ザ・ヴァクシーンズ

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THE VACCINES

バンドとして有名になることに抵抗はないけれど
セレブリティーと呼ばれる存在にはなりたくない


この5月にリリースされた、ロンドンを拠点とする4人組バンド、ザ・ヴァクシーンズのデビュー・アルバム『What Did You Expect From The Vaccines?』が、あまりに素晴らしい。

あの天災/人災後、日本はもちろん、国籍に関わらず「世界」は明らかに変わった。ここにも少し書いたのだが、クッキーシーンも少なからずその影響を受けている。ともすれば憂鬱な気分になってしまいがちな日々のなかで、なんとか前向きに進んでいくのに、これほど助けになるアルバムはないのではないかとさえ思える。

ひとことで言って、彼らの音楽は、その鼻っ柱の強さも含み、極めて若々しい。一方、妙に老成した雰囲気もある。そんな不思議なバランスを持ったバンドが、ぼくは昔から好きだ。R.E.M.だってエコー&ザ・バニーメンだってマガジンだって、当時はそんなふうに感じたものだ。おっと、いけない、またジジイっぽい発言になってしまった。ヴァクシーンズの音楽が彼らに「似てる」わけでは全然ない。Alive & kickingという英語の表現がぴったりくるような彼らの音楽には、ふさわしくない。

先日発売されたクッキーシーン・ムック『Pop & Alternative 2011』では、彼らと同じような若さを感じさせる(実際ほぼ同い年くらいの)コントリビューター氏に、彼らに関する原稿を書いてもらった(彼による本サイト・レヴューは、こちらに!)。できれば、それも読んでほしい。

ここでは、数ヶ月前の取材をもとに、それらと被らない取りおろしインタヴュー記事をお届けしよう。その原稿の執筆前に、件のコントリビューター氏に見てもらおうとも思ったけれど、いや、それでは(なんとなく)つまらないと思い(笑)キープしてあった完全未発表インタヴューです。

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photo by Roger Sargant

 もともと、ザ・ヴァクシーンズという存在が気になりはじめたのは昨年後半から末ごろにかけて、だった。今年の1月末、彼らに電話インタヴューできるという話を聞き、矢も楯もたまらずそれを敢行することにした。USツアーの直後。応えてくれたのは、ヴァクシーンズ・サウンドの要となるギタリストのフレディー・コーワンだ。まずは、USツアーはどうだった?

「とても良かったよ。個人的にはアメリカに2回くらいしか行ったことがないし、バンドとしても新鮮な体験だった。オーディエンスも盛り上がってくれてとても楽しかった。イギリスのオーディエンスとアメリカ人のオーディエンスの違いはあまり感じなかったな」(フレディー・コーワン:以下同)

 そのツアーをしていくなかで、アメリカのバンドとイギリスのバンドの違いのようなものを感じたか?

「個人的に感じたことは、アメリカのバンドは演奏の技術の面だとイギリスのバンドよりも優れているけれど、あまりイギリスのひとたちほど研究的に音楽を聞いていない印象を受けたかな。ぼくの周りではみんな四六時中音楽を聴いていて、特にいつもハングリーに新しい音楽を探しているんだけれど、アメリカでは、みんなもっと自分たちの演奏に重点を置いているように見えた。決定的な違いは、イギリスでは音楽のカルチャーや歴史の面にみんな興味を持っているのに対し、アメリカは"今"の音楽にもっと集中していると感じたことだね」

 ヴァクシーンズのフロントマン、ジャスティン・ヤングは、以前ジェイ・ジェイ・ピストレット(Jay Jay Pistolet)と名乗ってフォークっぽい音楽をプレイしていた。やはりそういったことをやっていたマムフォード&サンズとは、フラット・メイトでもあったらしい。ヴァクシーンズの音楽は、ときおりフォーク・ロックっぽくはなるものの、むしろ(とてもポップかつノイジーで"今"っぽい)ロックンロールという印象が強い。フレディーは、ジェイ・ジェイ・ピストレットの音楽を、どう思っていたか?

「ライヴにも行ったことがあるし、素晴しい音楽をやっていたと思う。実は彼とはパーティで知り合ったんだけど、そのときに意気投合して一緒にバンドをやることになった」

 それから、ドラムのピート・ロバートソン、アイスランド人ベーシスト、アーニー(Arni Hjorvar)が参加して4人組になった。アーニーは、ビョークの息子とバンドを組んでいたこともあるそうだが...。

「アーニーはアイスランド出身で、アイスランドの音楽コミュニティはとても狭いからみんなが知り合いのような環境なんだ。特にビョークは誰もが知っている中心人物的存在だから、アーニーはビョークの息子とも何かしらのつながりはあったんだろうけど、実際にバンドをやっていたっていう訳ではないと思うな...。少なくとも、ぼくは彼からその話を直接聞いたことはない」

 そしてフレディーの実兄トムは、ザ・ホラーズのベーシストだ。

「実はぼく自身も、極初期のホラーズで演奏していたこともあったんだよ(笑)。とてもいいバンドだと思う。今年リリースされるサード・アルバムを聞くのがとても楽しみだよ!」

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photo by Leon Diaper

 ザ・ヴァクシーンズは"今のロンドンの最新の音楽状況を象徴する存在"だと思う?

「実のところ、ロンドンの音楽事情をあまり知らない。だからぼくたちがロンドンの今の音楽状況を象徴する存在だとは思わない。ぼくらは周りに関係なく自分たちの好きな音楽を作っているだけ。あっ、でも今年はギターやロックンロール中心のバンドの年になりそうで嬉しいよ。アークティック・モンキーズや、ストロークスも、ついにアルバムをリリースする予定だしね!」

 先述のとおり、このインタヴューは1月におこなわれたものだ。彼らのアルバムも、無事リリースされた! そしてザ・ヴァクシーンズは、この後アークティック・モンキーズのUSツアーのサポートもおこなうことになる。それが"大抜擢"とは言えないほど、今年に入ってからの彼らの注目度はすごい。このインタヴューをおこなった時点で、すでに"世界中の音楽メディアに注目される"存在と言えた。それに戸惑いはあった? それとも自分たちの計画通りだったと言いたい?

「そりゃあ基本的には大きな舞台に立てるようになりたいと思っていたし、実現できてとても嬉しいよ。だけど、ぼくらは他のひとたちや音楽誌の言うことにあまり耳を傾けないし、特にぼくは道を歩いていても誰にも気がつかれないから別に困ることもないよ(笑)」

 この姿勢だ! 「周りに関係なく自分たちの好きな音楽を作っているだけ」「他のひとたちや音楽誌の言うことにあまり耳を傾けない」というフレーズは、アルバムの日本盤ボーナス・トラックとしても収録されている「We're Happening」の歌詞にこめられた思いの"一部"とも共通しているようだ。数年前、ロンドンの"フォークっぽい"音楽がメディアの注目を集めた。その渦中にいたリード・シンガー、ジャスティンのみならず、バンド全体がこういった感覚を共有しているのが頼もしい。

「有名人になることに興味はまったくない。セレブリティーのカルチャーはとても奇妙だと思う。そう呼ばれてもてはやされているひとたちは特に何もやっていないひとが殆どだし、例えば俳優でも有名人になってしまうと、セレブリティーの部分だけが先行してしまって、仕事をしているのにそっちは二番目になってしまう。そんなの恐ろしいし、最悪だからね。ぼくらはミュージシャンが仕事。バンドとして有名になることに抵抗はないけれど、セレブリティーと呼ばれる存在にはなりたくないんだ」

 グレイト! 最初に述べたとおり、ヴァクシーンズのサウンドには、フレディーのギターが重要なポイントとなっている。とくに影響を受けたギタリストはいるのだろうか?

「ザ・スミスのジョニー・マー、ぼくは彼のように演奏するわけじゃないけど、彼独特の誰にも真似できないスタイルがとても好きなんだ。それから、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズ、ぼくはジョニー・マーのように独特のスタイルを持っているギタリストが好きなんだ。彼は演奏だけでなく、音楽に対してひととは違う考えを持っていてそれに演奏技術も素晴しい。あとはジョージ・ハリスンかな。彼には(もう亡くなってしまったから)決して会うことができなくて、本当に残念だ」

 なるほど!

「ケヴィン・シールズには会ったことがあるし、これからも会うことになると思う。彼はとてもフランクでギターについてぼくと話してくれたんだ。彼にとっては、とてもつまらなかったかもしれないけど(笑)。とてもいいひとだった。会ったことはないけどジョニー・マーも、とても気さくだって聞いているから機会があればぜひ会いたいよ(注:実際、気さくです。読者のみなさんは、こちらもご参照ください!)」

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photo by Roger Sargant

 バンド名はどのように決まったのか?

「実はワクチンとは何も関係がないんだ(注:vaccineというのは、いわゆるワクチンという意味。この外来語は、医学用語であるがゆえにドイツ語の発音に拠っている)。はじめはいくつか候補があったんだけれど、結局ザ・ヴァクシーンズ(The Vaccines)っていう音の響きがかっこよかったっていう理由で決まった。ジャスティンがスペイン語の辞書を見ていたときに、el vaccineとかel vaccinoとかの単語をみてヴァクシーンズ(Vaccines)はどうかって聞いてきたんだ。ぼくは50年代のロックンロール・バンドみたいでとても気に入ったし、ピートはパンク・バンド、アーニーは80年代のハードコア・バンド、ジャスティンは60年代のガール・バンドっぽいと思ってたみたいで、みんなの好きな要素がひとつになっていて完璧な名前だった。こんないい名前がまだ使われていなくてとてもラッキーだったよ。医学的な意味はまったくないんだけどね(笑)」

 いや、それはかまわない(笑)。とくに、今となっては。数ヶ月前まで、ぼくが最も怖いと思っていたのは、新種のインフルエンザ系ウィルスだった。冷戦が終わるまで最も怖かったのは核兵器だったけれど、どういうわけか、今また放射能がいちばん怖いという状況になってしまったし...(注:しかし、昨日のニュースで遅まきながら知ったのだが、ヨーロッパでは日本以上にO-104が怖ろしいことになっているようだ。うーん...)。

 真面目な話をすれば、ワクチンは"もともと身体に害があるものを、ほんのわずか取りいれることで、最も怖い部分を予防する"というもの。素晴らしいバンド名じゃないか。

 ちなみに、この感覚は、みんな死にそうな顔をして暗い音楽をやっていた時代に、ザ・キュアー(治療)などと名乗って(やはり、それなりに暗い音楽をやりつつ:笑)登場したバンドのセンスにどこか通じるような気もする。

 フレディー自身が、最近よく聴いている音楽は?

「アンダートーンズ(The Undertones)だね! クラッシュやスミスとかとても有名なバンドも好きなんだけど、アンダートーンズに関しては、とても素晴しいバンドなのにそれに対して知っているひとが少ない気がする。みんながイギリスやアイルランドの素晴しいバンドについて話すときに彼らが出てきてもおかしくないのに、全く名前を聞かないから(注:彼らは英領北アイルランドで結成された。『Teenage Kicks』など、いい曲だらけ!)。このバンドの音楽を発見できたぼくは、とてもラッキーだと思ってる。あとオーストラリアのサイケデリック・バンドのタマ・インパラ(Tame Impala)のアルバム『Innerspeaker』をよく聞いている。それからプリティー・シングス、コンピレーション・アルバムの『Nuggets』(注:60年代の"オリジナル・パンク"を集めた、レニー・ケイ編纂のオムニバス)とか。他にもたくさんあるけど、言い切れないからこの辺にしとくよ(笑)」

 彼らの趣味の広さがよくわかる。ちなみに彼らは、60年代の"オリジナル・パンク"バンドのひとつであるザ・スタンデルズの曲「Good Guys Don't Wear White」をカヴァーしている(アルバムの日本盤ボーナス・トラックにも収録)。その曲を先日、アークティック・モンキーズの前座としてまわっているUSツアーで披露したとき、なんとマイナー・スレット(80年代のハードコア・バンド。彼らも同じ曲をカヴァーしていた)のギタリストが飛び入りで参加したそうだ。わお!

 これからバンドとしてやりたいことは?

「まず今年日本に行くことがとても楽しみだよ(注:4月初頭に予定されていた1夜限りの来日公演は混乱のなかでキャンセル。しかし、フジロックへの出演が確定している)。アメリカには行ったけど、日本やアジアには行ったことがない。まったく新しい経験になりそうだ。あとは新しいひとたちに会うことかな。ぼくらは社交的なバンドだから。とにかく毎日がとても新しくて刺激的で、まず今週や来週のことを考えるので精一杯だよ!」

 彼らは"今"を生きる!

 素直に告白すれば、このインタヴューをおこなった段階では、まだアルバムの音が日本に届いていなかった。それを散々愛聴し、シンプルかつ複雑、キャッチーかつディープな"うた"世界の広がりを体験した今、ヴォーカリストのジャスティンにも是非取材したいとう欲求が高まった。現在の彼らは、このころよりさらに多忙を極めているし、基本的にジャスティンは"インタヴュー"とかあまり好きそうじゃないから(ぼくは基本的にそういうやつが好きなのかも?:笑)、できるかどうかわからないけれど、もし実現したら、今度はもっと早く発表することをお約束します!

2011年1月
質問作成、文/伊藤英嗣
取材、翻訳/西川育子


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ザ・ヴァクシーンズ
『ワット・ディジュー・エクスペクト・フロム・ザ・ヴァクシーンズ?』
(Columbia / Sony Music)

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