ワン・エーエム・レディオ『ヘヴン・イズ・アタッチト・バイ・ア・スレンダー・スレッド』(Dangerbird / &)

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one_am_radio.jpg インド系アメリカ人のリシケシュ・ヒアウェイによるプロジェクト、ワン・エーエム・レディオ(The One AM Radio)による07年の彼自身三作目となる『This Too Will Pass』は物哀しいレコードだった。燃えたぎる家屋を背景に「これもまた過ぎ去るだろう」と無執着を宣言したジャケット。内省的なラップトップ・フォークはストリングスやホーンと絡みながら美しく淡々と綴られる。真夜中に古ぼけた蓄音機から流れてくる冷静ながらもやりきれない独白を耳にするような、不思議な感覚にとらわれていく。"午前一時のラジオ"という名のとおり、これまでの彼はさしずめ夜の使者だった。

 それから4年の月日を経て届けられた最新作『Heaven Is Attached By A Slender Thread』が声も失うほどすばらしい。みずからの可能性を決めつけなかったリシケシュは、この作品において自分の持ち味を殺すことなく、大きく息を吸いながら真の自由を獲得したようだ。

 前作がニック・ドレイクの系譜に連なるSSW然としたものだとすると、本作の肝は奔放なビート・メイキングにある。ミニマルな躍動感が楽曲に陽性の生命力をもたらしている。これはそれまでライブのサポート担当だったメンバーを正式に加入して"バンド"として生まれ変わったこと、そして名プロデューサーであるトニー・ホッファーの貢献が大だろう。トニーの辣腕ぶりは挙げていくとキリがないので彼のページを参照していただくとして、ベルセバの近作やベックからフェニックス、ジャック・ペニャーテ、果てはフィッシャースプーナーまで、関連作品のいずれにも通じるのは(各アーティストのキャラを活かしつつの)独特のリズム構成と音の抜けのよさ。この作品でもドラム・マシーンの一音一音が気持ちよくビシバシ決まって、中毒性たるや半端ない。またゲストとして、昨年おおいに話題をさらった小デブでナードな革命児バス(Baths)と、同じくアンチコン所属のエイリアスがイイ仕事を聴かせ、さらにデヴィックス(Devics)のヴォーカルであるサラ・ラヴも可憐な歌声で華を添えている(余談だけど、デヴィックスの『The Stars Of Saint Andrea』や『Push The Heart』も夜に聴きたくなるダークで気だるいレコードだ。マジー・スター好きは必聴。昔、本当にお世話になりました...)。

 かといって、ヤケッパチのごとくバカ騒ぎするような作品では決してなく、本来の持ち味だったジェントルな憂鬱ぶりは健在だ。彼独自のメランコリックでひねくれた旋律はここでも冴えわたり、アンビエンタルな音づくりにストリングスもうまい具合に配置されているし、リシケシュの歌声も変わらず柔らかい。気高さを保ったまま甘酸っぱいポップな大衆性を獲得したこの作品を2010年代仕様のAORとも位置づけられるし、昨今のトロピカル風味なバンドの愛好者や、辛抱強くポスタル・サーヴィスの新作を待ち望んでいるような人たちにもきっと歓迎されるだろう(日本盤のボーナス・トラックには"片割れ"のディンテルと、Boy In Staticによるリミックスも収録)。

 活動拠点であるロサンジェルスの空虚な夜をテーマにしたという本作には、幾多のドラマとともに希望と絶望のムードがそれぞれ同居している。讃美歌のような冒頭のエレポップ「Sunrise」では再起の象徴である朝日が登るのを待つひとについてうたわれているが、この曲を題材にした写真コンテストも開催中で、投稿作をズラっと眺めることができる。こうして太陽の写真を連続して見つめていると、月並みすぎるが明けない夜はないのだと考えずにはいられない。マルチネ・レコーズによる『MP3 Killed The CD Star?』には「朝が来るまで終わる事の無いダンスを」なんて曲が収録されているが、このアルバムも音や境遇や主義主張は違えど、同じ視座に立っているように思える。

(小熊俊哉)

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