ザ・クルックス『チェイシング・アフター・ゴースツ』(Fierce Panda / Vinyl Junkie)

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crookes.jpg 昨年くらいからイギリスではギター・バンド復権の動きが着々と見え出してきているが、多くのバンドが溢れんばかりに愛や青春(に伴う痛み)をレイトバック気味なロマンティシズム全開で高らかに歌い上げるのは、かの国の伝統なのだろうか。シェフィールドで08年に結成された新進気鋭の4人組、ザ・クルックス(The Crookes)も文学的で情緒豊かなうたを聴かせるギターポップ・バンド。メンバー各自の髪のサイドの刈り上げっぷりやシャツの着こなしなど、総じて爽やかなルックスからもそれは見てとれるし、実際に図書館をまわるライブ・ツアーも過去に敢行しているみたいだ。

 そんな彼らの公式ページにはフレーズの引用がふたつ掲載されていて、これがバンドのキャラを掴みやすくしている。ひとつは『西部戦線異常なし』で知られるドイツの作家、レマルクの言葉。"青春の風景を初めて歩を進めるようにさまよい、ぼくらは迷子になっている"とでも訳そうか(この句はアルバム封入のブックレット裏表紙にも掲載されている)。もうひとつはZachary Condonなる人物によるもので、お気づきの方もいるかもしれないがベイルートという名義で彼は有名だ。彼にとっての代表曲「Elephant Gun」の歌詞からの抜粋で、内容そのものもそうだし、若きベイルートが東欧の音楽・文化に惚れこんで自身の幻想を膨らませていった姿にザ・クルックスがシンパシーを抱くのもとてもよく理解できる。ベイルートがそうしたように、彼らは50~60年代のオールド・ポップスやC86世代ポップ・バンドへの偏愛をみずからの音楽に強く反映させている。

 すでにリリースされていたシングルやEPで日本も含めた音楽ファンの注目を集めていた彼らの、待望となるフル・アルバムが本作『Chasing After Ghosts』だ。MySpaceの「影響を受けた音楽」欄にもアズテック・カメラやアイシクル・ワークスなどの名前が堂々と載っているが、ネオアコ系ギターロックの流れを大きく汲んだ軽快でジャングリーな演奏と抑揚の効いたドラマチックな歌唱法が特徴的で、ハウスマーティンズをバックにモリッシーが朗々と歌う図が脳裏に浮かんでくる。余計な重ね録りに極力頼らないライブ感のあるバンドサウンドも小気味よい。二曲目の「Chorus Of Fools」に顕著な、キラキラしたギター・カッティングを軸に据えた骨太かつ柔軟なアンサンブルが持ち味で、疾走感を前面に押し出してくるかと思いきや、スミスの「I Know It's Over」を彷彿とさせる陰鬱ぎみで大仰な曲が出てきたりと(「The Crookes Laundry Murder,1922」)引き出しも多いうえに、むせ返るほどおセンチで胸焦がさずにいられない瞬間の連続だ。朗らかなコーラスにカウペルの音まで聴こえてくる躍動感タップリな「Bloodshot Days」が本作のハイライトだろうか。バウンシーなリズムやトロピカルなムードに乗せて《"ひざまずいてくれ"と彼は言う/ああ降りかかってきた血のにじむような日々》なんて言葉をリフレインさせるあたり、けっこうシャレがきいていると思う(PVのアニメーションも凝っていてイイ感じ)。
 
 瑞々しくメロディアスな曲の数々にノエル兄さんが熱を上げるのも納得で、シェフィールドの大先輩である元ロングピッグス(懐っ!)のリチャード・ハーレイとも交流があったり、我が道を歩みながら支持を大きく拡大しているザ・クルックス。個性という点ではまだ若干弱い印象も否めないが、これからさらにおもしろい方向に転がりそうな将来性もあると思う(関係ないけど、自分たちのファンを"Bright Young Things"と呼ぶセンスはすごく好きだ)。個人的にはそれこそモリッシーばりにもっとアクが強くなることを勝手に期待しつつ、英国産インディ・ギターポップのアルバムとしては処女作にして満点に近い内容と熱烈にプッシュしたい。あ、有志によるツイッターのこのアカウントも同時に推しておきます。こういう動きは最高に支持。

*@TheCrookesJPはバンドの呼びかけでできた公認アカウントで、他にブラジル、スコットランド、カナダ、USA、ドイツ、オランダ版がそれぞれ存在する...とのことです。情報ありがとうございます!【3/25 筆者追記】

(小熊俊哉)

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