LILLIES AND REMAINS at 京都クラブ・メトロ 2011/5/15

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 生の震撼や硬直が、経験的苦境がその中にまで及ばないこの場所、不気味な規範の抑圧からの避難を許すと人々が信じているこの領域においてさえも、反照しているならば、生とは今日、なんと根本的に混乱したものであることか。人々への約束が果たされるのは、彼らが期待するものを拒否することによってのみなのである。(T.W.アドルノ『新音楽の哲学』より)

 セカンド・フルアルバム『TRANSPERSONAL』を引き下げてのツアーの4箇所目となる京都公演に密着してきた。会場は京都でも老舗のクラブでもあるメトロ。名古屋、福岡、広島でも手応えはあったみたく、昼2時過ぎに入り、リハーサルから覗かせてもらったが、以前に自分が観たときよりも圧倒的にバンドのグルーヴが太くなっており、そして、何より力強さと色香が増していたのが特徴的だった。旧曲も勿論いいが、新譜の中でもリフが印象的な「Effectual Truth」やポップでクールな「You're Blind」辺りは特に肉体性を帯びて、再写されることで、よりくっきりと輪郭が立体性をもって浮かび上がって、聴こえた。何より、メトロそのものの音響も良く、バンド・メンバーたちも納得している様子だった。寝不足気味というKENTもコンディションも良さそうで、彼も大学時代を過ごした京都での公演ということもあって、柔らかにリラックスした印象も受けた。
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 なお、僕自身、何故に今回、彼らのライヴに密着したいと思ったのか、それは「素材」として人間的なものを傷つけ続ける音楽が多い中で、対位としてあくまで聴衆へ向けて希望的な何かを投げてくれる偶然とも言えるようなミメーシスが行なわれる可能性を感じたからに尽きる。実際、今回、心理学者のマズローのトランスパーソナル心理学に影響を受けた歌詞は、高度マテリアリズムが疎外する個を奪回しようとする高潔な精神性に溢れていたし、サウンド自体はゴシック的な黒さやニューウェイヴ的な繊細さからシンセが入り、リズムやビートがビルド・アップされたことで一気に華やかと逞しさを得ており、メディアのインタビューでKENTも言っていた「今、ロックって聴く絶対数が少ないと思う。でも、例えば、BOØWYってニューウェイヴじゃない?」なんて言葉を反芻するまでもなく、今、ストイックな恰好良さとポップなフィールドへ訴えかける美学を持っているバンドとして、注目度は俄然、高まっているのを体感したかったのも大きい。

 確かに、今、「メディア、スローガンとしてのロック」という紋切り型の記号は罷り通っているが、それはライフスタイル・チョイスのようなもので、服を着替えるように忘れさられてしまうようなものでもある。また、並行して、蛸壺化が進むシーン内では共犯言語で「自分たちは、これは分かるよね。」を相互確認するだけの妙なエリーティズムが付随したものになってしまっている部分がある。しかし、フラットにロックとは恰好良いもので、退屈と倦怠、ありふれた日常から、地続きのまま、ふと日常の視界を変容させる力を持った芸術であって、ユースの難渋な自意識をコロニアル化し、スポイルするものでもない筈だと思う。是非、今回のクッキーシーンにおけるインタビューも見て頂きたいが、リリーズ・アンド・リメインズはそういったところに十二分に自覚的であり、フラットなロックの恰好良さをまっとうしようとしている毅然とした姿勢がある。

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 夕暮れどき、ライヴ会場のメトロの上にあるカフェで少しKENTと話す時間を持つことができた。その際にテーマになったのは既に「次のヴィジョン」についてのものだったが、ダブステップやジェフ・バーロウというキーワードが行き交いながら、より音響工作への目配せを高めてゆくだろう、という言葉を聞くことが出来たのは頼もしかった。それがヘビーな形でリプレゼントされるのか、また、より拓けた形になるのか、それは今回のライヴ・ツアーが終わって、また『TRANSPERSONAL』という作品を対象化したときに視えてくる課題だとは思うが、期待して良い気がする。

 ライヴ本編、KOSUKEのアタック感のあるドラムから「Lucid」が始まり、一気に場は熱を帯び、リハーサル時よりも圧倒的に前のめりで攻撃的なパフォーマンスが繰り広げられた。観客の中には外国客も散見され、一部、声を聞いてみると「日本でこんなクールな音を鳴らしているバンドはいない!」みたいなことをオランダ人の女性は英語で言っていたが、如何に今の彼らが様々な層を巻き込んで大きくなっているのか、伺えた。3曲目の「Devaloka」、4曲目の「Moralist S.S.」という彼らの名刺的な旧曲も今のダイナミクスで再現されており、そのまま「Effectual Truth」、「You're Blind」へと雪崩れ込んだ流れは白眉だった。PVやCD音源を鑑みる分にはスタイリッシュさと上品さが先立つイメージを持っているかもしれないが、ライヴでの彼らはもっとブルータルで、KENT、KAZUYA、NARA MINORU、KOSUKEの四人がそれぞれに個性的なアウラを出し、とても蠱惑的なものを孕む。後半は、更にヒート・アップしてゆき、個人的には特に「Across The Line」のライヴでの映え方には痺れた。アンコール含め、1時間半近くのライヴであったが、十二分に現在進行形で成長している彼らの調子の良さが感じられるものであり、より今後が楽しみになるものだった。

(取材協力:韓奈侑 木澤佑麻)

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