シークレット・シャイン『ザ・ビギニング・アンド・ジ・エンド』(Self-Release / Vinyl Junkie)

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Secret_Shine.jpg いまや必携の名著、シューゲイザー・ディスク・ガイドを片手に、シークレット・シャインの最初のアルバム『Untouched』を聴いている。1993年の作品で、廃盤なのかアマゾンのマーケット・プレイスでは目が痛くなる値段が付いているが、iTunesではきちんと適正価格で購入することができる。便利な時代だな...と思う。「常にナイーヴなポップ・センスを内包しマニアックな人気を誇っていた」「MBV(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)からの影響が強く~」と先述の本で紹介されているが、シューゲ門外漢の僕でもクスっとなってしまうほど、男女混成ヴォーカルもハーモニー具合も浮遊感も、たしかにそのままMBVや初期スロウダイヴを思わせる。ときおり疾走感もみせるバンド演奏は、シューゲイズした音の氾濫する今のインディー・シーンに馴染んでいる音楽ファンにも求心力をもっているはずだ。

 ヘヴンリーやザ・ヒット・パレード(どちらも大好きなバンドだ...。ヘヴンリーのアメリア・フレッチャーは今でもTender Trapというバンドの一員としてがんばっている)らを輩出したかつてのネオアコ・ファンにとってのマスト・レーベル、サラ・レコードからデビューしたブリストル出身の彼らは、活動休止やメンバーの死などを経て、コンピレーション作を挟み、06年に2枚目の『ALL OF THE STARTS』を発表している。そして2011年、結成20年ということを考えるとますます意味深なタイトルを冠した本作『The Beginning And The End』をリリースした。

 一聴して驚かされるのは、いい意味でキャリアの長さを感じさせないサウンドの瑞々しさ。美しく重なる電子音のレイヤーと、プリファブ・スプラウトのウェンディ・スミスをも思わせる神々しく舌足らずな女声コーラスがタイトなアンサンブルを牽引する冒頭の「In Between」一曲で打ちのめされる。全体的にシンセ・サウンドが有効的に活用されており、最近のレディオ・デプト辺りを彷彿とさせる音づくりはキャリア20年と思えぬ同時代性を発揮している。一方で、80年代~90年代に登場したある種のギター・バンドたちと通じる繊細なメロディは、長く現役を張ってきた人間にしか出せない重みと説得力を持っている。

 ストリングスの起用など短絡的なシューゲイザーの文法にこだわらない一面も見せ、「Run Around」や「Harry」といった曲の穏やかさに身を任せていると意識がどんどん遠のいていきそうになる。「Windmill Hill」あたりに顕著なやや古めかしい音色はノスタルジーを喚起させるし、かつて披露した熱っぽいバンド・サウンドも随所に用意されている。懐の深さと抜群のオリジナリティーを誇り、アルバムのどこを切っても芳香なメロディが流れ出てくる。マニアックと呼ばれることを拒否するかのような堂々とした佇まいでありながら、触れたら崩れそうな脆さを孕んだ気高い音楽だ。成熟したところを存分にアピールしながら、今も変わらず儚い青臭さも感じさせるのが何よりいい。

(小熊俊哉)

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