ワイアー at 代官山UNIT 2011.7.2

 まさに「記録ではなく記憶に残る」バンドだ。

 この7月アタマ、終電後の深い時間にも関わらず超満員にふくれあがった代官山ユニットのフロアで、その神髄に少しだけふれることができたような気がする。

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 中学生のころにビートルズを聴きはじめ、そのあといわゆるプログレにはまりはじめた(いちばん好きなのはピンク・フロイドだった)ぼくが(数年のずれさえもない)同時代音楽の虜になったのはディーヴォのファースト・アルバムと『No New York』がリリースされた1978年だった。ポスト・パンク世代ずっぱまり。そんなぼくにとって、ワイアーはむちゃくちゃ大きな存在だった。もちろん、あの有名なセリフが、きっかけのひとつではあった。「ロックじゃなければなんでもいい」みたいな。

 しかしながら、いろいろ調べてみると、この発言は彼らの真意ではない(もしくは違うニュアンスで言ったことをメディアに例のごとくおおげさにとらえられた)と書いてある文献もあった。それ以降、ぼくはこのフレーズを彼らの名刺(見出し、でもなんでもいいけど)代わりに使うことはやめている。

 ただ、少なくとも中心人物のひとりコリン・ニューマンに「パンクに触発された、アンチ・ロック志向のようなもの」があったことはたしかだ。クッキーシーン・ムック第2弾『21世紀ロックの爆発』所載ポスト・パンク特集の「総論」冒頭に引用した、彼自身の文章からも明らかだ。それを読んでもらえば、彼らの「アンチ・ロック」志向が単純な(「脊髄反射」的な)「反抗心」ではなく、むしろ思索的かつ理論的なものだったことがわかる。

 80年代に彼らが初来日を遂げたときは、ちょうど就職したばかりで(ぼくも学卒で3年間は普通の会社員をやってました)行けなかった。00年代の再来日時は、クッキーシーンの編集作業でやはり行けなかった。30年以上つづく思い入れを持って見た彼らの3度目のライヴ・イン・ジャパン。あれから早くも数週間たつのだが、それが本当だったのか、未だに信じられない。夢のような出来事だった? いや、そうじゃない。感激で頭がぼーっとしてしまった...なんて、やわな精神は持ちあわせていない(なにせ、もう死ぬほど音楽を聴きまくって30年以上たってるからね:笑)。正直「一度見ただけでは、その全貌をつかみきれなかった」のだ。もちろん「素晴らしかったこと」は前提として。

 当日のセットリストは入手していた(このエントリーの最後に掲載する)。その曲順どおりにiTunesプレイリストを作成して何度も聴きまくった今、あの夜の...そして彼らの「すごさ」を少しは語ることができるようになってきた。

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 その日、いちばん驚いたのは、彼らの演奏の「しょぼさ」だった。たとえば、彼らのレパートリーで最もポップな曲である「Outdoor Miner」(1978年のセカンド・アルバム『Chairs Missing』収録)や「Map Ref. 41 Degrees N 93 Degrees W」(1979年のサード・アルバム『154』収録)などは、とても30年以上プレイしてきたようには思えない。

 もちろん、中心人物のひとりだったブルース・ギルバートが脱退してからは、まだ3、4年しかたっていない(こういったことについては、来日直前に掲載したインタヴュー記事のほうも参照してほしい)にしても、なんというか「エンターテイメントとしての完成度を高める」という志向性がまったく見えてこない。

 その「緩さ」から、ぼくの頭にまず浮かんだのは初期ペイヴメントだった。そういえば、彼らの初来日時にスティーヴンとボブに名古屋クアトロの近所の喫茶店で最初に取材したとき、「シングルの曲とかからワイアーを連想させる部分があるけど、影響を受けたと言える?」と聞いたら、「いや、それほどでもないな...。影響うんぬんで言ったら、ザ・フォールからのそれのほうが大きいかも」みたいな答えが返ってきて、なるほど、彼らは「次の世代」なんだなと思った。

 なぜなら、ペイヴメントの「ひとつ前の世代(まあ、ぼくもそれにあたる)」に対するワイアーの影響力は絶大なものがあったから。R.E.M.は5枚目のフル・アルバム『Document』で彼らの「Strange」(1977年のファースト・アルバム『Pink Flag』収録曲)をカヴァーしているし、R.E.M.と関係の深いザ・フィーリーズは「Outdoor Miner」をライヴの定番曲にしているらしいし、90年代にリリースされたワイアーのトリビュート・アルバム『Whore』("売春婦"という意味のタイトルも最高!)には「沈黙期」のマイ・ブラッディ・ヴァレンタインも参加していた。

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 この夜の1曲目が、おそろしくマイナーな曲であることにも驚いた...というか出鼻をくじかれた(笑)。

「さあ、いよいよ30年待った彼らのライヴだ。盛りあがるぞー!」と思っていた。そして始まったのは、ある程度耳慣れた曲だったにしても、曲名とか収録アルバムとかまったく思いだせない。

 あとで調べてみたら、1981年、いったん活動休止期に入った彼らが唯一ラフ・トレードからリリースした編集盤『Document And Eyewitness』。同レーベルからシングルで出ていた最後の2曲を除き、すべてライヴ音源を集めた「公式ブートレッグ」のごときアルバム。なぜ、こんなのを1曲目に(笑)? 理由はわからない。ただ、セットリストと同じように並べたプレイリストを聴くと、最初がこの曲である必然性が、びんびん伝わってくる。彼らには、「ちゃんとしたレコーディングはおこなっていないけれど、ライヴではおなじみ」という曲がたくさんあるらしい。おそらく、これもそのひとつなのだろう。ぼくとしては彼らのライヴをそれまで体験してなかったので偉そうなことは言えないのだが(汗&笑)。

 今年リリースされたばかりのニュー・アルバム『Red Barked Tree』からのチョイスが多かった(下記セットリスト参照)。「ライヴにはアルバムのプロモーションという意味もある」という鉄則を鑑みれば当然のこと。にしても、それだけではない。エンディングに向けて、実に自然に盛りあがっていく。ライヴ当日は、「ああ、あの名曲! おっ、次は新曲か!」みたいな感じで混乱もしていたけれど、これはふたつの意味で彼らのすごさを感じさせる事実だ。

 ひとつ。ジジイになってから作った曲と、若者のときに作った曲に、ほとんど違和感がない。レコーディング時期自体が30年以上にわたっているiTunesプレイリストを聴いても! さらに、もうひとつ。彼らは明らかに「ファンとのあいだの妙な『なれない』を廃して、音楽のみでオーディエンスと『真剣勝負』すること」を志向していた(だから『ロック』的に『なれあう』のでもなく、逆に『壁』を作るのでもなく、『対マン勝負』...いや『対話』を試みるというか...)」。

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 そんな姿勢が最も如実に現れているのが、「名盤」の誉れ高き『Pink Flag』の扱いだろう。彼らはそこからたった1曲しかやらなかった。『Pink Flag』のラスト・ナンバー「12XU」は、パンク・アンセムとしてもよく知られている。正直言って、それは聴きたかった。でも、あんなジジイたちが「want to (have a) sex (with) you(注:この曲名およびキメのフレーズにはそんな意味もある)」と叫んでも、気持ち悪いだけかも(笑)? というか彼らは1981年の『Document And Eyewitness』の段階で、すでに"「12XU」はMCとか曲の一部だけ...『断片』しかアルバムに収録しない"というひとを食ったことをやっていた。

 7月2日は、アンコールの3曲目で、『Document And Eyewitness』の続編的な「公式ブートレッグ」第2弾『Turns And Strokes』収録曲(これまた「Ally In Exile」同様、スタジオ録音はリリースされていない)で、またもやオーディエンスの頭を混乱させておいて、最後の最後に「Pink Flag」を...!

 アレンジがスタジオ盤と変わっており、最初はこの曲だとわからなかった。そうだと気づいたのは、サビの歌詞が、しぼりだすように歌われたときだった。

《How many dead or alive?》

 今の、この状況の日本で、こんなフレーズを最後の最後に叫ぶなんて...。正直、ぼくも大声をあげて、いっしょに歌ってしまった。

 やつらは、パンク精神...いや、ポスト・パンク・スピリットを(白旗でも赤旗でもない、ピンクの旗を掲げるように)信じられないくらい見事に発揮してくれた。ワイアー、やはり最高だ!

セットリスト

1. Ally In Exile          from『Document And Eyewitness』Compilation(1981)
2. Smash          from『Red Barked Tree』(2011)
3. Please Take          from『Red Barked Tree』(2011)
4. Kidney Bingos          from『A Bell Is A Cup... Until It Is Struck』(1988)
5. Drill          from「Snakedrill」EP(1986)
6. Bad Worn Thing          from『Red Barked Tree』(2011)
7. Another The Letter          from『Chairs Missing』(1978)
8. Clay          from『Red Barked Tree』(2011)
9. Map Ref. 41 Degrees N 93 Degrees W            『154』(1979)
10. Moreover          from『Red Barked Tree』(2011)
11. Two People in A Room          from『154』(1979)
12. Red Barked Trees          from『Red Barked Tree』(2011)

Encore

13. Adapt          from『Red Barked Tree』(2011)
14. Outdoor Miner          from『Chairs Missing』(1978)
15. The Spare One              from『Turns And Strokes』Compilation(1996)
16. Pink Flag          from『Pink Flag』(1977)

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