グラスヴェガス

GLASVEGAS

確かに極端でめちゃくちゃな話だけど
すごく美しいと思わない?


古くはオレンジ・ジュースやジーザス&メリー・チェイン、さらにプライマル・スクリーム、それからティーンエイジ・ファンクラブ、モグワイやベル・アンド・セバスチャンやトラヴィスなど、素晴らしいバンドばかりを30年以上にわたって輩出しつづけたスコットランドの地方都市グラスゴー(なんとなく音楽ファンにとってスコットランドの代名詞っぽくなっているけれど「行政の中心」となっている町はエジンバラであることに注意:笑)。そこから00年代に登場した注目すべきバンドとしては、まず(フラテリスとかも悪くないけど、クッキーシーン的には?)フランツ・フェルディナンド、そして彼らグラスヴェガスだ。

09年にリリースされた彼らのファースト・アルバム『Glasvegas』の衝撃は、並大抵ではなかった。それにつづく彼らのセカンド・アルバム『Euphoric///Heartbreak\\\』がリリースされた。前作の「いいところ」を抽出して、見事にスケールアップしたような、これまた感動的な作品になっている。

しかし、ちょっと気になる部分もある。前作『Glasvegas』には、誰の琴線にも触れるエモーショナルな"うた"が、聴き手の心の"ふれてほしくない"部分にあえてつっこみをいれるような、ひりひりした感覚があった。今回はそれがちょっと減退している。リード・シンガーでありソングライターでもあるジェームズ・アランの"激情"が、理想的な形で整理されているような印象を受ける。もちろん、それはいいことだ。実際のところ前作は、正直"常に聴きたくなる"ようなものではなかった。なんというか"ズタボロな気分になって盛りあがりたい"ときに、あれほどはまるアルバムはなかった。ただ、体調が悪いときにはつらいというか...(それでも"愛聴盤"と言える。ぼくは、そういう状態のことが多いのか...:笑)。だけど今回は、もっと幅広いシチュエーションで聴ける!

そして先日ジェームズ・アランに電話インタヴューすることができた。ここぞとばかり、最近のバンドや彼の状態について、そしてこのアルバムのキモのいくつかについて、聞いてみた。

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 この電話インタヴューは、日本時間5月21日のお昼、ジェームズが滞在していたアメリカ東海岸時間では夜10時ごろにおこなわれた。ところが、電話をかけると彼はまだベッドのなか...。

「おはよう...。実際まだ起きたところなんだ(笑)。昨夜はギグがあったから...」(ジェームズ・アラン:以下同)

 申し訳ない...。昨日のショウはどうだった?

「ショウはよかったけど、眠くてゆっくりしかしゃべれない...っていうか、いつも眠いんだけどね、俺は(笑)」

 とにかく、そんな忙しいところ取材を受けてもらえたことへの謝意を伝えつつ、ざっとスケジュールを確認してみた。その前の週はヨーロッパにいて、今は北米をまわっている。

「うん、そうだね。明日には...たしか、シカゴに向かうはず」

 アルバム制作期間が終わり、またこうやってプロモーションを受けたり、ツアーに出たりという生活が始まる。気分はいかが?

「すごくいい気分だよ。自分の頭の中にあったイマジネーションが形になって外に出るのは、素晴らしいことだしね。音楽を作るのは好きだし、取材だって嫌いじゃないさ(笑)。いろんな人たちと会えるのも楽しい。それにいろんな会話を人と交わしていくなかで、ふと何かの答えが見つかることもある。ただ人と話すだけでね。そういうことって、素晴らしいと思う。これからたくさんのツアーが待ってると思うと、楽しみだよ」

 前作から『Euphoric///Heartbreak\\\』に至るなかで、バンドにとって最も大きな出来事は、ドラマーが変わったことだろう。キャラクターからしてモーリン・タッカー(元ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)っぽい感じだった女性ドラマーが脱退し、新しく加わったのは、スウェーデン人のこれまた女性ドラマー、ヨナ。だが、それはまだ最近のこと。新作のレコーディングには関わっていなかったという。

「(ヨナが正式に参加したのは)今年の1月からだね。それでももう、結構何度もギグをしてきたけど」

 なるほど。彼女がスウェーデンのひとであるという事実が、ちょっとうれしい。我々はイングランドや合衆国の音楽も好きだが、スコットランドと同じく、スウェーデンやノルウェーといった北欧の音楽も愛してきた。だから、グラスゴーや日本がそうであるように、ポップ・ミュージックの主流と離れたオルタナティヴな場所...というか。それはそれとして、新ラインアップの手応えは?

「彼女は素晴らしいよ。バンドとして完全になるには時間がかかる部分もあるけど、少しずつ学んでいけばいいんじゃないかな。でも彼女は素晴らしい人だし、いろんなことを彼女に教えていってるよ」

 さて、ニュー・アルバム『Euphoric///Heartbreak\\\』制作のかなり早い段階...昨年ごろから、ジェームズは単身LAに移っていた。数曲をそこで完成させつつ、最終的にはロンドン、グラスゴーで完成をみたそうだが、いろんな意味で、そのLAという場所の空気みたいなものが新作に反映されているのでは?

「たぶんそうだね。ロス・アンジェルスに行って、ビーチの側で暮らさなきゃいけなかった。...例えば...ブレードランナーみたいなイメージとか...ビーチの傍のブレードランナーみたいなイメージ(笑)。アルバム制作初期のヴィジュアル的なイメージ...通りを夜、車で走っていくようなものは、ロス・アンジェルスから来ているものだと思う」

 なるほど! LAといえば「海と青空」といったイメージもあるのだが(笑)『Euphoric///Heartbreak\\\』は決してそうではない。むしろその対極にあるようなセンティメント...メランコリーが漂っている。映画『ブレードランナー』みたいなイメージというのは、言えてると思う。雨の夜の町によく似合うような...。ちなみに、ジェームズは今はカリフォルニアをホームにしていると言えるのだろうか? それともグラスゴーに帰った?

「いや、なんというか、今はホテルに住んでいるんだよね...。育ったところがホームなんだろうけど、もうずっと離れてるから、どうかな。グラスゴーに戻ってもホテルに住んでる。いつかは変わるだろうと思うけど...」

ロックンロール!

photo by Tony Park
Glasvegas_201105_A2.jpg 彼がデモを作っていたと思われる10年ごろの情報では、リック・ルービンが制作に関わるという噂も伝わってきていた。でも結果としては、ベテラン敏腕プロデューサー、フラッドがプロデュースを手がけている。このあたりの経緯は?

「リック・ルービンとは結局何もやってないよ。一緒に遊びまわったりはしたけどね(笑)。プロデュースしてくれたのは、フラッドだった。でも、実際にフラッドと作業をする前に、ほとんどのマテリアルは完成していたんだよ。サンタモニカにいたころ、自分でデモを録った。録っていたころは、ただデモを作っているつもりだったけど、結果としてはそれが実際のアルバムに、たくさん残ることになったんだ。別にそれも、フラッドのアイディアってわけじゃなく、流れっていうのかな。誰か特定の人間のアイディアってわけじゃなく、自然にそうなっていったんだ。それがロックンロールの、スイートなところだよね。どんなにいいプロデューサーがいて、もう一回やろうとしてもできない、そのときに作った特別の何かっていうものがあったんだよ。すごく特別なものになったと思う」

 フラッドは80年代からU2を手がけていたり、あとデペッシュ・モードやニュー・オーダーの作品にも関わってきた。そういったバンドに興味はあるか?

「そうだね...。彼が関わった作品で一番好きなのは、デペッシュ・モードの『Violator』かな」

 おお! これがインタヴューの醍醐味(笑)。実はぼくが『Euphoric///Heartbreak\\\』を最初に聴いて、そのメランコリックなイメージやどこかメタリックなビート/サウンドから、まず頭に浮かべたのは(フラッドの過去の仕事で言えば)、90年代初頭の(つまり『Violator』期の)デペッシュ・モードだった。このインタヴューをおこなうまえに執筆したクッキーシーン・ムック『Pop & Alterenative 2011』の原稿では、グラスヴェガスとデペッシュ・モードという取りあわせがあまりに突拍子もなさすぎて自信がなかったので(恥&笑)、フラッドの経歴を述べる際にデペッシュ・モードを筆頭に持ってきたのみだった。なんというか、激しく納得する。その原稿では、U2と彼らの共通項みたいなものに関して軽く述べたのだが...。

「そして(フラッドが関わった作品で一番好きなものといえば)、U2の『Achtung Baby』。彼は『Joshua Tree』にも関わってたよね。そういうアルバムはすごく好きだ。アルバムの中の、センティメントが好きって言うか。おかしいけど、サンタモニカでよく散歩してたころに、『Violator』を聴いたんだ。それまではデペッシュ・モードの曲って、よく知らなくて。レコード屋によく通ってたんだけど、そこの女の子がデペッシュ・モードを勧めてくれたんで、2枚ぐらいアルバムを買った。それで『Violator』が気にいったんだよ。すごく情感豊かな曲が多いと思った。曲がいい。『Achtung Baby』のなかには、自分でこんな曲を書けたらなって思ったような曲が何曲もあった。まあ、チャイコフスキーの『白鳥の湖』なんか聴いてもそう思うんだけどね(笑)。自分で書けてたらよかったなぁ、って」

 たしかにデペッシュ・モードは80年代後半から、なぜかアメリカ西海岸で人気を高め、それで世界的なブレイクにつながったことを思いだす。U2『Achtung Baby』のビートにも、かなり機械的なところがあった(テーマ的には、ヨーロッパに向いたアルバムだったが)。そして、ヨシュア・トゥリー(Joshua Tree)砂漠もカリフォルニア州にある。なんとなく合点がいってきたところで、話を少し歌詞のほうに移してみよう。新作の曲作りや歌詞は、以前より、もっと「自分のこと」に寄っている、というジェームズの発言をどこかで見たように思う。これは間違いない?

「うん、そうだね。前のアルバムでは、例えば『Geraldine』みたいな曲は、女友だちのソーシャル・ワーカーの話だった。俺は今までソーシャル・ワーカーをやったこともなければ、女だったこともないし、ジェラルディーンって名前だったこともない。でも、すごく他の誰かに対して、共感を覚えながら書いた曲だった。いつだって誰かのために、俺はここにいるよ、ってことを思いながら歌っていた。歌っていると、大切な誰かのことやいろんな友だちのことを思い出したよ。でも今回のアルバムは、より自分だけの世界になった気がする。自分自身の本当の考えに近いっていうか、自分のことを意識しながら書いた」

 冒頭に述べたとおり『Euphoric///Heartbreak\\\』は、前作ほど"心の傷に塩を塗られる"印象を受けない。このような姿勢で作ったアルバムがそうなるのも不思議なものだ。むしろ逆であってもおかしくないような...。このあたりが、ポップ・ミュージックのマジックといったところだろうか。実際、新作は"ポップ・ミュージックとしての強度"を増していると思う。

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 あと、歌詞といえば2曲目「The World Is Yours」(注:YouTubeにアップされた、アルバム"『Euphoric///Heartbreak\\\』予告編"でかかっているのが、この曲だ)は、《Mister mojo's rising》というフレーズで始まっている。これは、ザ・ドアーズの「LA Woman」という曲のリフレインを明らかに思いださせる...。

「うん、そうだね! 君はそれを指摘した、初めてのジャーナリストだ。びっくりした。信じられない(笑)」

 ま、まじっすか(汗)? うれしというより純粋に驚いた。あの曲を愛聴しており、『Euphoric///Heartbreak\\\』の一部がカリフォルニアで制作されたという事実を知っていれば(そして事前に公式サイトにアップされた新作の歌詞をチェックしていれば)誰でも即座に頭に浮かぶ指摘だと思うのだが...。この段階で新作についての取材をおこなったのは欧米のジャーナリストたち。欧米ではジャーナリストの世代交代も進み(それ自体は、マジでいいことだと思うが...)、もう誰もドアーズとか聴いてないのだろうか? 寂しい...。

「確かにいくつかドアーズっぽいイメージはアルバムの中にあると思う。俺はドアーズやジム・モリソンを聴きながら育った。俺の義理の親父が好きだったしね。彼は今、俺の姉妹と一緒にバンドのマネージャーをしてくれてる。ずっと一緒に世界中回っていて、LAにも一緒に来たよ。LAで、ドアーズのギタリストだったロビー・クリーガーやドラマーだったジョン・デンスモアにも会えたんだ。夢が叶った(笑)。アルバムに関しては、ドアーズみたいにしよう、って意識したわけじゃなく、結果として自然に出てきたものだけど、いつの間にかそういうものって、入ってくるものだからね。ジム・モリソンを真似したいとか、そういうつもりは全くなかった。でもドアーズのエッセンスがアルバムには入っていると、俺も思うよ。サンタモニカをたくさん散歩して周ったところから、ストリートの雰囲気みたいなものがどこか反映されたのかもしれない」

 カリフォルニアの青い空? 冗談でしょう? ってな感じで、ドアーズもLAのバンドだった。『Euphoric///Heartbreak\\\』のセンティメントとかの地の関係がますます明確になってきた。カヴァー・アートにマリリン・モンローを使ってるというのも...。LAといえばハリウッド。かつて70年代にザ・キンクスは『Everybody's In Shobiz』というアルバムのなかで、《Everybosy's a dreamer and everybody's a star》ではじまり《Celluloid heroes never really die》で終わる「Celluloid Heroes」という曲を発表した。最高の曲だ。彼らがマリリンをアートワークに使ったことには、それに通じる感動を覚えた...と伝えたかったのだが、そろそろ時間もつきてきたし、キンクス(その曲含む)と『Euphoric///Heartbreak\\\』には音楽的接点もあまりない...というわけで、そのアートワークにこめられた思いは? という質問をぶつけてみた。

「アートワークは俺のアイディアだった。基本的に、ある部分はすごくハッピーで、ある部分は同時にすごく哀しいっていう状態をイメージしたもの。肉体的な問題っていうよりも、精神的な部分の話でね。楽天的でありつつも、どこかに怖れが潜んでいるような。俺と俺の母さんのイメージでフロントカヴァーを作ることも考えたけど、結局、夢の女性、みたいなイメージを使った(笑)」

 そしてこのアートワークは、たしかにかなり『ブレードランナー』的だ...。では、最後の質問。ぼくは、『Euphoric///Heartbreak\\\』というアルバム・タイトルにも、おおきな共感とともに胸を打たれた。ぼくは、ほとんど躁鬱病かと思うくらい感情の起伏の差が激しいというか、"今日はなんかやたら調子がいい!"というアッパーな(Euphoricな)日と"もう全然ダメだ。もうずっと寝ていたい..."というダウナーな(Heartbreakingな)気分の日が交互にやってくる。悲しくなるほど両極端。そしてこのアルバムは、そのどちらにも合う。こんな意見について、どう思う?

「うん、よくわかるよ。俺にとっては...そういう極端な感情の中にも美がある。この前、ディヴィッド・リンチの『ブルー・ヴェルヴェット』を見てたんだ。ドラマーのヨナも一緒に見てたんだけど、彼女は『(この映画は)怖いから嫌い』って(笑)。でも俺は、『確かに極端でめちゃくちゃな話だけど、すごく美しいと思わない?』って答えた。人生にはそういう部分ってあると思うよ。このレコードを聴いて、そういうふうに感じてくれる人がいたって思えるのは、すごくうれしいことだね。俺はすごく、ラッキーな人間だと思うな」

2011年5月
質問作成、文/伊藤英嗣
取材、翻訳/中谷ななみ

Glasvegas_201105_J.jpg
グラスヴェガス
『ユーフォリック///ハートブレイク\\\』
(Columbia / Sony Music)

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