THE VEILS「Troubles Of The Brain」EP(Pitch Beast)

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the_veils.jpg いまも活躍しているバンドでいうと、丁度ディレイズとデビューの時期が同じだったヴェイルズ。ディレイズはとろけそうになる美メロと少ししゃがれたハイトーン・ヴォイスが魅力として語られていて、日本の音楽誌も大々的に取り上げた。一方、ヴェイルズはスウェードのブレット・アンダーソンとバーナード・バトラーを合わせたような(ちなみにファーストのうちの何曲かはバーナードがプロデュースしている)、妖艶なオーラを放つヴォーカルのフィン・アンドリューの存在感がとにかく強烈だった。「Lavinia」というファーストに収録された一際スロウでムーディーな曲のビデオで彼がカメラをじっと見つめながら「舐める」ように歌い上げる姿は、まさに偏狭なナルシストを連想させた。ラフ・トレードの創立者であるジェフ・トラヴィスは彼を指して「現代のニック・ケイヴか、デヴィット・ボウイだ」と絶賛し(私は後者の引用に大賛成である)、ファーストはヨーロッパを中心にヒットした。サウンドの話をすると、ディレイズがパーッと草原に太陽の光が降り注ぐ「陽」の美メロだとしたら、ヴェイルズは深く長いトンネルの先からかすかな光が差し込んでくる「陰」の美メロ。

 だがやはり圧倒的なカリスマ性を持つ者の宿命というべきか、他のメンバーはファーストをリリースしてすぐにフィンの元を離れていった。フィンは仕方なくソロでツアーを続け、起死回生のセカンドをリリース。ファーストよりも希望の光がすこし多めに配分された同作はなかなかの良作だったが、そのころには日本でヴェイルズの名前を見聞きすることもほとんどなくなっていた。相変わらずヨーロッパでは根強い人気があるようだけれども。サードもよかったな。やっぱりこの人はメロディに残酷っぽい綺麗さがあって、スウェード好きなら絶対に次を託したくなるし、毎作聴かないではいられないタイプのアーティストだと思う。細身のスーツでハット被って一人舞台に立つ姿は、けっこう物悲しいよ。まあ、いまはバンド・メンバーもいるんだけどね。でもやっぱりこの人は一人だよ、ずっと。

 新作EPの内容だが、「The Stars Came Out~」でスプーンのような男前なイントロが聴こえてきた瞬間には「大胆な変化作」を想像したが、Aメロのあとすぐにオーロラのようなアルペジオが流れ込んできたので、「ああ、やっぱり」と安心してしまった。やはり彼は彼のままでいてほしい。ほかのアーティストには「冒険したら?」とか偉そうなことを思ったりもするが(ホワイト・ライズの新作とか)、ヴェイルズの核は変わらないでいてもらいたい。「リスナーとアーティストの依存関係」と書くといまのJ-Rockみたいでものすごく嫌だが、彼のメロディに寄り添いたいと願う瞬間はたしかに何度もある。ヴェイルズは僕のためにずっと音楽をやっていてくれ。

 今回はT-Rexを彷彿とさせるヴィンテージ趣向で色気たっぷりなナンバーもある。全曲ほんとうに良い曲ばかりで、かといって金太郎飴でもない。iTunes storeなら900円で買えるので、「せっかくこんなに長い文章を読んだんだから」と思って聴いてみてください。

(長畑宏明)

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