THE VINES 『Future Primitive』 (Sony)

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THE VINES『Future Primitive』.jpg「ザ・ヴァインズが帰ってきた!」なんて台詞は残念ながら、クレイグ・ニコルズがアスペルガー症候群で心身ともに疲弊しきっているというアナウンスがされてから、ニュー・アルバムをリリースする際にもう何度も聞かされてきたし、多くのファンが言ってきた。しかし、この台詞が繰り返されること自体が、もう一種の皮肉だ。だって、本当にコンスタントに「帰ってきている」のならば、そんな台詞は一度で済むはずだから。彼らは、サード・アルバムである『Vision Valley』以降、幾度となく再生と挫折を繰り返してきた。件の台詞は、その『Vision Valley』をリリースした時よりも、次作『Melodia』をリリースした時の方がよく聞かれた感覚がある(もちろん前者の時点でも相当の声が聞かれたが)。英米ではコケてしまったが、本国や日本ではそれなりに評価された(むしろ個人的には、勢い偏重なところも見られたデヴュー・アルバムよりも豊満なメロディと共にこちらの方が重要作のように思えた)『Winning Days』同様にクレイグが手がけたアルバム・ジャケットや名曲「Get Free」を思わせるタイトルの「Get Out」なども注目され、再び世界にヴァインズの勢いをぶつける!と思わされた『Melodia』だったが、本国でのチャートでは少し持ち直したものの、英米はほぼ無視状態と状況は変わらなかった。日本でもファンは受け入れ、来日ツアーも決定し、期待を募らせたが、直前になってクレイグの病状が著しく悪化したとのことで、全公演がキャンセル。多くのファンが、クレイグの状況を不安に思いながらも落胆してしまったのも事実だろう。往年の彼らの勢いを鑑みると、やはり苦境の中にいると感じざるをえない。

  さて、そこで豪州のソニーと契約し再び大々的にリリースされたのが本作、『Future Primitive』だ。どこかレディオヘッドの『In Rainbows』を彷彿とさせるジャケットもさることながら、リード・トラックとしてアルバム・リリース前から発表されていた曲を聴いて驚いた。その名も「Gimme Love」。MVもアルバムより先に公開され、Twitterの公式アカウントでファンの感想も募るなどしていたこの曲、MVで焦点の定まりきっていない目をしてストラトをかき鳴らすクレイグが、《愛をくれ、俺に愛をくれ。マジでそれが欲しいんだよ》と絶叫する様を観て、ヴァインズも(良い意味で)ほんの少しずつ変わってきてるのだ、と感じた。曲自体は、「ビートルズ・ミーツ・ニルヴァーナ」(個人的には、ザ・ビートルズよりもザ・キンクスを当てはめた方がより的確では?と思う場面も多々あるが)の衝動に変わりはないが、Fで始まるワードを繰り返し吐き出し、自らの状況に中指を立てまくって「俺はお前らみたいなんじゃない!早くここから抜け出たい!」と、叫んでいた頃からすれば、「愛がほしいんだ」なんてフレーズは、ふと出た本音でしか考えられないが、今、率直にそれを打ち出すのは、遂にクレイグも焦燥と怒りと(状況が変わらないことへの)嘆声だけでなく、愛憎入り交じった表現につっこんできたのだ、と思わせられた。

   思えば、彼らはまだ決定的な敗北が見えていない時から、《勝利の日々は過ぎ去った》(「Winning Days」)と、豊穣なメロディと共に歌っていたが、そこから実際に「敗北の日々」を重ねた後に、今更かというように開き直りかのような「愛をくれ」と歌うのは、むしろ彼らの(と言うか、クレイグ・ニコルズの)生のドキュメンタリーを見ているように生々しい。とは言え、アルバム全体を見れば、相変わらず、3分以内のガレージ・ポップ・ソングとサイケデリック・ソングが大半だし、タイトル・トラックの「Future Primitive」ではスペシフィックなシンセサイザーの響きが心地良いが、これも「Futuretarded」などの過去の曲で、その兆候は既に見られる。ちなみに『Highly Evolved』から、半ばシリーズ化している「Autumn Shade」も、「A.S.4」として4作目が収録されている。

  しかし、このアルバムは良盤である。先程までの連ねてきた言葉を見れば、「進歩がない」とすら見られそうだが、それでも、だ。そもそも彼らがデヴューした時は、時代の流れもあり、先の「ビートルズ・ミーツ・ニルヴァーナ」なんて形容も持ってきて、ガレージロック・リヴァイヴァルと評されてきた。同じ枠組みで捉えられてきた経歴を持つ、ザ・ストロークスやザ・ハイヴスなどが作品をリリースする毎に新しい方法論を見出し「更新」されていっているのに比べれば、ザ・ヴァインズはその更新具合は、亀の歩みであるとすら言えるだろう。実際に、『Vision Valley』以降は、先のシンセの遊びも含めた種々のアプローチもしかけているが、それも微々たるもので、基本的にザ・ヴァインズというバンドは、ガレージ・ロックとネオ・サイケデリックが基本の2軸だろう。
 
  これを先のように「進歩がない」とする見方も出来るが、「変わらない頑固さ」「職人気質」とも見ることはできないだろうか。元々、一つのことに集中しだすと、それにのめり込んでしまうクレイグのことだ。バカ正直にこの道を突き進め続ける青年たちと見ても悪くないだろう。実際に、今作の「Gimme Love」も前作の「Get Out」も前々作の「Gross Out」も曲自体のクオリティとしては往年の必殺チューンに負けず劣らずの説得力があるし、その面ではむしろ、安心のクオリティを保ち続けているとも言える。たしかに、目を見張るような革新性は生まれていないが、例えばダイナソー・ジュニアがそうであるように、一つの確固たる方法論の下に長年信頼され続けているアーティストに彼らがなることは不可能だろうか。このアルバムのラストを飾る満点のパワー・ポップ曲、「S.T.W.」のフルタイトル、「Screw The World」のように、むしろその頑固な美しさで、世界を掻き回し得る存在にならんことを願わんばかりだ。このアルバムは、その彼ら特有の色をいつも以上に引き出しているアルバムである。

  これからヴァインズはどう進んでいくのだろうか、破滅の道を歩むか、あるいは、本当の帰還を果たすことに成功するのか...まだ分からない。でも、彼らは現時点では「未来は未開拓だ!」と鳴らしている。その言葉の行く先を見届けたいところだ。

(青野圭祐)

※国内盤は8月24日リリースです。

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