アナ『Hole』(Second Royal)

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ana.jpg 福岡出身のバンド、アナはレーベルも京都の「SECOND ROYAL」に移籍し、彼らの第二期の幕開けとなる三年振りのアルバム『HOLE』が発売になった。

 彼らは渋谷系に影響を受けているバンドであり年齢的にも僕と同学年で今年三十代に入る。数年前に彼らのライブを初めて観たとき、渋谷系にまったく影響を受けず、真剣には聞いてなかった僕でさえもオザケンやコーネリアスの影響を絶対に受けていると思わせられるシンセとサンプリングによるエレクロ・ポップを鳴らしていた。

 この『HOLE』と前作『FLASH』が出るまでの三年間のあいだに、彼らはライブをしながら拠点であった福岡から東京に上京した。ボーカルである大久保君は『FLASH』までの時期を<中・高校時代に聴いてたもの、90年代モノの影響をひきずってやっていた>とインタビューで語っている。

 それは90年代に思春期を過ごした世代にハマろうがハマらなくても流れていた音楽、脳裏にしっかりと刻みつき、あるいは脳裏の奥の方にわずかに残るものだった。彼らが鳴らす音楽はそれらを呼び起こした。だからそこに加わったシンセにサンプリングに彼らのライブパフォーマンスをライブで観たものはポップな音楽で踊り、ある意味では哀しい歌詞や少しのアイロニーも混ざった歌詞にかつて過ごした時間や人との想い出を揺り起こされた。

 第二期の前に第一期が上京と所属していたレーベルとの契約解消によるフリーへ。そして「SECOND ROYAL」所属のRufusの上田修平氏との縁から三人でやってきた彼らが自分たちでアルバムを出そうとしていた際に彼にプロデューサーを依頼し「SECOND ROYAL」からやるならうちのレーベルから出しましょうとレーベル所属が決まり彼らの第二部が動き出した。そこまでにあった人と人の繋がりや彼らがやってきたものが目に見えて繋がり出した時に『HOLE』というアルバムが輪郭を増して作られ出す。

 地元の福岡から上京し東京へ、そして三人で作っていた所にプロデューサーが加わり、前の三作とは制作環境が変わった中で曲が作られていく。アルバムを通して聴くと少しばかりノスタルジックな部分、歌詞もそうだが感じながらも同時代性とでもいうか同じような感覚を感じられる。まあ、前三作も歌詞的にはノスタルジックな部分はかなりあったけども。

《永遠と垂直に交わった時間の中で/時は去り 君が行き 僕はとまどった/見送っているようで僕らは見送られては/また誰かとの距離を歩いてくよと》
(「TEI」)

《君をおもい眠れない夜が何年続いたとしても/きっといつか土の下で眠るそんな日々がくるってことを/泣かないでほしい せつなさの上で眠る日に》
(「ノルウェイのあれ」)

《だれかと不意にあいたくなったろう/今夜も街へ消えていくのだろう/目にしみるような煙にまみれた/部屋にたちこめたため息よりはましさ》
(「夜は幻」)

 どんだけ孤独なんだよっ! とツッコみたくなるような歌詞も彼らのポップサウンドにのるとノスタルジーを感じさせつつも踊ってしまいたくなる。時というものの中で僕らが掴みたくても掴めないもの、どうしようもない巨大な力の前で失ってしまうものたちと僕達の人生はいつも一緒だ。全てはギリギリのバランスの中で成り立っているように思える、本当の事とか隠されている事とか嘘だとか、僕らは3.11の大震災の後では確実に変わってしまったと思う。僕はそうだった。あなたはどうだろうか?

 この『HOLE』からアナを聴きだしてもとてもバランスのいいポップなアルバムだと感じると思う。数年前から聴いていた僕もアナの変わらない部分と変わっていく部分のバランスが聴いていて非常に心地いい。彼らが影響を受けた核となる音楽たちと環境が変わり出会いと経験の中で手にした想いやテクニックや音楽性が溶け合っている。

 アナ=穴=HOLEというある意味でのセルフタイトル。まあ、こういうの本当に好きだなって思いながらも第二期のスタートをきった彼らの音源を聴いてライブで彼らを見てほしい。単純にいえば素敵なポップミュージックがそこには鳴っている。

 このアルバムがアナの新しい名刺代わりになる。オザケンやコーネリアスが好きな、好きだった人には特に聴いてほしいと思う。僕が彼らを聴くようになったのはアナを聴いてだから逆に先祖返りをしてしまったけど、90年代という時代から続くものが今どういうものに変わっているのかというだけでも彼らの鳴らしている音が同時代性を感じさせるものだと思う、特に70年代後半から80年代前半生まれ。きっと90年代的な表現に影響を受けた世代の表現がこれからもっと花咲くだろう。90年代に思春期を過ごした世代が三十代に入って表現の世界でももっと目立つようになると思うから。ポップでノスタルジーでアイロニーも含んだ散乱銃で色彩を失いつつある世界中をカラフルに。

《風が街のほうから季節を運んでは/幾千もの幾千もの通りすぎてた日々に/例え過ぎた言葉とメロディーを繋いでは/宛てもなく何枚もの返事を書き続けているのさ》
(「PLANET」)

(碇本学)

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