SEAPONY 『Go With Me』(Hardly Art)

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 「こんなバンドがシアトルから現れるなんて!」

 このアルバム、『Go With Me』を友人たちと共に初聴した時に、思わず自分の口からそんな言葉が出てきた。

 元々、ボーイング社やマイクロソフトにスターバックスといった、誰もが知っている一流ブランドの発祥の地でもあり、近年では日本にも浸透しきった感のあるこれまた大規模なビジネス、アマゾンの成功により、見る見る内に大都市化・高級化していくシアトルにおいて、いまだに労働者階級の雰囲気が染み付いているウェスト・シアトル(ちなみに、ここはシアトルのローカルシーンを支える2大インディー・レコード・ショップの一つ、Easy Street Recordsの本店のある地域でもある)の少し風変わりなビーチ、アルカイ・ビーチ・パークで撮影されたのでは?と思わせられる陽光に照らされた女性を写したジャケットが示すように、ザ・ペイング・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートのようなUKの過去のインディー・シーンに共振したアメリカならではの、ごった煮サウンドを聴かせてくれる本作は、一聴しただけでは、それこそブルックリンやカリフォルニアから来たの?と言うような秀逸なインディー・ポップ・ミュージックを聴かせてくれる。

 そのローファイなサウンドからベスト・コーストやサーファー・ブラッドといったアーティストを引き合いに出して語られることの多いだろう彼らであるが、何度か聴くとむしろそういったグループよりも、前述のペインズが参考にしていたようなヘヴンリーやベル・アンド・セバスチャンといったトゥイー・ポップ、ザ・パステルズなどの80年代の英国のインディー・ポップ勢の影響を感じる点がいくつも出てくる。もちろん、それらの素材をUSオルタナのジャンキーなカラーと混在させることもペインズ同様にさらりとやってのけているが、アルバム全体を通してみると、そこまでペインズに似たサウンドではなく、先述のジャッケットやそのキュートなアルバム・タイトルと同様に彼ら、シーポニーの方がキラキラとした清冽さや瑞々しさが伝わってくる。彼らのノイズはシューゲイズのノイズと言うよりは、ローファイの産物としてのノイズと言えるだろう。ドラムのビートも躍動感をつけると言うよりは、ポンポンと小気味良く鳴っているのが、そのノイジーなギターと混ざり合い、ローファイ感を演出しているのが魅力的だ。アルバム全体を通しても35分程度のコンパクトさも(良い意味で)磨きかけのマテリアルのようで、聴きやすくもある。

 こういったバンドが同じワシントン州内でもオリンピアから出てきたとすると、合点がいく。シアトルよりもさらにインディペンデント色の強い州都、オリンピアはビート・ハプニングのフロントマンでもあり、US北西部のオルタナ・シーンを80年代から裏で支え続けて来た陰のカリスマ、キャルヴィン・ジョンソンがオーナーを務める良質なインディー・ポップを輩出してきたKレコーズや、ロック・ミュージックにおける女性の地位復権活動、ライオット・ガール・ムーヴメントの窓役となった過去があり以降もゴシップやディアフーフなどのラジカルな女性をフロントマンに持つバンドを後押ししてきたKill Rock Starsの本拠地でもあるといった、まさにシーポニーを生む土壌としては最適な場所であるように思えるからだ。ビート・ハプニングを筆頭にトゥイーでローファイなバンドマンやぐだぐだしたフラストレーションの溜まっていそうな学生が道端を歩いているオリンピアにシーポニーの面々がふらりと歩いているのは想像に難しくないが、何だかんだ言っても、やはりグランジの発火点でもあって、それが沈静化してからもインディー・「ロック」の隆盛を誇るシアトルの少し殺風景な空気にシーポニーが馴染むとはどうも考え難い。

 実際に、自分は去年の下半期のほとんどをシアトルで過ごしたのだが、ヴェニューやレコード・ショップや大学にいたキッズたちの口からパフューム・ジーニアスの名前は僅かに出てきてもシーポニーの名は一度も聞いたことがなかった。こうして見ると、ベッド・ルームから独りムフフといった笑みを浮かべながら、それを聴いたリスナーを知らず知らずの内に共犯の内に引きずりこむようなミニマル・ミュージックを作っている絵が浮かぶパフューム・ジーニアスの方がまだいくぶんシアトル人らしいと言えるような気さえしてくる。もちろん彼も昨年デビューを飾った際には、マタドール・レコーズと契約したこともあり、シアトルらしくない新人としても話題になったアーティストであるのだが。

 時代の流れと同時にシーンを統一的な見方で括れなくなったゼロ年代以降であるが、シアトルはそれでも俯瞰した時に、他の都市に比べ、どちらかと言えば「分かりやすい傾向のある」地域であったように思う。しかし、昨年のパフューム・ジーニアスやこのシーポニーの登場で、だんだんとアメリカ極北西の都市シアトルも一筋縄で括りにくくなってきた。それでも、僕はこの新星シーポニーの登場を嬉しく思う。このアルバムには、やっぱり、自分たちと過去の偉人は違うとしょげながらもどこかでそんな憧れの存在に手を伸ばしているような不器用なシアトルに住むバンドマンの鳴らすメロディーがたくさん詰まっているからだ。

 ブルックリンやカリフォルニアの砂浜ももちろん良いが、この夏は本作『Go With Me』を聴きながら夢見心地(「Dreaming」)で、北の浜辺を目指してノース・マリン・ドライヴに出るのはいかがだろうか。

 (青野圭祐)

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