鴨田潤『一』レコ発ワンマン! at 三軒茶屋GrapefruitMoon 2011.04.19

 まずは鴨田潤の新作『一』について紹介しよう。


 本作は、ラッパーであるイルリメが本名の鴨田潤名義でリリースした、自主制作CD-R『ひきがたり』に続くフル・アルバムとなる。


 鴨田自身の声と最小限の伴奏とで構成されたこのアルバムで描かれた風景は、日常的な出来事も、珍しい出来事もある。


 日常的な出来事では、部屋に引っ越してきた当日と出て行く前日の風景と心情を描いた「空部屋」(M-9)が、特別な出来事が起こらないのにも拘わらず聴き手に余韻を残す。また、恋人とのやりとりという同じモチーフでも、「昨日は、」(M-2)では恋人とのちょっとした諍いと仲直りを爽やかに描いている一方で、「無理問答」(M-4)では、気持ちは分かるけれども今はちょっと待ってという気持ちを"無理!"というフレーズを多用することでユーモラスに表現している。


 珍しい出来事では、朝のバスに現れた顔なじみのおかまをめぐる「おんなのおっさん」(M-5)が哀愁を漂わせつつ、主人公の視線が優しくも凛々しく、題材が題材なのに清々しい印象を残す。そしてアルバム最後の16分超の大作「プロテストソング」(M-10)が圧巻。久々に実家に戻った際に父親が若き日に吹き込んだカセットテープを見つけ、それを聞いた主人公と父親との交流を描く。この曲では父親の曲が曲中曲として歌われており、親子のやりとりに深みが出ている。


 共通しているのは、そこにいる主人公達がそれぞれに地に足の付いた行動を取っているところだ。過度にドラマティックにならず、出来事に対して真正面から真摯に向かっている。そのためか、聴き手は自然に主人公達の視線を共有することができる。


 強調したいのは、冒頭の「Magic Number」(M-1)。曲が始まると、鴨田のヴォーカルを重ねたコーラスが聞こえてくる。"魔法のような瞬間を 君が今 呼び寄せた"という歌詞、その"魔法のような瞬間"を体現するかのような、優しく儚いコーラス。対照的に歌詞部分のヴォーカルはラップのスタイルで、力強い。ごく私的な、しかし本人にとっては奇跡的な瞬間を描くこの曲が1曲目にあることで、私はこのアルバムの芯にある力強さが見えるように思った(余談も余談だけれど、アメリカのSF作家シオドア・スタージョンの『不思議のひと触れ』という短篇を連想しました)。


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 本ライヴは、リリース記念ツアーの一環として行われた。


 冒頭、キセルとのツーマンの話を枕に、みんなが知ってる曲とのことで、「ウキウキWatching」のカヴァーを。会場は一気にアットホームな雰囲気になった。そのまま「Magic Number」を。音源ではラップだった部分もほぼ歌っていたのが印象的だった。弾き語りを始めるようになってからラヴソングを歌うようになったとのコメントとともに「昨日は、」と続く。


 特にMCのコーナーを設けるというよりも、曲間に客席に話しかける感じで進んでいく。「パンピーブギ」や「おんなのおっさん」の前では、古本屋勤務時代のエピソードを長めに。また、「無理問答」では、曲中に演奏を止め、自分の声が続く間の拍手を求めていた。曰く、"山下達郎さんのライヴの真似"。


 休憩を挟んでの後半は、提供曲やイルリメのセルフカヴァーを多めに。ここでは「プロテストソング」から「とらべるびいつ」の流れに迫力があった。特に前者では、曲中曲が力を込めて歌われており、主人公の視点とのメリハリが利いていた。ラストは恒例の一本締め。


 アンコールではレーベルメイトのcero高城を迎えて、ツアー中に作成したという甘いラヴソング「タイムリープでつかまえて」から。ライヴ最後の曲はイルリメとしての代表曲でもある「トリミング」の弾き語りヴァージョン。同じリリックだが、イルリメのラップとは曲の色合いも変わっている。イルリメが聴き手に直接投げかけるのに対し、鴨田は一言一言を噛み締めるように歌う。歌声だけでなく、その姿自体も聴き手へのメッセージとなっているように感じた。どちらが優れているというわけではなく、≪見せておきたい景色≫の色合いが両者で異なるのが大変興味深い。イルリメ/鴨田潤として、それぞれアクティヴに活動している今、どちらかで興味を持たれた方は、もう一方も観ることを強くお薦めしたい。


 鴨田の持つユーモラスさとシリアスさの両面を味わえる良い一夜だった。


セットリスト


1.「ウキウキWatching」(いいとも青年隊のカヴァー)

2.「Magic Number」<M-1>

3.「昨日は、」<M-2>

4.「パンピーブギ」<M-3>

5.「無理問答」<M-4>

6.「おんなのおっさん」<M-5>

7.「ハローグッバイ」<M-8>

8.「はるいちばん」<M-7>

9.「日向月」(Spdillへの提供詞:『How to feel the emptyhours? 』) 

10.「空部屋」<M-9>

11.「いい時間」(Evisbeatsへの提供詞:リリース前)

12.「プロテストソング」<M-10>

13.「とらべるびいつ」(イルリメ『360°SOUNDS』)

アンコール

14.「タイムリープでつかまえて」(ゲストのcero高城と:リリース前)

15.「ガラス越しに消えた夏」(鈴木雅之のカヴァー)

16.「トリミング」<鴨田潤『ひきがたり』(M-2)>


(サイノマコト)



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