ブリティッシュ・シー・パワー『ヴァルハラ・ダンスホール』(Rough Trade / Hostess)

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british_sea_power.jpg 断言しよう。いまのところ2011年に、この作品に匹敵する傑作はリリースされていない。何かの呪縛から逃れたあとのようなサウンドの自由なフィーリングも、矢面に立たされながらでも、ときには疑心暗鬼になりながらでも、自分の感情を正直に吐露したリリックも、「Living is so easy」での《全部簡単だっていうけどさ...》なんていう諦めも、すべてがあまりに素晴らしい。多くの現代に生きる「オールライトじゃない」人たちは、この作品を聴いて身震いするか、あるいは哀しみとも喜びとも表現できないような涙を流すに違いない。たとえば「We Are Sound」では《僕らこそがサウンドだ。僕らこそが光なんだ。真っ暗闇の夜に入っていこう。》と歌われている。こんな力強い彼らの宣言に、喝采を挙げずにはいられないだろう。最近までイギリスではバンドが立たされている状況は悪化の一途を辿っていて、もはやチャートの上位に入る希望など持てるわけがなかった。もちろん、「バンド」という形態以外でも素晴らしい音楽はいくらでもあるし、現実に「ノー!」を突きつけることだけが良いというわけでもない。ただ、そんな状況で、非現実の世界に想いを馳せたり、自分たちの音楽をいまのトレンドにすり寄せたりすることは一切せずに、ファンが待ち望んでいた姿で彼らは見事にシーンに戻ってきてくれた。
 
 前作のチャート・アクションは散々たるものだった。それでも彼らはけっして希望を捨てようとはしないし、「誰がコントロールされているのかは分からないけれど、どっちでもいいなんて、言わないでくれ!」と叫ぶ。マニックスの最新作が出たときのクッキーシーンのインタビューでも、ジェームスは「すべてに醒めて嘲笑うような風潮に憤りを感じる。」と話していた。さらに印象的だったのはポール・ウェラーが「いまの若者は立ち上がって闘うべきだ。」と言ったことに対して、フランキー・アンド・ザ・ハートストリングスのメンバーが「そんなこと言ってるから、ポール・ウェラーは若者とコネクトできないんだ。」と某誌のインタビューで話していたこと。もちろんこれでBSPがポール・ウェラー側だ、とか、フランキーはけしからんとか(実際にわたしは彼らのアルバム・レヴューも書いている。大好きだし。)いうつもりは毛頭ない。あるいはそこまで現実は単純ではないのかもしれない。だからこそ、このアルバムは《僕たちは見当違いのところにいる》というフレーズがある「Heavy Water」という曲で締めくくられる。そして忘れてはならないのが、同曲で唯一の救いが「君」だということ。《今度また君に会えたらどんなにうれしいだろう 水が激しく落ちてくるのを見たかい? 加重超過の空から 天国から そして君の瞳から》。世界と対峙した先にあるのは、いつも2人をつなぐ愛だ。

(長畑宏明)

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