LA SERA『La Sera』(Hardly Art)

|

la_sera.jpg 本稿の主人公ケイティ・グッドマン(a.k.a Kickball Katy)は、09年に東名阪の来日ツアーも成功させたブルックリン発のガールズ・トリオ、ヴィヴィアン・ガールズでベース&コーラスを担当しているUSインディー界きっての別嬪さんだ。

 彼女はヴィヴィアン・ガールズの他に、2つのサイド・プロジェクトを抱えている。一つはキャット・パワーのツアー・バンド=ダーティー・デルタ・ブルーズの一員としても有名なグレッグ・フォアマン(ザ・デルタ72)と結成したAll Saints Day(オール・セインツ・デイ)。そちらはセルフ・タイトルのEPをリリース以来、目立った動きは見られない。そしてもう一つが、純然たるソロ・ユニットのLa・sera(ラ・セラ)である。オール・セインツ・デイがニューゲイザー&ネオ・サーフを鮮やかにマッシュアップしたような、良い意味で息抜き的な作風だったのに対し、本作『La Sera』では60'sフレーバーたっぷりのオールディーズやカントリー・ソングに到達。しかしそれは痛いほどに誠実で、「ルーツ回帰」の一言では片付けられない複雑な憧憬と、照れ隠しにも似たもどかしさを孕んでいる。

 インディー・ミュージック・マガジン『Under The Radar』に掲載された、Frank Valishによるインタビュー記事を読むと、ラ・セラはかなり突発的に立ち上がったプロジェクトのようだ(以下、発言部分は同誌のテキストを意訳)。昨年の冬、ツアーの合間に2週間のオフを取ったケイティは、ニュージャージーの実家に帰省。ところが、あまりにもヒマを持て余した彼女は、地元で100ドルのギターと、小さなオレンジのアンプを購入し、連日ソング・ライティングに励む。帰省中に書きためた楽曲は、いつの間にやら膨大な量に。「これ、アルバムが作れるんじゃないの?」---- そう閃いたケイティは、友人のBrady Hall(本職はフィルム・メーカーながら、ライターや音楽家としての顔も持つマルチ・アーティスト。ヴィヴィアン・ガールズのMVも撮影した)にデモ・テープを送り、最後の仕上げを依頼。バンドとの差別化として、「ファズの一切無い、きわめてクリーンなレコードを作りたかった」とのことで、プロデュースには概ね満足だったそう。

 全12曲で30分未満。Brady Hallが監督した、激スプラッターなビデオも最高に可笑しい「Never Come Around」や、「Devils Hearts Grow Gold」といった先行でリリースされていたシングル曲にも顕著だったが、狂おしいほどに美しく、ちょっぴり猟奇的で、ノスタルジック。ラストの「Lift Off」などドゥワップ調のナンバーもあるが、ギミックや新しさはほとんど感じられない。アコースティックな楽器の響きよりも、ヴィヴィアン・ガールズでもお馴染みの透き通ったコーラスのダブ&ループを駆使した白昼夢のようなサウンドスケープ。しかし、「ウォール・オブ・サウンド」と呼ぶには少しチープで、60年代のラジオ・ヒット曲にも似た味わい深さがある。先日、念願叶ってLAに引っ越したケイティは、最近スタートしたばかりのラ・セラのライヴで、必ず「カリフォルニアから来たラ・セラです」と挨拶しているらしい。そう、「夢のカリフォルニア」------  すなわち、彼女は憧れのママス&パパスの世界に近づきたかったのだ。

 先述のインタビューによると、学校中がグリーン・デイに熱狂している傍らで、ママス&パパスの「Dream A Little Dream Of Me」をNo.1フェイバリット・ソングに挙げ、アーカンソー州出身のフォーク&カントリー・シンガーであるアイリス・ディメントを愛聴...という渋いティーン時代を過ごしていたらしく、おそらく音楽的な引き出しは多いはず。だが、今までそれを発揮するチャンスがなかっただけなのかもしれない。我々の想像以上に、ヴィヴィアン・ガールズにおいての主導権はキャシー・ラモーン(彼女もまた、昨年来日したWoodsのメンバーとThe Babiesなるサイド・プロジェクトを始めている)にあったのだろう。そんなケイティの青春時代に接近したアルバム誕生のきっかけが、久しぶりにホームタウンで過ごした日々だったのだから、音楽は面白い。それに、レーベルやメディアからのプレッシャーに気を病む必要もないので、『La Sera』がここまで正直でフラットな作品になったのだともいえる。そしてリリックは、恋愛真っ最中というより、もう終わってしまった恋についての言葉が目立つ。どうやら元カレについて歌った曲もあるそうで、そのご本人をオーディエンスの中に見つけた時は、相当気まずい思いをしたとか。とすると、「Never Come Around」のMVで男どもを血祭りにあげたのは、彼女なりの「恨み節」だったんじゃないか...? うーむ、やっぱり、もどかしい。今春リリースされる、母体ヴィヴィアン・ガールズの3rdアルバム『Share the Joy』(ディアフーフも移籍したポリヴァイナルから!)におけるフィードバックにも期待大。

 最後に。ケイティ・グッドマンは、その両腕にびっしりと掘られたタトゥーからは考えもつかないが、大学院で物理学の博士号を取得したほどの秀才でもある。それは決してバンドが売れなかった時の保険ではないだろうが、ミュージシャンとしての人生がそう長くないであろうこともほのめかしている。いや、ひょっとしたらショーン・マーシャルのように、ジャニス・ジョプリンやジョニ・ミッチェルのカヴァーなんかを披露しながら、マイペースで音楽活動を続けていくかもしれないけれど...。ラ・セラが、もしもスペイン語の「Que sera sera(ケ・セラ・セラ)」から拝借されているのならば、「なるようになる」 。とにかく今は、この刹那的な瞬間をリアルタイムでシェアできることが嬉しい。

(上野功平)

retweet