【合評】SALYU X SALYU『S(o)un(d)beams』(Toy's Factory)

salyusalyu.jpg 3.11の影響でリリース日が遅れたのもあるが、後出しジャンケンになってしまった感は否めないので、好き勝手に書かせてもらおうと思います。Salyu本人が(それまでほとんど放置状態だった)ツイッターで夜中にアナウンスした途端、すさまじいバズを巻き起こした新プロジェクト、その名もSalyu×Salyu(サリュ・バイ・サリュ)。本人いわく、2年以上前から水面下で動いていたプロジェクトらしいが、あのコーネリアス=小山田圭吾が全面プロデュースということで、今まで彼女の存在を無視してきた音楽評論家やメディアが、手のひらを返したように人物像や過去作品を調べていましたね。おせーんだよ。

 振り返れば、2010年のSalyuはリミッターが外れたように働きまくっていた。まず、小林武史の黄金律をスロットル全開にした名曲「新しいYES」と、3年ぶりのオリジナル・アルバム『MAIDEN VOYAGE』のリリース。夏には鮮やかなポップ・シフトを見せた新曲「Life」で大衆音楽に接近し、フル・バンドまたはコンボ編成による2度の全国ツアーをやり遂げ、夏フェスをはじめとする様々なイベントへ出演。七尾旅人やMiss Mondayの作品へのゲスト参加、バラエティー番組を含む多数のメディア露出、そして、いまだにカルト的信者を多く持つリリィ・シュシュを新曲と共に"再生"させ、中野サンプラザにて一夜限りのコンサートを開催。あまりのワーカホリックぶりに、彼女のベクトルが一体どこに向かっているのか理解できなかったほどだ。

 しかし、その"神出鬼没"なフットワーク、あるいはアグレッシブな"身体性"は、本作『s(o)un(d)beams』で見事に昇華されたと言えるだろう。かねてから「自分の声は楽器だ」と語ってきたSalyuだが、まさに面目躍如。鍵盤の8鍵すべてを押さえることで生じる不協和音を、人間の声に置き換える「クロッシング・ハーモニー」なる理論に端を発し、Salyu自ら小山田にアプローチを仕掛けたという。ドイツのエレクトロ・バンド、ラリ・プナ(Lali Puna)のカヴァーである「Hostile To Me」を除く全編で小山田が作曲を手がけているが、歌詞を寄せた面々が興味深い。坂本慎太郎(元ゆらゆら帝国)、七尾旅人、国府達矢、いとうせいこう...いずれも曲者ぞろいであるが、国府はSalyuの過去作品でも小林武史とは違った前衛性を常に提示してきた才人なので、相性は文句なし。坂本の予期せずして震災をイメージさせる言葉が並んだと話題の最終曲「続きを」は、すでにアンセムの風格さえ漂わせている。

 小山田の手によって、記号的にカットアップされたSalyuの声たち。4人のSalyuによる輪唱とハンドクラップがピアノとリズミカルに絡む「ただのともだち」を筆頭とし、"航海"をキーワードに『MAIDEN VOYAGE』との連続性を窺わせる「Sailing Days」、プレフューズ73のようなヴォーカル・チョップ手法の「歌いましょう」、トロピカル・テイストにキュートな言葉遊びが映える「奴隷」、クラシック&ボサノヴァ調の「レインブーツで踊りましょう」、スラップ・ベースとヴォーカルの掛け合いがたまらない「Mirror Neurotic」など、収録された楽曲はどれも"声"が主役だが、エクスペリメンタル一辺倒に振り切るのではなく、きわめて楽しげなポップ・ソングに仕上がっているのが特長。"歌いましょう"や"踊りましょう"といった、能動的なアクションを促すタイトルもSalyuには珍しい。"声"にフォーカスした楽曲---というと、やはり『MAIDEN VOYAGE』のラストを飾った「VOYAGE CALL」を思い出す。歌詞こそ存在しないが、伸びやかな高音ヴォイスと溢れんばかりの開放感が押し寄せるあのナンバーは、シンガーとしてのSalyuが別次元のレヴェルに到達してしまったことを何よりも物語っていた。そうして「声の実験」に流れ着いた本作は、またもや初期のファンからは賛否両論だと聞くが、彼女の飽くなき探究心とチャレンジングな姿勢は、メインストリームで活躍する多くのアーティストも見習うべきだ。

 ただ...。いや、もちろん手放しで絶賛できる傑作ではあるが、周囲が大騒ぎするほどの「斬新さ」は感じられなかった。つまり本作は、Salyuにとっての『メダラ』に当たるアルバムなんじゃないかと。これまで何度もビョークからの影響を公言してきた彼女だけに、"声"にフォーカスし、ヒューマン・ビートボックス(Salyuも近年興味を持っているらしい)を大々的に取り入れた『メダラ』は、人間としての表現の可能性/身体性の限界という面でも大きなヒントになったんじゃないかと思う。となると、音のマエストロ=小山田圭吾の立ち位置はマシュー・バーニーか? デビュー当時より「和製ビョーク」と呼ばれ続けてきたSalyuが、もはや本家にも匹敵する(何度も言うが)"身体性"を獲得した『s(o)un(d)beams』は、この稀有な才能における新たな"自我"の目覚めなのである。

<続きを/もっと見たい>。

(上野功平)

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salyusalyu.jpg 声に惹かれて震える。そんな経験があなたにはあっただろうか? 僕にはあった。それがSalyuだった。Salyuが一般的に(世間に知られ始めたという意味で)認知されたのはプロデューサーである小林武史とミスチルの桜井和寿を中心とした「ap bank」の活動資金や融資金を集めるために結成されたバンド「Bank Band」の曲『to U』からだと思う。

 今から十年前のゼロ年代初頭に小林武史の盟友とも言える映像作家・岩井俊二監督作『リリイ・シュシュのすべて』において物語のキーパーソンとしての歌手「リリイ・シュシュ」としてSalyuは世に出る形になった。作中では映画内のプロモーションビデオに現れる形のみだった。三十代半ばから二十代後半の世代は九十年代に思春期を過ごし、今やある種のジャーゴン的な使われ方にすらなって今の二十代前半や下の世代に全く通じなくなったミニシアター系や単館系映画を多感な頃に観た世代にとって映像作家・岩井俊二は非常に影響を受けたクリエイターだったことは言っておきたい。

 その後、Salyu名義として彼女は小林武史プロデュースでデビューする。僕は正直彼女がSalyuとしてデビューしたことを知らなかった。COUNTDOWN JAPAN 04/05でなにげなく彼女のステージを観た。Salyuはまだシングルを二枚ぐらいしか出してなくその次の年に発売される曲になった『彗星』を聴いて僕は虜に、その声に一気に持って行かれた。彼女が「リリイ・シュシュ」だとわかったのは曲数がなくて普通に「リリイ・シュシュ」の曲を歌っていたからだった。

 僕はあまり女性ボーカルに惹かれたりすごく追いかけたりしたことがなかった。ただ『彗星』という曲がきっかけだったが彼女の天性の声に惹かれてしまった。それから彼女のライブやツアーはできるだけ観に行くようになった。当初は新宿ロフトでのスプリットライブ等にも小林武史はキーボードとして必ずいるような感じで彼がsalyuに対しての期待も凄いのだと感じていた。Salyu自体の人気も『to U』以後には確実に出てきたのだけどファーストアルバムツアーの後のアコースティックツアーの辺りから少しずつだが人気が出ているのを肌に感じるようにはなっていた。Bank Band『to U』の前から彼女のツアーのラストではSalyu ver.『to U』で締めていた。小林武史とのクリエイションの中で彼女はさらにボーカリストとしてアーティストとして成長し、自分の考えをいかに表現するかを体現しながら楽曲を発表していく。一度は小林以外のプロデューサーと組んだりしながらも去年の終わりには『リリイ・シュシュ』プロジェクトが再始動もしたりしている。

 Salyuとしてではなく自らをププロデュースする形でのsalyu×salyuとして音楽プロデューサーにコーネリアスを、作詞には元ゆらゆら帝国の坂本慎太郎に七尾旅人にいとうせいこうという布陣でリリースされるのが、すいません前フリが長過ぎましたがSalyu×Salyu『s(o)un(d)beams』 という新しいアルバムです。

 Salyuの公式サイトでのコーネリアスとの対談インタビューによるとこのプロジェクト自体は二年以上前から始まっていた。Salyuが4年くらい前に出会った"クロッシング・ハーモニー"に感銘を受けた事が始まっているそうだ。一曲のカバー曲以外はコーネリアスが曲を。この二人が組むと声と音がこんなにも実験的でありながらもポップでしかもSalyuの声が非常に意識的に声の強さを出す事に成功している。引き出せているように聴いていて感じる。Salyuの声を「日本のビョーク」というミュージシャンの人もいるぐらいなのだが、コーネリアスの楽曲と自身の声に非常に意識して展開させたこのアルバムはその発言に頷けるものとなっていると思う。小林武史というプロデューサーに見出され世に出たSalyuは自らをプロデュースしたSalyu×Salyuプロジェクトは彼女を新しい次元にステップに見事に立たせたのだと思う。このプロジェクトは続けて欲しいし、小林武史とまたsalyuとしての楽曲作りにも期待が高まる。

 一曲目『ただのともだち』(詞・坂本慎太郎)、六曲目『奴隷』(詞・坂本慎太郎)、七曲目『レインブーツで踊りましょう』(詞・七尾旅人)、九曲目『Mirror Neurotic』(詞・いとうせいこう)がオススメな楽曲ですが、トータルの楽曲をコーネリアスがしているのでアルバムとしての完成度も非常に高いものになっています。

 これをライブでぜひ観たいと思うそんな素晴らしいアルバムです。

(碇本学)

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