MACHINEDRUM 『Room(s)』(Melting Bot / Planet Mu)

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  日本においては、未だにダブステップについてあまり理解が進んでいないようにも見えるが、そうこうしている間にも、海外では新たに注目されているベース・ミュージックが存在する。それはシカゴを発祥とする"ジューク"と呼ばれるものだ。

 シカゴにおけるジュークは、シカゴ・ハウスから続く長いアンダーグラウンド・ミュージックの歴史に連なるものだ。よくジュークは「突然変異の音楽」と言われたりもするが、同時に、過去の偉大なるアンダーグラウンド・ミュージックの後継者に相応しい、謂わば「正統」と呼べるものも内包している。それはヨーロッパにも飛び火して、特に《Booty Call》や《Moveltraxx》といったレーベルが元気なフランスでのジューク熱はかなり高い。もちろん本場シカゴにはTraxmanという重鎮がいるし、ここ日本でも、D.J.Fulltonoが主宰する《Booty Tune》が重要な働きをしている。そして、ジュークが世界的に注目されるキッカケを作ったレーベルで外せないのが、《Planet Mu》だ。

 《Planet Mu》といえばIDMなどのイメージが強いかも知れないが、2005年あたりからグライムやダブステップのリリースが始まり、現在はジュークのリリースにも力を入れるなど、常にベース・ミュージックの第一線を走り続けてきたレーベルでもある(《Planet Mu》からリリースされたジュークのコンピレーション・アルバム『Bangs & Works Vol.1: A Chicago Footwork Compilation』は必聴盤)。

 そんな《Planet Mu》の現在を示すアルバムが『Room(s)』だ。マシーンドラムによるこのアルバムは、全世界のレコードショップにとって新しい悩みの種となるだろう。というのも、『Room(s)』にはテクノやダブステップ、ヒップホップにエレクトロなど、いくつもの音楽が混在している。その中でも特に目立つ要素が、前述したジュークだ。160近いBPMにぶっといベースがジュークの主な特徴として挙げられるが、シカゴやフランス産のジュークに多いストイックなトラックのそれではなく、R&Bの視点からジュークのプロダクションを取り入れたようなものになっている。僕も『Room(s)』を手に入れてから何度もDJでスピンしているけど、フロアで有効なのはもちろんのこと、『Room(s)』の魅力がより分かりやすくなるのはホーム・リスニングだろう。元々ポストPrefuse73として注目を集めたマシーンドラムだけに、職人芸とも言える音作りには定評がある。ひとつひとつの音が繊細で、ビート・プログラミングも秀逸。ベロシティ(音の強さ)など、細かいところまで神経が行き届いている。

 現在のベース・ミュージックのもっとも面白い部分のひとつとして、あらゆる音楽を横断し纏めてしまう編集能力が求められていることだろう。現在それをもっとも興味深い形でやっているのは、最近「Satin Panthers」をリリースしたハドソン・モホークだが、マシーンドラムは、ハドソン・モホークとはまた違う表現方法を用いている。ハドソン・モホークの場合、音楽的文脈に沿って聴くことに無理が生じる。というのも、ハドソン・モホーク自身意識的に他とは違う音楽を作ろうとしているし、その結果として、彼の音楽には「歴史性」が存在しない。あくまで自分の音楽体験を基に、ハドソン・モホークは音楽を生み出している。一方のマシーンドラムは、音楽的文脈を踏まえている。アルバムごとに作風が変わるのも特徴のひとつであるマシーンドラムだが、その都度「同時代性」を取り入れることで、彼は進化を続けている。

 しかし、マシーンドラムとハドソン・モホークには共通点もある。それは、様々な音楽を「接合」することによって曲が形成されている点だ(決して「切断」ではない)。「切断」は文化の「断絶」を引き起こし、これを主因とした細分化によってバラバラになってしまったものを、2人は再び繋ぎ合わせ「あるべき場所」へ、もしくは新たな居場所を与えているようにも見える。視点は違えど、2人のやろうとしていることは一緒だと思う。

 ちなみに僕が最近のベース・ミュージックを熱心に聴いているのは、「接合」による未知なる領域の拡大に対して興奮を覚えるからだ。こうしたダイナミズムというのは、ポスト・パンク以降のロックが時の流れと共に失ってしまったものだから。ブライアン・イーノとデヴィッド・バーンによる『My Life In The Bush Of Ghosts』以降、マルコム・マクラーレン『Duck Rock』、これに影響を受けたアート・オブ・ノイズ、さらにはダブステップなど、主にロック以外の音楽が「接合」の役割を担ってきたのは、偶然ではないと思う。これらの音楽によって彩られた文脈から生まれた「今」、それが『Room(s)』というアルバムだ。

(近藤真弥)

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