マニック・ストリート・プリーチャーズ(フロント・アクト:アッシュ) at 新宿BLAZE 2011.7.18

「今の日本はとてもタフな状況だけど、今日は来てくれてありがとう。俺たちがタフだった時に支えてくれたのは、この美しい国のみんなだったよ。本当にありがとう」。そんな言葉だったと思う。ライヴの中盤でニッキーとショーン、サポート・メンバーの2人が舞台袖に下がり、ステージに一人残されたジェームスは静かにそう言って、アコースティック・ギターを手に取った。そして「This Is Yesterday」を静かに力強く歌い始めた。


『Nano-Mugen Fes. 2011』の2日目、約2万人の前でプレイしたマニックスが翌日の7月18日、一夜限りのスペシャル・ライヴを敢行した。会場となった新宿BLAZEのキャパはなんと800人。しかもフロント・アクトにはアッシュ(!)を起用。そして、終演後にはとびきりのサプライズも! 冒頭の言葉どおり、タフな状況にある僕たちに、タフな状況をくぐり抜けてきた男たちが最高のパフォーマンスを見せてくれた。


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 会場入りした僕は想像以上のステージの近さに驚かされた。「手を伸ばせば届きそう」という表現がぴったりだ。開演時間の午後6時に合わせて、今夜のチケットを手に入れた幸運なファンが続々と集まってくる。ブライト・アイズやゲット・ケイプ・ウェア・ケイプ・フライなどがSEとして流れる中、誰もが笑顔だ。どれほどアッシュが好きか、何回マニックスを見たか、そして週末のナノムゲンがどんなに盛り上がったか。会場のいたるところから楽しい会話が聞こえてくる。やがて定刻を5分ほど過ぎた頃、ステージにアッシュが登場した。


 ティムが鳴らすイントロのギターリフに負けないくらいの大歓声! この特別な夜を祝うかのような「Girl From Mars」で待ちわびたファンのエネルギーが一気に解放された。間髪入れずに「A Lifeless Ordinary」、「Shining Light」そして「Kung Fu」を連打。この後にマニックスが控えているのも忘れてしまうほどのテンションでフロアが揺れる。会場を見渡し、何度も「サイコー!」と叫ぶティム。本当に最高!


 今回の来日ではドラマーのリックが育休とのこと。代役を立ててのプレイだったけれど、ステージ上のメンバーの息はぴったり。「アジカンノケンチャン、サイコー!」ティムが観客を煽る。ナノムゲンに続いて、アジカンの喜多建介(G.)を迎えた4人編成だ。つまり正式メンバーはティムとマークの2人だけ。だけど、そんなことお構いなしに今夜のアッシュは全速力で突っ走る。『A - Z』以降、より自由な創作環境を手に入れた彼らの迷いのなさが伝わってくる。眩しいほどの躍動感。そして、ラストはもちろん「Burn Baby Burn」で完全燃焼! 本当にあっという間の40分だった。「もっと見たい!」というみんなの声に「次はマニック・ストリート・プリーチャーズだからね!」と、ティムが応える。そうだ。この後、本当にここでマニックスのライヴが始まるんだ。アッシュの素晴らしいライヴの後では、ますますそれが信じられない。セット・チェンジの間も会場の熱気はグングン上がって行く。僕の真正面、ステージ左手に極彩色の羽飾りのついたマイク・スタンドがセットされた。沸き上がる大歓声! マニックスはもうすぐだ。


アッシュ:セット・リスト


1. Girl From Mars

2. A Lifeless Ordinary

3. Shining Light

4. Kung Fu

5. Arcadia

6. Walking Barefoot

7. Orpheus

8. Return Of White Rabbit

9. Burn Baby Burn


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 去年11月の新木場スタジオコースト単独公演、昨日のナノムゲンでも1曲目は「You Love Us」だったと聞いている。それも良いけれど、今日はどうなんだろう? そんな思いを巡らせているうちに、SEが止んで客電が落ちた。アンプにウェールズの国旗が掛けられているだけのシンプルなステージだ。「マニッ~クス!」と叫ぶファンの声援に満面の笑顔で応えるジェームス、ニッキー、そしてショーン。この小さなステージに、マニックスが本当に現れた! 前列へと駆け寄るファンの狂騒に向けて放たれたのは...「Stay Beautiful」!


"I Don't Wanna See Your Face, I Don't Wanna Hear Your Voice, Why Don't You Just"へのレスポンスは完璧。マニックスのファンらしく"ファッコーッフ!"で会場がひとつになる。サポートのギタリストとキーボード・プレイヤーを含む5人編成でのサウンドは、大きな会場にもひけを取らない分厚さと最高のバランスだ。続く、「Your Love Alone Is Not Enough」「(It's Not War) Just The End Of Love」にも観客は大合唱で応える。『Postcards From A Young Man』からの曲もばっちり。アルバムをしっかり聞き込んできた僕たちとプレイし続けてきたマニックスのエネルギーが、理想的なかたちで混ざり合う。遮るものは何もない。


「女子サッカー日本代表、優勝おめでとう! 彼女たちに捧げるよ」。そんなジェームスの言葉で、「Motorcycle Emptiness」が演奏された。デビュー間もない頃の"解散声明"を最も真摯に受け止めたのは日本のファンだった。そして、この曲のPVが撮影されたのも日本だ。僕たちと縁の深い名曲が鳴り響く。ニッキーが大きな体を揺らし、ショーンがタイトなビートを刻み続ける。どの曲もクライマックスのような盛り上がりで「Everything Must Go」「You Stole The Sun From My Heart」など、アンセム級の曲が続く。ソリッドな「Faster」からゴスペル調の展開を持つ「Some Kind Of Nothingness」への流れもスムーズだ。熱気が途切れることはない。安定感たっぷりの歌声とテクニカルなギター・プレイで、ジェームスが会場全体を引っぱり続ける。


「Slash N' Burn」をはさみ、バンドは「If You Tolerate This Your Children Will Be Next」を演奏した。何が真実で、何が嘘なのかまったく見分けがつかない。未来を明るく考えることも難しい。それが今の僕たちで、これからもそうなのかもしれない。《これを黙認すれば、次はお前の子供達が同じ思いをしなきゃならない》というリフレインが、リアルに響く。このライヴハウスを一歩出れば、変わらない現実が今の日本を被い尽くしていることに気付かされた瞬間だ。重たい余韻を残して、ジェームス以外のメンバーはステージから姿を消す。そして、彼は僕たちに語りかけた。


「今の日本はとてもタフな状況だけど、今日は来てくれてありがとう。俺たちがタフだった時に支えてくれたのは、この美しい国のみんなだったよ。本当にありがとう」


"Tough Times"という言葉を分かち合う、短いけれど心のこもったメッセージ。そして、アコースティック・ギター1本で歌われる「This Is Yesterday」に誰もが静かに耳を傾ける。現在形で歌われる"昨日"という過去が、"Tough Times"という言葉と重なった。


《崩れ去った家並みと雑草だらけの庭/すべてを忘れることができる時に、なぜ何かをしようとするんだろう?/そして僕は空を見つめる/何も見えないまま/僕は目を閉じる/ここには"昨日"がある》


 束の間の沈黙。そして、静寂を引き裂く鳴り止むことのない拍手。ステージに戻って来たニッキーとショーン、そしてサポートの2人も準備OKだ。ニッキーは"恒例の"スカートに着替えた姿で観客を煽る(ちなみにパンツは白!)。すぐに「You Love Us」のイントロが鳴り響き、再び場内は熱気を取り戻した。ここからバンドはさらに加速しながら突っ走る。クラッシュに「I Fought The Low」があったように、マニックスには「Suicide Is Painless」という最高のカヴァーがある。自分を敗者と認め、嘲る。でも、そこから始まるということに気付いた時、この2曲はパンク・ソングとして蘇った。


 ラストは「A Design For Life」。夢のようなこの時間は現実なのか? 日本を取り巻く環境や情報こそが現実なのか? ジェームスのヴォーカルに大合唱で応える僕たち。音楽の聞き方/聞こえ方が変わった。いや、生き方すべてが変わってしまった。《僕たちにはどんな浪費も許されていない/そして、これが最期だと言い渡されている》と歌われるこの曲も、今は複雑な意味を持って響く。スネアの強烈な一打が、この夜だけの特別なライヴの終わりを告げた。


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 終演後、新宿BLAZEの裏口に集まる熱心なファンの姿があった。やがて銀色の小さな扉が開き、ショーン、ニッキー、ジェームスの順でマニックスのメンバーが現れた。ファンに取り囲まれながらも、混乱が起こるわけでもない。彼らはひとりひとりのサインに応え、握手をして、ハグを続ける。写真撮影にも気軽に応じている。ニッキーもジェームスも、まったく急ごうとはしない。僕がジェームスに『Postcards From A Young Man』のブックレットを差し出すと、丁寧にサインをしてくれた。そして彼は僕の目を見て言った。それは僕が彼らに言いたかった言葉だった。Thank You! 新宿のファミマの前という"日常"の中で、マニック・ストリート・プリーチャーズがみんなに声をかけ続けていた。


マニック・ストリート・プリーチャーズ:セット・リスト


1. Stay Beautiful

2. Your Love Alone Is Not Enough

3. (It's Not War) Just The End Of Love

4. Motorcycle Emptiness

5. Everything Must Go

6. Life Becoming A Landslide

7. You Stole The Sun From My Heart

8. Faster

9. Some Kind Of Nothingness

10. Ocean Spray

11. Slash N' Burn

12. If You Tolerate This Your Children Will Be Next

13. This Is Yesterday (Acoustic)

14. You Love Us

15. Postcards From A Young Man

16. My Little Empire

17. Motown Junk

18. Suicide Is Painless

19. A Design For Life


(犬飼一郎)


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