カーズ『ムーヴ・ライク・ディス』(Hear Music / Universal)

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 ここ数年、ミュージック・シーンで数多く見られる往年の名バンドの再結成。ラーズ、ピクシーズ、ペイヴメントなど90年代のオルタナ勢から、この夏のサマー・ソニックに登場するPiLやポップ・グループなどポスト・パンク期のレジェンドまで。もう「お金のためでしょ?」なんて意地悪な意見はナシ。確かにフェスや"期間限定"ツアーがビジネスとして成立している側面もある。でも、やっぱり彼らのライヴや新譜を耳にしてしまうと...月並みな言葉ではあるけれど、優れた音楽は時代性/ノスタルジアを軽く凌駕する。そして、"今"だからこそはっきりと見える普遍性があるのも事実。僕が見たピクシーズはメンバーの体型とは裏腹にタイトだったし、これからやって来るPiLの存在感は半端じゃないだろう。

 それにしても24年ぶり! カーズがまさかの再始動だ。僕が生まれて初めて買ったレコードはカーズの『Greatest Hits』だった。"ベストヒットUSA"で「Tonight She Comes」のビデオ・クリップを見て、そのレコードを選んだ当時の自分をほめてあげたい。2枚目に買ったレコードはトーキング・ヘッズの『Little Creatures』。この2枚が僕の人生を変えたと言っても過言じゃない。僕は今も、そしてこれから死ぬまでずっとロック/ポップ・ミュージックを聞き続ける。その楽しさを教えてくれたのは、カーズとトーキング・ヘッズだった。その頃は"オルタナ"だなんて、思ってもいなかったけれど。

 80年代に全米チャートをにぎわせるヒットを連発し続けたカーズ。そしてイーノとの邂逅を経て、『Remain In Light』という金字塔を打ち立てたトーキング・ヘッズ。中学生だった僕はモダン・ラヴァーズの1st『The Modern Lovers』を見つけて驚愕した。カーズのドラマー、デヴィッド・ロビンソンとトーキング・ヘッズのマルチ・プレーヤー、ジェリー・ハリスンが同じバンドに在籍していたなんて! しかもプロデュースは元ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのジョン・ケイル。これでバラバラだったイメージがひとつになった。おぼろげながら見えてきたのは、60年代中盤~70年代後半のニュー・ヨークを中心とするアンダーグラウンドの音楽シーン。それはヴェルヴェット・アンダーグラウンドからテレヴィジョン、ラモーンズにまで受け継がれる反逆と知性の爆発であり、僕に"Do It Yourself"という考え方を教えてくれた。つまり、パンクだった。

 バンド解散後はウィーザーの1st(ザ・ブルー・アルバム)や3rd(ザ・グリーン・アルバム)、ガイデッド・バイ・ヴォイセズの『Do The Collapse』など、プロデューサーとしての活動が目立っていたリーダーのリック・オケイセック。それらのアルバムからカーズや彼のソロ・アルバムを手に取った音楽ファンはどれくらいいるのかな? パワー・ポップが好きな人はもちろん、ストロークスのファンにもこの『Move Like This』を聞いてもらいたいと思う。すぐに覚えられるメロディ、シャープなギター・リフ、キラキラ輝くシンセ、そしてタイトで軽快なドラム。いつまでたっても手の届かない近未来からの「Hello Again」だ。そこで30年も前から鳴らされ続けてきたサウンドが、どれほど多くのバンドや音楽ファンに愛されてきたのかわかるはず。

 プロデュースはR.E.M.やスノウ・パトロールを手掛けてきたジャックナイフ・リーとカーズが半分ずつ。本質は何も変わっていないけれども、バンド編成が変わってしまった。オリジナル・メンバーでベーシスト/ヴォーカリストのベンジャミン・オールが2000年に癌で他界。ジャケットを飾るシルエットも彼を除く4人だ。ベンジャミンは、デビュー曲「Just What I Needed(燃える欲望)」や、今でもFMでよくオン・エアされる「Drive」などで美声をキメていたイケメン。クセのあるリック・オケイセックのヴォーカル(とルックス)との対比もカーズの魅力だった。『Move Like This』なら、「Soon」とか「Take Another Look」がベンにはぴったりかな。ワクワクするようなポップ・ソングとちょっぴり切ないバラードのバランスが気持ち良くて、何度もPLAYボタンを押す。"ポップ"という言葉も"オルタナティヴ"が広く知れ渡った今では、多彩なイメージを帯びるだろう。そこにカーズの軌跡と現在がある。

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