透明雜誌 『僕たちのソウルミュージック』 (Art Union)

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20110516_toumeizasshi2_v.jpg  韓国の大衆音楽を「K - Pop」と呼称するならば、「T - Alternative」とでも言うような台湾からのオルタナティヴ・ロック・バンドが出現した。透明雜誌だ。

 ナンバー・ガールやベース・ボール・ベアーやアート・スクールの木下理樹などを見定めた人物である、東芝EMIの新人発掘プロジェクト、「Great Hunting」のチーフ・プロデューサーを務める加茂啓太郎氏がTwitter上でツイートされていたり、東京のタワー・レコードを中心にプッシュされたりしたことで一躍、その存在を日本にも知らしめた彼らが、自主制作盤に収録された4曲をボーナス・トラックにした日本限定仕様盤が、この『僕たちのソウルミュージック(原題:我們的靈魂樂)』である。

 至るところで「台湾のナンバー・ガール」と称されたように、ナンバー・ガールの楽曲「透明少女」とバズコックスのメンバーだったハワード・ディヴォートが結成していたマガジンを組み合わせたバンド名を誇っているし、自主制作盤『透明雜誌』に収録された「凌晨晚餐」などを聴いている限りでは、ナンバー・ガールが用いていたようなアメリカのオルタナティヴ・シーンの影響を日本的な解釈で鳴らしたエッセンスをさらに彼ら自身の視点で最解釈したような感覚があった。たしかに、彼らも例えば国内のランクヘッドやベース・ボール・ベアーがデヴューした時に称されていたような、「ナンバー・ガールの継承者」の一バンドであると言えるだろう。

 しかし、それがいきすぎて、彼らをナンバー・ガールのパクりをしている台湾人などと見るのは、間違いと言える。彼らは、ナンバー・ガールだけでなく、ピクシーズやソニック・ユースにスーパーチャンクといったアメリカの並み居るオルタナティヴ・バンドからの影響も公言しているし、日本のバンドでもナンバー・ガールだけでなく、先の「凌晨晚餐」のMVでは銀杏ボーイズのバンドTシャツを着て演奏している姿が写っているし、「妳是我見過自殺最多次的女生」といった曲からは、つばきなどのいわゆる往年の下北系からの影響も垣間見える青いギターが印象的だ。英米のオルタナティヴ・バンドと日本のそれを並列に聴いて、自らの楽曲を生み出しているその出自は非常に興味深いと言えよう。

 とは言っても、先にミニ・アルバムからリリースされていたボーナス・トラックの4曲を見ると、やはりナンバー・ガールからの影響がかなり濃いように思えたが、この『僕たちのソウルミュージック』の全体を聴けば、それだけでなく先に示したようなアーティストからの影響と自らの方法論を混在させていっていることが分かる。

 タイトルに反して、スーパーチャンクのごとき爆裂のパンク・センスで突っ走る「ANORAK」や、ベース・ボール・ベアーのような青い時間を鳴らす「九月教室」、ヤケクソのようなイントロと、間奏の《ベイベーベイベー》というシャウトまでまんま銀杏ボーイズのエッセンスを借用したようなタイトル・トラックの「我們的靈魂樂」など、3年の間にナンバー・ガールの影響モロ出しから脱却している様がよく伝わってくる。

 先にも書いたが、この英米のオルタナティヴのエッセンスと日本のそれを同時に聴き込み、それを自分なりに咀嚼して衝動と焦燥を掻き回すそのスタイルは面白い。日本の数々のバンドからの影響を並列に出してくれるのは、日本人としてもやはり嬉しいが、さらに欧米からの影響も迷わずに強く出していくことによって、彼らを日本のバンドに似ているという文脈で聴くのではなく、欧米のバンドを聴くように、良い意味で洋楽を聴けるようになれれば良いと思う。いくら日本のオルタナティヴなバンドと曲調が似ているといっても、歌詞は中国語で歌われているし、それがナンバー・ガール由来のアジアンなメロディと絶妙にマッチして、見事にエキゾチズムを掻き立てているし、台湾のバンドとして聴かれるようになるとさらに面白いと思う。

 そして、恐らく心配はご無用だろう。彼らは台湾でのザ・ゲット・アップ・キッズの公演にもオープニング・アクトとして出演を認められたし、元ナンバー・ガールの向井秀徳氏自身からもホームページの日記にて、「今日の一枚」として当盤を挙げられる(そして、それをfacebook上で嬉しそうに報告している透明雜誌のメンバーがまた微笑ましい)など気運は上々だ。

 英米や日本など国籍問わず多くのオルタナティヴ・バンドが最初は、自らの敬愛するアーティストのエッセンスの借用からキャリアをスタートしている。ナンバー・ガールだって、最初はヴェルヴェット・クラッシュやマシュー・スウィートを意識していたことを告白しているし、それ以降もピクシーズやハスカー・ドゥ、ソニック・ユースなどの影響を公言しながらも自らのスタイルを築いていった。彼らも今の、ルーツを色濃く出している作風やスタイルが、台湾という土地の感性にさらに飲み込まれ、彼ら自身の新たな表現の位置に完全に到達することを期待して止まない。台湾から、どう世界へアプローチをしかけていくのか、見届けたいものだ。

(青野圭祐)

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