ザ・ストロークス『アングルス』(RCA / Sony Music)

strokes_a.jpg 結論からいうと、とても評価の難しい作品になったと思う。

 先行のシングル「Under Cover Of Darkness」はキュリアスな音響工作とある種、彼らのトレードマークの一つであるシャッフル・ビートのセンスの活きた佳曲だったが、その延長線にあるとは言い難い多彩なサウンド・ヴァリエーションと些かスキゾに引き裂かれた10曲には、これまでよりクリアーでハイファイな録音で、レゲエ、ニューウェーヴ、ポスト・パンク、シンセ・ポップ、レイドバック気味のロックンロール、ハードコアなどが混然と収められている。そして、メンバーの独自色がこれまでよりも色濃くあらわれるようになった。緩急、アップダウンを行き来し、より表情が豊かになったジュリアンのボーカル、実験的なフレーズが増えたアルバートとニックのツイン・ギター、ニューウェーヴ風のニコライのストイックなベース、リズムに対してより厳格になったファブのドラム、と、いつかのガレージ・ロック・リヴァイバルの先陣を切っていたバンドの音とは思えない大胆な舵取りが為されている。

 00年代に入り、ハイファイに振れ気味であったロック・シーンに低熱の「ローファイ」な「倦怠」で切り込んだときの彼らの現れ方は鮮やかでもあったが、佇まいとクールネスとは比して、その後の軌跡は決してスマートとは言い難いものも含まれていた。

 例えば、ベーシックな意味で「ザ・ストロークスの新しさ」とはTHISをITと言い換えるための知性であり、同時にクエスチョン・マーク(?)を投げ掛けたこと(Is This It?)だと推察することもできるが、その「THIS」とは90年代以降のオルタナティヴ・シーンが自家中毒的な状態に陥り、ロック・ポップスの持つ手続きが必要な形式よりも、よりダイレクトな機能を持つヒップホップや先鋭的なR&Bにイニティアティヴを奪われ、エレクトロニカやポスト・ロックといったものが積極的に多くのリスナーの耳の鋭さを鍛え上げ、ダンス・ミュージックがユースのウィークエンドをスイングさせるようになった90年代後半から00年代に差し掛かる状況論ともリンクしていたとしたならば、彼らの「IT?」という一言はニューヨークという場所に根付くアンダーグラウンド性とパンク・スピリット、そして、アート・ロックのシェイプを再定義させるまさしくオルタナティヴ、代案としての美しさがあった。勿論、彼らの"優等生的なガレージ・ロック"にはハイプと紙一重の危うさもあり、様々な毀誉褒貶も纏わることになったものの、セカンドの『Room On Fire』以降、急速に自己対象化とフリーキーなエクスペリメンタルな模索の入り口を潜り、並行して各々ソロ活動が盛んになっていくにつれ、実際、ザ・ストロークスが背負ったシーンからの過剰な役割期待というのは、奇妙な形で分散したような一面もあり、前作からここまでの「5年間の沈黙」と合わせて、どうにも彼らの混沌は「停滞」に近似するのではないか、という周囲の危惧や憂慮によって縛られてしまっていた節もあった。

 09年初頭から入った今作のレコーディングでは、曲作りの難航、ジョー・シカレリをプロデューサーに招いて進めた音源のボツ、バンドとしてのレコーディングにジュリアンが立ち合わない、といった紆余曲折が目立ち、機能不全のままバンドが進んでいる感じさえ受けた人たちも多かったことだろうし、元来、ジュリアンがコントロール・フリーク振りを発揮していた旧来の場所から離れて、アルバート、ニック、ニコライ、ファブといった四人が率先してアイデアを持ち寄り、そこにジュリアンが「参加」する形というこれまでと違う民主主義的連帯の中で各々のイメージやアイデアが詰め込まれた分だけ、より捉え辛いザ・ストロークス像が立ちあがってきてしまった点もあるかもしれない。

 なお、歌詞世界はビートニクのようなものから、形式的にラブソングと言えるものや"We"(異性や人間関係のメタファーと言えるだろうか)を象徴として含んだものまでシンプルながら多重のイメージを喚起させる。軍隊に入る男が、様々な人間関係に別れを告げなければいけない切なさを含んだ「Under Cover Of Darkness」を筆頭に、《Living in an empty world(からっぽの世界で生きているんだ)》(「Games」)、《Waiting time is to blame(非難を負うべき時間を待っている)》(「Call Me Back」)、《We talk about ourselves in hell to forget the love we never felt(僕たちが決して感じたことのない愛を忘れるために 地獄で僕たちは僕たち自身について話そう)》(「Life Is Simple In The Moonlight」)など不全や内省にこんがらがっている感じのフレーズの断片が特に刺さってくる。

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 現今、チルウェイヴ/グロファイの波は緩やかにまだ続き、USインディーシーンの対岸では「正統なるアメリカーナ音楽」が亡霊のように浮かび上がってきている折、ディセンバリスツが改めて発見されたり、アリエル・ピンクみたく未来に回帰するための過去に進んだノスタルジックな音がオンになり、ローファイがじわじわと染み入る中、この表層を滑ってゆくようなサウンドの呈示は分が悪いかもしれなく、カーズ、ポリス辺りに繋がる80年代風のサウンド・メイクにも是非が問われるところだとは思う。

 それでも―。僕はこの作品に距離を置く気持ちにならないでいるのは、これまでの一挙手一投足に過大なバイアスと熱狂が常に付き纏っていた彼らがもっとフラットに愛すべきロック・バンドになったという文脈に準拠する。そして、何よりライヴで例えば、「Hard To Explain」や「Last Nite」などの旧曲とともに、これらの曲が混じってくることを考えると、自然と昂揚するものがあるというのが大きい。

『Angles』とは、2011年のザ・ストロークスの純然たる新しいフェイズというよりも、手探りのままで過程をなぞる作品の意味を抜け、あくまで"バンドとして"続いてゆくための未来への橋渡しをする大事なものになったのではないか、という気がする。

《Trying to find the perfect life(完璧な生き方を探すために挑んでいるんだよ)》(「Metabolism」)

(松浦達)

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