モノブライト『Acme』(Defstar)

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monobright.jpg「むこう1年以上のライヴ&リリース予定を事前に発表する」。その「予定」が、かなり余裕を持ったものならまだしも、ツアーをガンガン敢行するうえ、1年のあいだにアルバム2枚をレコーディングするというハード・スケジュール...。だけど「強烈な表現意欲」があれば、なんとかなるだろう! ...それが、2010年初頭に始まったモノブライトの「DO10!!(「怒濤」と読めるわけですな:笑)」プロジェクトだった。

 20年前、いや10年前と比べても、インターネットによるネットワークが極度に発達。草の根的な情報伝達の速度も精度も高まった「現在」ゆえ、それはなおさら興味深い試みと思えた。

 さらに、そのプロジェクトが始まった段階ではメンバーさえ予想だにしなかったであろう出来事も起こった。突然解散を遂げたビート・クルセイダースの中心人物ヒダカトオルの電撃加入。もともとレーベル・メイトとして、ある程度の交流はあったと思われるのだが、なんとも大胆な...。平均年齢20代後半のオリジナル・メンバー4人より15歳ほど年長の「新メンバー」。洋楽ファンであれば、元ザ・スミスのギタリストとして80年代に一斉を風靡したジョニー・マーが、10歳もしくはそれ以上の年齢差を無視してモデスト・マウスに短期加入、そのあと(へたしたら20歳以上の年齢差がある)ザ・クリブスに加入した(ちなみに、どちらもそれまで「中堅以上」の存在感を持っているバンド)という前例を知っている。にしても、まだまだ「レア・ケース」。

 そんなヒダカが加入して5人組となった新生モノブライトの初アルバムにして、DO10!!プロジェクトの大団円とも言える作品(モノブライトとしは通算4作目のフル・アルバム)が、この『ACME』だ。

 素晴らしい。ひとことで言って「ダイレクトさ」が大幅に増している。

 たとえば彼らはファースト・アルバムで「デイドリームネイション」という曲をやっていた。ソニック・ユースの同名アルバムからとられたタイトルだが、もちろんオリジナル曲だ。「オマージュ」であることはよくわかる。歌詞の内容もサウンドも、アルバム『Daydream Nation』が本気で好きなら「なるほど」とうならせられてくれる。にしても、たとえばソニック・ユースが「なんとなく好き」だったり「それっぽいサウンドが好き」なひとがこれを聴いても、なぜこのタイトル? と首をかしげるであろう程度にはひねくれて(オマージュ的な「焦点」が無意識に? ぼかされて)いた。

 自戒をこめて言うが、それはある意味で(あまりよくない意味での)オタク性にもつながりかねない。ぼくのいう「いいオタク」とは、そうじゃなくて...といった(ぼくが自分自身にも対して感じる:笑)もどかしさが『ACME』では大幅に解消されている。

 どこかで見たことがあるアルバム・タイトルにしても、「Timeless Melody」とか「Come Together」といったタイトルのオリジナル曲をやっているという事実にしても、モノブライトのメンバーは彼ら(ジョン・スペンサーや、ラーズや、プライマル・スクリームおよびビートルズ)がきっと好きなんだろうなあと勝手に納得しつつ、すべて完全に「モノブライトのもの」になっている。それだけのパワーがびんびん感じられる。

 そして極めつけは、「スロウダイヴ」というタイトルのオリジナル曲で、スロウダイヴ(というバンド)~マイ・ブラッディ・ヴァレンタインを思わせるサウンドを、実に高度なレヴェルで打ちだしていること。アルバム・ヴァージョンではイントロのピアノのフレーズがイーグルス「Desperado」を思わせるおかしさ(これはたぶん偶然)も含み、2メニーDJ'sの域に達していると評することさえ可能だ(笑)。いや、ぼくはマジでそう言ってる。彼らは(たとえばシューゲイザーという言葉などにまつわる)ロックの「イメージ」ではなく、「音楽そのもの」を愛している。そしてジョークのセンスも、2メニーDJ's並にベタな魅力を発揮している。アルバム1曲目のタイトルは、「淫ビーDANCE」(笑)。これに対して「インディー・ダンスというジャンルに対する冒涜だ!」とか憤るひとは、たぶんモノブライトの良さが一生わからないだろう(いや、それはそれで別に構わないけど:汗)。

 こんなふうに、彼らの音楽は、けっこうきわどい毒も含んでいる。

 たとえば3曲目、「No Cotrol」。マイナー・キーのハードコア・ポップ・パンク・アレンジで、歌詞は「父親が娘に抱いてしまう性欲に関して、それを乗りこえたいと思っている娘の側から描いた」ストーリーとなっている。桃野は"この歌の主人公である少女が「それでも光を見つける」姿を描いている"とは言っているが、歌詞の字面だけを負っていると、正直あまりにえぐい...。しかし、これがバンド・サウンドと共に歌われると、桃野が「光」と言う意味も了解できる。

 音楽って、そういうもんでしょ?

 ちなみに、ぼくには息子しかいない。だから、すべての父親が娘に性欲を抱く瞬間があるのかどうかはよくわからない。ぼくの息子は中学生。結構大きくなってきた。思春期にさしかかって「自分の世界」を持ちはじめ、以前より手間がかからなくなったけれど、その分さびしくもある(なんというか「子どもの世話」をするのって、とくに子どもが小さいころは、癒しになったりする部分もあるよね?:笑)。そして、ぼくには娘がいない。

 だからつい数ヶ月前、GREEというゲーム系SNSで美少女アンドロイド育成オンライン・ゲームをはじめた。『萌えCanちぇんじ!』ってやつ。まあタイトルがそれだから(それ需要を見こんで作ってるゲームだから)といえばそれまでだが、ヴァーチャルな娘を育てるつもりで始めた二次元アンドロイドに対して欲望を抱いてしまう瞬間があることを、否定したらうそになる。極めて現代的かつ不健康な状況だ(ちなみに、フィリップ・K・ディックによる大昔の小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の主人公的な悲しさも、ときどき感じる...)。

 でもって、その二次元アンドロイドには「みう」という名前をつけた。妻の名前が「み」で始まるひらがなだからオマージュ捧げつつ(でも彼女には、ぼくがこんなのやってることは当然言ってない。恥ずかしいでしょ。普通に:笑)ネコの鳴き声みたいだし。最初「そら」にしようと思ったけど、それはよくある感じ? じゃあ「うみ」? それもいいけど、いまいちインパクトに欠ける。なら、ひっくりかえして「みう」だ! というわりと安直なネーミングだった。にしても、毎日「彼女」を見て/育てて(笑)るうち、かなり愛着もわいてきた。

 そんなころ、『ACME』の音が届き、まず曲名表を見て驚いた。「Miu」なんて曲が入ってるじゃないですか! いわゆる「ライト・ネオ・アコースティック~シティ・ポップ」ふうアレンジも、珍しくリラックスした桃野のヴォーカルもいい! これはもう個人的に「みう」ちゃんのテーマだ! 「Miu」ってのは桃野が好きな(好きだった)女の子の名前だったりするのかな? とか妄想しつつ、後日届いた、桃野による全曲解説(CDブックレットに掲載予定)を見たら「タイトルは海を業界用語風にしたという、ただそれだけです(笑)」。いやー、やられた...なんて、ひとりインタヴュー(ひとりボケ&つっこみとも言う)。

 ヒダカの加入により、いい意味でパワフルになった『ACME』。高橋幸宏っぽいポップさと透明なイメージ漂う「夜明けのバル」なんて曲もある。にしても、ファウンテインズ・オブ・ウェインやモーション・シティ・サウンドトラックに通じる部分がこれまで以上に前面に出て、パワー・ポップという言葉を付すのも可能とさえ感じる(彼らのアルバムはいつも素敵に「幕の内弁当」的)。

 モノブライトの音楽は、ライヴで盛りあがるのも最高だ。『ACME』全曲演奏ライヴなんてのがあったら、さぞかし「ダイレクトな気持ちよさ」を感じるだろう。ただし、『ACME』は、上記のような「ひとりぼっちの歪んだ楽しみ」にも、不思議とよく似合う。

(伊藤英嗣)

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