GRAPEVINE at なんばHatch 2011/4/16

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 最新アルバムにして、一つの長編小説である『真昼のストレンジランド』をリリースしたグレイプバインの大阪、彼らのホームタウンでの公演。それは、ストレンジランドへと誘うグレイプバイン主催のエクスカージョン(ショート・トリップ)であり、一つのお芝居であり、単なるエンターテインメントとしてのライヴ・ショーを超えた素晴らしい見世物でもあった。

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 これからストレンジランドへと向かおうとするオーディエンスが会場を埋め尽くす中、いつも通りの何気ない雰囲気をしてメンバーが現れる。会場が落ち着いたところで、フロントマンであり、今晩待ち構える異郷へのガイド役を務める田中和将の一言、「皆さんの物語は続いております。今日も何度目かのスタートに致しましょう」と共に1曲目にプレイされたのは、最新作のオープニングでもある「Silverado」。ゆるやかにスタートを切り、続いて「今夜大阪に捧げるは『This town』」として、ストレンジランドへと誘われてゆく。田中の青いテレキャスターが鳴らす歯切れの良い音をはじめ、メンバー各々のサウンドが広い会場に満遍ないバランスで響き渡るのを感じながら、南行きの荒野を走って行くような錯覚に襲われる。実に幸先の良いスタートだ、などと思っていると、抑揚のきいたセッションが始まった。最新作から外れつつも、プレイされる事の少ない「Suffer The Child」だ。開演早々の意外な選曲に多くのオーディエンスが驚きつつも、卓越されたスキルによる演奏はさすが10周年を超えた風格が漂いまくっている。

 次の曲に進む前の、田中による「ようこそ、ストレンジランドへ。最新作を聴いてくれた皆さんはお気づきだと思いますが、こちらは盛り上がるか盛り上がらないかは関係なくやっていこうとしております。これから見えるもの、一人一人違う景色があると思いますが、映画を観たような気分になって帰ってもらえたら幸いです」とのガイダンスが親切だ。グレイプバインの音楽において聴く者が一つの方向に向かうのではなく、それぞれ描く風景が違い、それがむしろ統一的な「ゴール」を目指すよりも更に各々の「その先」(「風の歌」にもあるような<<たった一つの>>とも言える)を見ることができるというスタンスは、この夜において特に際立って響いていたように思える。プレイされたのは「ミランダ (Miranda warning)」。先のガイドMCも相まって、善意をもって敢えて一度オーディエンスが突き放されたようになり、肯定的な意味で拍手さえ起こらない。続くのが「ピカロ」となると、偽悪は更に強くなる。彼らお得意の泥臭さが会場を覆うと同時に<<今こそピカレスクを>>というコーラスが痛快だ。「Afterwards」、「冥王星」がプレイされ、歌い終わった田中からは、お決まりの「どうも、サンキュー!」。3年前にリリースされたシングルのB面曲であることもあり、「知名度があまりなくて、みんな、知らん、みたいな顔するかと思ったら想像以上に盛り上がってビックリしたわ」と田中。オーディエンスが、「もう一回やれ!」と応えると、「何でタメ口やねん!って言うか、命令調ってのも、どないやねん!」とホームタウンでの公演特有の関西ノリで返す場面もあり、微笑ましい。

 金戸がアップライトベースに持ち替えると同時に、「Dry November」、「411」と立て続けに演奏される。どちらの曲も金戸の土の匂いのするベースライン、ソロが秀逸だ。「411」では、間奏部分でローディーが小型ながら重厚そうなトランクケースを持って会場に詰め寄った。オーディエンスに向けてケースを開けたと思うと中には二つのブルースハープが入っており、田中が指さしてその片方を選ぶと、丁寧に手渡す。田中の吹くブルースハープの音色は物悲しくも妖艶である。こういったパフォーマンスが、オーディエンスを魅きつけて離さない見世物性に拍車をかけていたように思える。

 乾いたアウトロのセッションが終わった後は、新たな名曲、「風の歌」だ。アルバムでは最終曲にしてストレンジランドに彩りを加えていたこの曲であるが、ライヴにおいては、これからさらに異郷の奥へと進み行く上での、中継地点での現在地確認の意味合いで鳴らされているようだ。歪んだギターと詞が「これから深奥へと進む心づもりは万全か?」と問いているかのように聴こえる。続いた「夏の逆襲 (morning light)」にしても、「今までの思いを背負って、その先が見たいか?」と問うかのように鳴らされる。オーディエンスの答えは、もちろん「イエス」だ。

 「ランチェロ'58」、「Neo Burlesque」が続き、暗転。途切れ途切れの不気味なシンセの音だけが会場に張り付く。「VIRUS」だ。抑制されたビートとタイトル通りの不健全な感染症のような歌詞が淡々と響き、ブレイク部分でリズムと同期した照明がモノクロームに、真っ赤に、湿った漆黒の世界を映し出す。否応なくオーディエンスを「共犯」へと連れ込んだこの曲は、間違いなく、この夜の一つのハイライトだったように思える。神経症じみたアウトロと共に何度も繰り返される<<永遠を頬張った/排泄を行った>>との言葉が観念的に届く。陰美の世界は、「Sanctuary」がプレイされることにより続く。ここはどこだ?ストレンジランドの煤けた祭壇の上だろうか。とっておきの毒素が耳から入り体内に侵入してからは、明かりが見える。「GRAVEYARD」だ。先までの暗闇を抜け出た後だからこそ、<<自分探しはまだ飽きないのかい/見つかるのは樹海のコミュニティ>>、<<たかがそれだけを誇る為、何をしてる?>>の詞がシニカルながらも力強く鳴り渡る。気が付けば、手書きのストレンジランドのマップは、残りスペース僅かとなってきたが、好都合だ。残されるは、本編最終曲である「真昼の子供たち」だけである。「VIRUS」以降の確信犯的な流れの後だからこそ、<<世界を変えてしまうかもしれない>>という詞が生ものとして伝わってくる。

 ウィルコからの影響をポップに響かせるアンセムが終わっても、まだまだ多くのオーディエンスはエキストラ・トリップに出たいようだった。拍手が鳴り止まない。
 戻ってきた田中が「皆さん、終電はあるのかねー?おけいはん(注:関西のローカル線、京阪電車のこと。彼らが結成された梅田近郊から田中の育った枚方市を経由して京都のダウンタウンへと繋がる)はあるのかねー?」とホームでの関西ノリをここでも押し出しつつ、アンコールのスタートは、叙情的な感傷の曲、「アナザーワールド」だ。「Suffer The Child」同様、プレイされることの珍しい曲だけあって、オーディエンスも喜びを隠せそうにない。<<世界から日常から抜け出せるかい>>と歌われた後は、「超える」と繋がった。素晴らしい。異郷探訪には、ちゃんと終わりとその先があったのだ。
 ラストは「R&Rニアラズ」。シニカルかつユーモラス。彼らの一面を上手くとらえながらも上がるように上がり切るこの曲は、ついついストレンジランドの深淵さに心を奪われていたオーディエンスを現実世界に引き戻す。この夜にプレイされた曲で最も古い曲ではあるが、ヒップでファンキーな彩りを与え、大盛況だった。

 2時間、21曲(セットリストは以下)に及ぶ南行きのショート・トリップは、オーディエンスそれぞれが自らの異郷へとより歩み出せるように、お芝居、見世物に徹した彼らの演出であっという間に過ぎてしまった。それでも、この僅かな時間にも、新たな<<たった一つの>>はあったことだろう。会場を後にするオーディエンス一人一人の興奮と笑顔を見ていると、各々が見つけたそれを讃えているようだった。

1. Silverado
2. This town
3. Suffer The Child
4. ミランダ (Miranda warning)
5. ピカロ
6. Afterwards
7. 冥王星
8. おそれ
9. Dry November
10. 411
11. 風の歌
12. 夏の逆襲 (morning light)
13. ランチェロ'58
14. Neo Burlesque
15. VIRUS
16. Sanctuary
17. GRAVEYARD
18. 真昼の子供たち

En
1. アナザーワールド
2. 超える
3. R&Rニアラズ

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