ザ・ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハート『ビロング』(Slumberland / Yoshimoto R and C)

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tpobpah.jpg 以前のシアトルでのライヴレポートの際にも書いたが、ザ・ペインズ・オブ・オブ・ビーイング・ピュア・ハートは、セルフタイトルを冠したファースト・アルバムから、着実に進化を遂げている。「Higher Than The Stars」EPにおいて、表題曲でプライマル・スクリームを意識したというシンセサイザーを前面に押し出したダンス・サウンドへ歩み寄る試みはもちろん、「Say No To Love」や「Heart In Your Heartbreak」といったシングルをリリースする度に、貪欲に新しいカラーを取り入れてきた彼らだけあって、セカンド・アルバムが今春発表されるという報は、今まで以上に多くのリスナーの期待を高めずにはいられないものだっただろう。しかも、プロデュースにスマシング・パンプキンズ、ナイン・インチ・ネイルズ、シガー・ロス、ジーザス・アンド・メリー・チェインなどを手がけてきたフラッド、ミックスに同じくスマパンやNINやジザメリに加えて、デス・キャブ・フォー・キューティー、ブロンド・レッドヘッド、果てにはマイ・ブラッディ・バレンタインやライドといったシューゲイズの雄たちを手がけてきたアラン・モウルダーを迎えて制作されたという事実だけで、インディー・ミュージック・ファンにとっては垂涎ものではないだろうか。スマパンの『Siamese Dream』を共通のフェイバリットの内の一枚として掲げているだけあって、バンド側も、このアルバムを発表するまでは死んでも死に切れないくらいの思いがあったことだろう。

 さて、満を持してリリースされるこの『Belong』は、端的に言うと、「Say No To Love」以降のシングルのジャケットのアートワークが象徴するように、ファースト・アルバムよりも、格段にカラフルな世界を見せてくれる豊満なサウンドだ。ファーストで彼らが示してくれた、モノクローム、あるいは淡い単色の薄こけてただれたような世界(それはジャケットだけでなく、彼らのアーティスト写真やPVでも確認することができる)に、徐々に彩りが増し、平面的なきらいも否めなかった(もちろん、この平坦さはファーストの大きな魅力の一つでもあるのだが)サウンドは、遂には、抑揚を身につけ、広がりを身につけ、何よりも確かな温かみを身につけた。例えるなら、それは、秋の始まりを感じさせるように紅く染まりゆく街路樹を通り雨が過ぎ去り、木々の先に残った滴が雨上がりの陽の光を反射して、きらきらと光る並木道のようだ、と書いてみるといいだろうか。

 僕はこのアルバムの国内盤のリリースが発表されると同時に、最初に聴いた時、思わずスーパーカーやアートスクールといった日本のオルタナティヴ・バンドのサウンドの広がりの遍歴を思い出さずにはいられなかった。デビュー・アルバム『スリーアウトチェンジ』をリリースしたスーパーカーが以降、新作を発表する度に、深淵を感じさせるまでに奥行きを増していったように、アートスクールが『Flora』をリリースし、それまでの彼らの描いた薄れゆく君と壊れゆく僕を包んだ轟音の世界にシンセサイザーの軽快なポップ・センスが加わって、より豊満な世界を垣間見ることができたように、この『Belong』もまた、一辺倒なカラーが昇華され、元の絵の具と新しい絵の具を混ぜ合わせたような、「次の世界」を見せてくれる。
 
 少し余談だが、日本のオルタナティヴ・バンドと比較を試みた上で、もう少し、加文させて頂くと、日本のオルタナ・バンドで世界観として彼らに近いのはスピッツであると僕は感じているのであるが、今作はスピッツ・ファンにもお薦めさせて頂きたいものでもある。彼らが歌う、「純粋さを保ち続けること」。そのためには歪んでもペインズ(複数の傷跡)を背負っても構わない、ただただその先のきらきら光る世界を切望し、それだけが見てみたいのだという無垢な衝動はスピッツのそれと、とても似通っているように思える。

 絵の具の先の新しい色は1曲目であり、シングルとしてもリリースされ、アルバムの表題曲でもある「Belong」を聴いてすぐに手に取るように感じることができるだろう。横に揺れるクリーンなアルペジオとタイトなドラムが軽快に鳴り、ローファイな轟音が襲ったかと思うと、すぐにクリーンとダーティな2つのギターは絡み合い、今までの彼らとは決定的に違うカラフルなノイズを響かせる。そこで、ファーストから何倍も温かみを増したキップ・ベルマンのボーカルが乗った時点で、あなたの目の前の景色は既に甘い暖色のトーンに変わっているだろう。ジーザス・アンド・メリー・チェインのような残虐な曲やアソビ・セクスを思わせる幻想的でキュートな曲もあれば、先のアートスクールが『14 SOULS』などで鳴らした清冽なまでのきらめきを保ちながら沈みゆくサウンドを想起させるような曲もあるが、どの曲もドリーム・ポップ、もっと言えば、オルタナティヴなポップ・エッセンスに包まれているから、素晴らしい。彼らがこれまでみるみる内に躍進し続けていく様を見届けていたリスナーからは驚きと同時に、「やっぱり彼らはやってくれた」というような確信の声すら聞こえてきそうだが、まさかここまでとは思えただろうか。それほどまでに、このアルバムは彼らを確実に新たなステージへ導き、多くのリスナーに彩りをもたらすようなポップ・センスに満ちている。
 
 たった一つ個人的に残念に思わずにはいられないのが、「Higher Than The Stars」EPの後にリリースされ、それまでの彼らとの決定的な差異を見せつけたシングル「Say No To Love」が収録されていない(残念ながら、国内盤のボーナス・トラックにも収録されなかった)ことであるが、それを補ってもこの『Belong』が、世界中の多くのリスナーの2010年上半期のベスト・オブ・インディー・ポップ・アルバムに選出され得るのは、まず間違いないだろう。「カラフルなペインズなんてにわかに信じ難くてアルバムにすぐには入るのは少し抵抗が...」なんてあなたには、是非、今作の前に「Say No To Love」を聴くことをお薦めさせて頂きたい。

 最後に、もう一度だけ書いておこう。『Belong』には彼らの新しい世界が詰まっている。それは、彼ら自身を新しい世界に進ませるだけでなく、インディー・ミュージック・シーンをもよりカラフルに染めてくれるだろう。僕は以前、クッキーシーンのムック誌に「彼らは00年代後半で最もホットだったシーンの一つ、ブルックリンの街角から出てき、それまでのこんがらがったニューゲイズ論争を一蹴した」といったような事を書かせて頂いたのだが、今作を聴くと、より彼らをニューゲイズという狭い枠組み一つで捉えることは不可能なのであると再認識させられるだろう。

 あなたが純粋さを保ち続ける上で、幾つもこしらえるだろう多くの傷跡に、この優しく甘いノイズが染み渡りますように。

(青野圭祐)

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