MORNING TELEPORTATION『Expanding Anyway』(Glacial Pace)

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morning_teleportation.jpg 震災が起きてからは多くの方たちと同様に心落ち着かない日々がつづき、音楽なんてとても聴く気にならない時間を過ごしたあと、ちょっと持ち直してからよく耳にしたのがR.E.M.で(こういう人は結構多かったのでは?)、それからティーンエイジ・ファンクラブの『Grand Prix』、あとはモデスト・マウスの「Float On」をYouTubeで繰り返しずっと聴いていた。『バッド・ニュースを好む人へのグッド・ニュース』は紛れもなくすばらしいアルバムだが、アルバム全体を聴き通すのはそのときどうにも億劫で、何度もリピートしながら、力強く躍動するリズムと《Alright, don't worry, we'll all float on.》というフレーズをぼんやりしながら頭に浴びせた。昨年、海外の音楽ブログを賑わせた23歳の俊英、ブラックバード・ブラックバード(今年に入ってアルバム『Summer Heart』が日本国内でもCD化もされた)の手によるこの曲のチルウェイヴ・ヴァージョンがこれまた出色の出来で、次々と流れていく悲惨なニュースやデマやヒステリックへのほどよい緩衝材として機能してくれた。

 個人的な話は一区切りするとして、文人肌でありながら獰猛で無骨なモデスト・マウスのリーダー、アイザック・ブロックはすばらしきミュージシャンであると同時に敏腕A&Rマンであり、これまでにもいくつかの才能を掘りあててきた。その代表格といえるのはウルフ・パレードだ。アイザックもプロデュースを務めた05年の『Apologies to the Queen Mary』は破格の傑作だったし、彼らはいまやカナダのインディー界隈とサブポップを代表するバンドまで成長した。アイザックは2005年に自身のレーベルGlacial Paceを設立。 Love As Laughter、Mimicking Birdsといった良質なバンドが籍を置いている。ポートランドで活動する5人組、Morning Teleportationによるこのデビュー作『Expanding Anyway』も同レーベルからのリリースで、バンドはモデスト・マウスのツアーで前座を務め、プロデュースもやはりアイザックが担当...まさしく秘蔵っ子である。

 一聴して印象的なのが、初期のモデスト・マウスを彷彿させるゴリゴリとしたギター・カッティングに、爆発と収束を繰り返す極端な転調で、異様なハイテンションはアルバムの最後までずっと続く。さまざまな楽器を持ち替えながらオーガニックに絡む演奏はローカル・ネイティヴスらに通ずる現代的なマナーに則っているが、音の方はもっと野蛮で、ジャム・バンド化したビルド・トゥ・スピルとでもいうべき野放図なスケールに到達している。

 ヒッピーライクで悪趣味なPVも一見の価値ありなタイトル曲「Expanding Anyway」に顕著な、扇情的かつベタベタにメロディアスなギターの響きと威勢のよい掛け声がアルバムの主成分だが、かたや9分超えの「Whole Hearted Drifting Sense of Inertia」ではシンセが跳ねたり宇宙的に拡散したり、「Banjo Disco」ではバンジョーを駆使してディスコ・ロックしてみたり(まんまだ)、目まぐるしく変わる光景を追いかけているうち頭が痛くなるほどの暴れん坊っぷり。腹を抱えて笑うアイザックの顔が目に浮かぶようだ。悪く言えば足し算しか知らない子どもによる音楽だが、右へ倣えの世の中でここまでブチ切れていれば、少なくとも僕は文句ない。90'sオルタナ好きにもフジロッカーにも積極的に推薦したい痛快な一枚。ぜひもっと注目を浴びてほしい。

(小熊俊哉)

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