルバム『Newbuild』から、オリジナルとしては今のところ最新作である『Outpost Transmission』までのディスコグラフィーを代表曲やファンの間で人気が高い曲などで振り返ることができる。その点に関してはバランスよく文字通り「入門編」として最適な選曲になっているが、もっと『Newbuild』の曲を入れてもよかったんじゃない?

『Newbuild』はローランドのDIN Syncを駆使して作られたアルバムで、当時のアシッド・ハウスにしては珍しく音楽的な要素が満載。一応リチャード・D・ジェイムスがAFX名義でリミックスしたヴァージョンの「Flow Coma」が収録されているけど、せめてオリジナル・ヴァージョンを入れてほしかった。他にもNew Orderのバーナード・サムナーが参加した「Spanish Heart」や、マッシュアップの先駆的な曲と言ってもいい「One In Ten」など、808 Stateが現在の音楽シーンに及ぼしている影響力を確認するという意味でも、他に収録する曲はあったんじゃないか? と、『Blueprint』を聴きながら考えたりしていた。でも結局のところ僕は、嬉々と本作を聴いていたりする。9曲が新曲と未発表トラックで、まあ、そこはある程度彼らの曲を聴き込んでいないと楽しめない部分でもあるが、なんだかんだいっても僕は808 Stateが好きなんだなということをあらためて確認させられてしまった。

 正直、リアルタイムで聴いてきたわけじゃないアーティストについて書くということに対して、抵抗感がないと言えば嘘になる。そりゃ当時の空気や時代の流れを知っている先輩方のほうがいろいろトリビアも書けるだろう。それでもここまで808 Stateに入れ込むようになった理由を書かせてもらうと、現在の音楽を取り巻くような状況と似たような"同時代性"を感じるからだ。例えば『ex:el』の裏ジャケットには使用した機材が載ってるんだけど、そのどれもが"宅録オタク"と呼ばれる人たちに使われている物がほとんどだし、金持ちしか使えないような高価機材というわけではない。杉田元一さんによる当時のライナーノーツに書かれた「音楽とは、(中略)テクノロジーに頼るのではなく、それをいかに使いこなすかという、センス次第なのだということを彼らはここでアピールしているのだろう」という一文がすべてを物語っているが、これは低価格化が進むと同時にDAWが一般化し多くの人がプロレベルの環境に手が届くようになり、結果として作り手の創造性や独自のテクニックがより鮮明になることによってそれがひとつの"売り"にもなってしまう現在と重なるようには見えないだろうか?

 また、いま述べたようなことと少し掠るかもしれないが、ポスト・パンク時代の音楽や精神を借用したりそのまま引き継いだような音楽を鳴らすアーティストが未だに出てきている。それは音楽を作る際に過去の歴史を振り返ったとき、ポスト・パンクという音楽がもっともアイディアとヒントが隠された宝庫だからだと思うけど、808 Stateもそういった存在になったということだ。クラフトワークやYMOはもちろんのこと、フュージョン、ヒップホップ、ラウンジ、ロック、アンビエント、ファンク、そしてエキゾチカ・ミュージックなど、彼らの音楽にはそれこそ数えきれないほどの要素が混在し、それらが自然かつ美しく融合し構築されている。これもまるで、音楽がフラット化し様々な音楽を掛け合わせることが当たり前になった現在と似ていなくもないが、時代の要請によって半ば強制的にそうせざるをえない今とは違い、808 Stateは自ら幅広い音楽性を取り込んでいった革新者という点を見逃すべきではないだろう。

「Pacifc State」は808 StateなりのDerrick May「Strings Of Life」を作ろうとして生まれた曲だが、そのDerrick Mayは後に『Innovator』と名づけられた楽曲集をリリースする。そして808 Stateは、『Blueprint』と銘打ったベスト・アルバムをリリースした。Derrick Mayは"イノヴェイター"として道を切り開き、そこに808 Stateは"青写真"を描いた。その"青写真"は石野卓球や《Transonic》などによって日本にも広がり、909 Stateという名のアーティストが出てくるまでになった、というのはロマンティックが過ぎるだろうか? しかし僕にはどうしても、すべてが繋がっているように見えてしまう。

 英NME誌は、808 Stateの最高傑作(と僕は思っている)『90』を「マンチェのヤツらをクラフトワークなど先達と比肩させうる作品。最新鋭、そして90年代のブループリント」と評したが、90年代どころかまさしく"今"のブループリントだと僕は思う。つまり、808 Stateは常に"可能性"であり続けてきたし、それは今でも変わらないということだ。この事実を『Blueprint』は、まざまざと我々に見せつけてくる。これを読んでいる808 Stateを知らない人達も、この機会に光り輝く"可能性"の一端に触れてみてはいかがだろうか。

(近藤真弥)

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