テレボッサ『テレボッサ』(Rip Curl Recordings / Yacca)

telebossa.jpg 一括りに「ドイツの音楽」と言っても、第二次世界大戦後は「フランクフルト・サウンド」として知られるジャズ・シーンが隆盛しており、60年代末70年代初頭にかけて「クラウト・ロック」が西ドイツをベースに世界に向けて影響を広げていた時期には、"ベルリン派"として知られるタンジェリン・ドリーム、アシュ・ラ・テンペルに代表されるサイケデリックで実験的なバンドの存在も大きかったが、その後の世界的なシェアの度合を考えると、西部ライン地方のクラフトワーク、カンなどのロック産業文化へ向けての警鐘と明るさが並存したバンドが秀でていたと言えてしまうのは仕方のないことかもしれない。

 何にしても、「一枚の壁」の前後までといおうか、ベルリンという豊穣である筈の都市は混迷や模索を余儀なくされた。機能の緩やかな衰退と、経済的停滞、治安の悪化もあり、「一枚の壁」によって囲まれた空虚な形質を外側へ向けて発信する「記号」を孕んだまま、音楽のみならず文化都市としても、北部の経済都市であるハンブルクやライン川の河畔に位置する産業都市ケルンといった場所に主管が移っていくことになり、"外れてゆく"場所になっていった。

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 しかし、1989年に壁が壊れるまでのベルリンはだからこそ、持たざるユースを中心した文化的な閉塞を内側からブレイクスルーしてゆくような意思も育て上げていき、例えば、70年代後半から80年代初めの英国のパンク、ニューウェイヴのムーヴメントと西ドイツが「共振」し、ノイエ・ドイチェ・ヴェレ(Neue Deutche Welle、"ドイツの新しい波"の意)を作り上げることになったが、ハンマービートが印象的なDAFやノイズ、インダストリアル・サウンドの革新を進めたアインシュテュルツェンデ・ノイバウテン、ジャーマン・エレポップの才人ホルガー・ヒラーなど多種多様なアーティストたちが芽吹き始めた際に、そこでのキーとなった都市はベルリンであった。産業化したロックや形骸化したアートに対しての〈反〉たるアティチュードを掲げるために、オルタナティヴな音楽実験の場の文脈下でベルリンは様々なアーティストたちによって「試された」。廃品置き場から拾ってきた鉄板を使ってのパーカッション作り、地下でのノイズ・パーティー、アヴァンギャルドとしか言いようのない演奏スタイル、兎に角、あらゆる試行がそのまま眼前の現実と連結される形で、文化状況の閉塞を打ち破るような狂騒が静かに渦巻いていった。それは、"Die Geniale Dilletanten"(天才的ディレッタント)と形容もされ、1981年のベルリンの壁近くのポツダム広場のテントではディー・テートリッヒェ・ドーリスのヴォルフガング・ミュラーが主となったイヴェントが催されるなど、ディレッタントがときに帯びるネガティヴな意味を越えて、確実に時代に楔を打ち込んでいった。

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 そして、壁が壊されて20年以上経ち、緩やかにグローバリゼーションが文化の均質を迫る中、ベルリンという辺境は再び「中心」に戻ったのか、というと、そうでもなく、テクノ・ミュージックとアヴァンギャルド・ミュージックの模索が為されるカウンター性を持った都市の意味を近年、更に強めている。今回、紹介するベルリンで結成され、活動するテレボッサ(TELEBOSSA)も"とてもベルリン的な、雰囲気を持ったディレッタントなユニット"と言えるだろう。
 
 テレボッサという如何にもな名前を持ったユニットを担う一人は、ブラジル南部のクリティーバ出身で、ヨーロッパで舞台音楽を中心に活動をするシンガーソングライター、シコ・メロ(CHICO MELLO)。最近でも、彼の84年のエクスペリメンタル・ミニマルの名盤『Agua』が再発され、話題になったのも記憶に新しい。もう一人は、ドイツ出身のチェリストにして、Kapital Band1のメンバーでもある前衛的な音楽家ニコラス・ブスマン(NICHOLAS BUSSMANN)。一部ではカエターノ・ヴェローゾを彷彿とさせるとも言われるシコの歌声は非常に評価が高い。中性的という要素では確かに感じる部分があるが、個人的にマルコス・ヴァーリやセルソ・フォンセカ辺りのスムースな透明感も見える。その彼がボサノヴァを軸にした軽やかな弾き語りをベースに、ときにモンゴルのホーミーといった歌唱までみせ、そこに、ニコラス・ブスマンのドイツの伝統的な室内楽の形式に則ったチェロや、まろやかなエレクトロニクスが絡んでくる。

 本作に収められた7曲では、オリジナル曲以外にも、ブラジル音楽の古典である「Seculo do Progresso」や「Amoroso」等カバーを含んでいるが、比較的、奇を衒わない形におさまっている。それでも、要所でエクスペリメンタルなアレンジが為されており、ブラジル音楽のトラディショナルなセンスとヨーロッパ音楽のクラシカルな深みが「ミニマル」の枠内で絶妙に溶け合い現代的な野心に溢れた面白い内容になっているのは二人の気鋭の現代音楽家の面目躍如と言ったところだろうか。

 この日本での先行発売を経て、5月にはドイツの〈Staubgold〉から世界リリースがされることで、盛り上がりを見せている「ポスト・クラシカル」と呼ばれる音楽の中でも、テレボッサの研ぎ澄まされた美しさは俄然、注目を浴びてくるだろう。ベルリンという"辺境の中心"から生まれてくる音楽にはまだまだ眼が離せない。

(松浦達)

*一部レーベル記述に誤りがありましたので修正しました。【編集部追記】 

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