ATP NY 2010 レポート対談

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周知のとおり、来たる2月27日にAll Tomorrow's Parties(以下ATP)の姉妹イヴェントとでもいうべきI'll Be Your Mirror(以下IBYM)が新木場スタジオコーストにて開催される。

ATPといえば、開催ごとにアーティスト/バンドがキュレーターとなり、出演者を決定するというコンセプトで知られている。過去にもモグワイ、オウテカ、トータス、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、果てはシンプソンズの作者として知られるマット・グレイニングetc...、錚々たる面々がそのホスト役を務め、どの面々も自分たちの趣味性を存分に発揮した味のあるブッキングを披露。商業主義に中指を突き付けるかのような(実際、ATPは一切の企業スポンサーを受け付けていないことでも知られる)挑戦的かつイマジナティブなラインナップに毎回圧倒させられる。このフェスの創立者であるバリー・ホーガンや(ソニック・ユースの)サーストン・ムーアは過去にATPを「究極のミックステープ」と形容しているが、まさにアーティストも含めた音楽ファンの夢を具現化した理想的なパーティーと呼べるであろう。

世に数多ある音楽フェスのなかでも、「DIY」とか「オルタナティヴ」とかという観点でいえばぶっちぎりなこのイヴェントが、ついに日本でも開催されるというのは実に興奮させられる(残念ながら、最初ということで上記のキュレーター・システムは今回採用されていないが、たとえば選ばれた出演者は世間でのATPのイメージとかなり近いものがあるし、そのなかでもトリを務めるゴッドスピード・ユー!ブラックエンペラーの演奏枠が2時間もあるのは実に"らしい"といえるだろう)。

一方で、どうせ観るなら本場の空気を直に体感したい...そう考える人もいるはずだ。IBYMは基本的な部分はATPとは変わらないものの、都会の町中で開催することで手軽に楽しめるようにすることをコンセプトとしており、それなりの準備をしてド田舎のリゾート施設で宿泊もしながらノビノビと満喫する本家ATPとは若干様相が異なる。またATPに限らず、コーチェラやロラパルーザ、グラストンベリーなど、海外の有名フェスのラインナップをながめるたびに、悔しくてハンカチを噛む思いをした音楽ファンはたくさんいるはず。

しかし、やっぱり海外に足を運ぶとなるといろいろ心配になってしまうのも事実。言葉も通じない、勝手もわからない。費用は? 交通手段は? 未経験者からしてみたら、どうしても敷居が高くて遠い世界に感じてしまうのも無理のない話だ。

そこで今回は<ATP NY 2010レポート対談>と題して、昨年9月3日~5日に開催された同イベント(このときのキュレーターは1日目と2日目をATP、3日目はつい最近ユニクロTシャツ化もされた、偉大な映画監督ジム・ジャームッシュ!)について、黒田隆憲さんと上野功平さんの両コントリビューターがその目で見聞きしてきた感想や体験談を、パスポートすら未所持なわたくし小熊が聞き手となり、対談形式で掲載することにした。IBYMへ臨む前にこれを読めばテンションも上がること必至だし、日本での常識では考えられない魅力的な目ウロコ話の連続で、海外渡航のノウハウにいたるまでを実体験込みで語っていただいているので、これから海外に"冒険"してみるつもりの方にもぜひとも参考にしてほしい内容になっている。

ちなみに、この対談自体はイヴェントの終わった数日後(昨年の9月中旬ぐらい)に収録されていたものである。そのときはまさか日本でも開催されることになるとは誰も予想だにしておらず、アナウンスを知ったとき三人一様に驚いてしまったことを本文に入る前に追記しておく。今回のIBYMはチケットも無事にソールドアウトしたそうだし、日本でもこのまま定着していってほしい! 

また今後のATPは、イギリスにて5月にアニマル・コレクティヴ、12月にジェフ・マンガム(ニュートラル・ミルク・ホテル)、またIBYMのほうはロンドンで7月、ニュージャーシーで9~10月にともにポーティスヘッドとATPが、いずれもキュレーターとなり開催される予定となっている。



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(*参考までに、ATP NY 2010のラインナップはこちらになります)

まずは長旅お疲れ様でした! お2人はすでに海外フェスは何回か行かれてるんでしょうか?

上野:僕は今回が初めてですね。ニューヨーク自体も初。

黒田:08年にマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(以下、マイブラ)がキュレーターを務めたATPアメリカが海外フェスとしては最初ですね。で、翌年にコーチェラ・ヴァレー・ミュージック・アンド・アーツ・フェスティバル(以下、コーチェラ)とスペインのプリマヴェーラ・サウンドに行って、さらにその年末にこれまたマイブラがキュレーターを務めた<ナイトメア・ビフォア・クリスマス>っていうATPの冬版のイヴェントでイギリスに行きました。だから今回が...ATPは3回目、海外フェスとしては5回目かな。

すごいですね(笑)。最初はやっぱりマイブラ目当てだったわけですよね? そこから海外フェスの魅力に取り憑かれたと?

黒田:うーん、そうでもなくて(笑)。やっぱりマイブラが原動力としてあって、マイブラが出るもので面白そうなフェスは行こうかなと。お金もかかるので、何かしらデカいモチベーションが無いとなかなか海外は行けないですね(*先述の09年<ナイトメア・ビフォア・クリスマス>では、マイブラはなんと三夜連続でパフォーマンスを披露している)。


LeVolumeCourbe.jpgル・ヴォリューム・コルベのヴォーカリスト、シャルロットはマイブラのケヴィン・シールズの彼女とのこと
こちらは09年<ナイトメア・ビフォア・クリスマス>出演時のようす

でも、今回(2010年9月のATP NY)はマイブラ出ていないじゃないですか。お2人は何を目当てに行かれたんですか?

上野:メンツとしては目新しいのはいなかったんですが、裏テーマとしては90年代のオルタナ&グランジを総括できるラインナップだなという点と、ポーティスヘッドが好きなのでジェフ・バーロウの別ユニットであるBeak>とか、シェラックとかザ・ブックスみたいに日本ではまず見られないアクトが非常に多かった。ジム・ジャームッシュはそんなに大きなキッカケではなかったけど、行ってみたらすごい良かったですね。やっぱり彼の映画も好きだし。あとはヴィヴィアン・ガールズ...。

黒田:ヴィヴィアン・ガールズがメイン・アクトでしょ(笑)。

上野:まあ、最終的にはそうですね(笑)。

黒田:僕は結局マイブラありきで、ドラマーのコルム(・オシオソイグ)が参加しているホープ・サンドヴァル&ザ・ウォーム・インヴェンションズが去年アルバムを出したから、もしかしたらサマーソニックとかフジロックに来てくれるんじゃないかなーと期待していたけど、結局来る気配が無かったし、だったら過去4回行った海外フェスの中でもっともATPが魅力的だったので、もう一回行ってみたいなと思うようになって。それで行った感じですね。

上野:行ったのはNY版の方が最初なんですよね? オリジナルのイギリスではなくて(*ATPの発祥は99年にベル&セバスチャンがキュレートしたBowlie Weekenderというフェス。その後、第一回のキュレーターをモグワイが務め、02年からアメリカでも開催されるようになった。09年にはオーストラリアでも開催)。

黒田:結局マイブラ関係だったり、エクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイも見たかったし...。あとはなんと言っても08年のATPで一番衝撃を受けたのがファック・ボタンズで。それが本当にライヴ良かったし、日本にもすぐ来るだろうと思ったんだけど...。

上野:キャンセルになっちゃいましたもんね(*08年10月に東京/大阪ワンマン・ライヴが決まっていたがキャンセルに。今回のIBYMで今度こそ初来日となる。ちなみに東京公演のオープニング・アクトとして予定されていたのは、同じくIBYMに出演するenvyだった)。

黒田:そう、キャンセルになってしまったし、コルムも出るし、ファック・ボタンズは当時の新しいアルバム(『Tarot Sport』)も良かったから、また同じところで見たいなっていうのもあった。

それでツアーに行かれたわけですけども、実際行くまでのあいだに苦労したこととか、何か大変だったことはありますか?

上野:単純に海外旅行が久々だったのでパスポートを取り直したし、航空券もウカウカしていたら高く付いちゃいました。準備としては...まあ、ATPに興味を抱くような人であればピッチフォークとかもふだんから読むじゃないですか。それぐらいの英語力があればチケットを(海外の)サイトで買うのは余裕。クレジットカードを持っているのは絶対条件として、経済力がある程度あって、英語アレルギーが無ければ、そんなに敷居は高くないなあと。今回は黒田さんも一緒だったので、経験者がいたのは心強かったですけどね。

準備はどこから始めるものなんですか? 「行く」と決心してからは...。

上野:チケットが売り切れることは滅多にないんですけど、宿が大事なので...(*同じATPでもUK版とUS版でかなり勝手が違う)。フジロックでいうところの「場内第1駐車場」みたいに、近くて快適な場所が取れるとラクですね。今回は「Raleigh Hotel」っていう第2宿泊施設的なホテルに泊まったんですけど、NY版のATPは<Kutsher's Country Club>という歴史のあるリゾート施設で、そこが会場兼宿なんです。だからそこに泊まれると、もっとアーティストが身近に感じられるはず。


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会場のKutsher's Country Club

フジロックでいう苗プリ(苗場プリンスホテル)ですよね。

上野:そうそう、まさに。むしろ苗プリ内のホールでライヴをやってるような感じ(笑)。まあ...もちろんあるていどお金は必要だし、あとは英語ですよね。でも英語だって、ネイティヴみたいに喋れる必要は全然ないので。やはり「敷居が高い」というイメージは行ってしまえば払拭される。

下世話な話ですけど、予算はどれくらいでした?

上野:円高ドル安が追い風にはなりましたね。チケットは会場までのバス代込みで3万円行かないくらい。だけど、それに現地でのホテルと航空券を入れたら、やっぱり20万はかかっちゃいますかね。

黒田:結局ATPの会場ってマンハッタンから車で2時間くらいの場所にあって、そこのホテル代も込みで買うんだけど、その前後に都市部で一泊していくことになったから、マンハッタンのホテルを取らなきゃいけなくて...。それが異常に高かったですね。

上野:グレードが低いホテルでも200ドルとか平気でするんで(笑)。

黒田:そこをうまく節約して、ドミトリーとかに泊まったりすれば結構安くは行けるかなと思うんだけど。

でも、敷居自体は高くないと。何かトラブルとかに見舞われたりはしなかったんですか?

上野:初日の朝にバスのピックアップ・ポイントに向かったら、僕は黒田さんよりチケットを遅くに買ったから「午後の便だよ」みたいなことを言われてしまい、リストに名前が無かったという...。とはいえ、そこはスタッフもかなりフレキシブルな人達だし、なんだかんだ空きがあったのか、「キミも乗っていいよ」ってことになって無事でした。そのへんはルールでガチガチな日本のフェスとは違って融通が利きました。そしてスタッフがみんなシャレオツで格好良い。

黒田:送迎バスもマンハッタンとブルックリンから出ていて、そのチケットもATPのサイトで買うことができるから、そこで買ってしまえば至れり尽くせりな感じなんだけど...。僕は初めて行ったときは2日目から参加したのでバスに乗れなくて、自分で空港からクルマを手配して行ったんだけど、それが結構大変で(笑)。ATPの規模がどれくらいかわかっていなかったから、フジロックの苗場みたいに現地まで行ったらみんな知ってるぐらいのものかなと思っていて...。実際はキャパ3000人くらいなんだよね(*フジロックの一日の来場者数は35000~40000人程度)。それで、モンティセロの大きなバス停へ夜中に着いたのね。ATPに向かう人で溢れているだろうと思っていたら、ものすごい静かで真っ暗な場所(笑)。そこにもうポツンと取り残されたような状態で、タクシーも2~3台くらいしか無くて、「Kutsher's (ATPの会場)ってどうやって行くの?」って訊いても「どこそれ?」って言われちゃう感じで。一緒に乗り合わせた黒人客がたまたま知っていたから助かったんだけど...。

怖いですね(笑)。

黒田:山の中にあってそれも真っ暗な場所で、全然知らない外国人と乗り合わせてタクシーに乗っているときは、「このまま殺されても、たぶん誰にも気づかれないままどこかで朽ち果てるんだろうな...」っていう、ちょっとしたドキドキ感があったけど(笑)。まあ、会場に着いたら何も心配することはないというか。ATPはイギリスもそうなんだけど、「屋根がある」会場でやるというのが絶対条件になっているから天候も心配することないし、宿泊施設の中にあるホールを行ったり来たりするだけだから、快適ですよ。
(*ATPの創設者バリー・ホーガンも、日本での開催で一番頭を悩ませているのがこの"絶対条件"に対するロケーションの問題であることをクッキーシーン77号のインタヴューで語っている。)

今、屋根があると話していただきましたけど、他にATP NYの特長というか、日本のフェスとの違いとか、それこそ「ATPならでは」の魅力があれば。

黒田:まず規模が3,000人キャパというのがあって、そこの宿泊地に出演者も全員泊まっていて...。会場が第1ステージと第2ステージの2つしかないから、そのあいだの通路を行ったり来たりしながら見ている。で、出演バンドのメンバーも普通にフードコートやステージを行ったり来たりしているから、オーディエンスと出演者の垣根がまったく無い状態ですね。


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なんか、色々お会いしたんですよね?

上野:ソニック・ユースが(キム・ゴードン&サーストン・ムーア夫妻の)娘も連れて、フード・コーナーのあたりをフラフラ歩いてたかと思えば、ジャームッシュなんて3日間で何度もすれ違ったりして。最初は「おぉー!」って思うんですけど、あまりにも会うのでなんかもう、「サインとか別にいいや」って感じで...(笑)。

黒田:僕も、一番最初に行ってケヴィン・シールズが普通に弟のバンドを見ているときはホントにビビったけど、もうそんなのが普通の状態。ビリンダ(・ブッチャー)が子どもを連れていたりとか。今回もリー・ラナルドが子連れで公園の芝生で遊んでいたしね。

上野:ロケーションはホントに素晴らしいですよ。湖が会場内にあるんですけど、そこでずーっと寝てる人もいるし。もともとユダヤ系のリゾート地として今も使われているから、外にテニスコートとかプールもあるし。基本的なインフラは整ってますね。

黒田:フジロックを批判するつもりはまったく無いけど、山の中で、天候に左右されて、雨が降ったら雨ざらしの状態で...過酷なときはすごい過酷だよね。ATPの場合はとにかく快適。気温も天候も心配する必要ないし、「快適さ」という面では野外フェスとは比べものにならない。

上野:ゴアテックスに5万出すなら、海外航空券を買え! っていう(笑)


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ちなみに、お客さんはどんな感じなんですか?

黒田:やっぱりね、キュレーターによって変わるんだなっていうのは今回行ってすごい思った。マイブラのときにはUKロック好きの「いかにも」な雰囲気の人達で、年齢層もマイブラのリアルタイムのファンがいたり、上から下まで「UK好き」って感じだったけど、今回は...。

上野:タトゥー率がハンパじゃなかったですね。あと黒いTシャツも。やっぱりブラック・メタルとかストーナーとか、そういうジャームッシュの好きなバンドも出ていたので。

ああ、(ジャームッシュの映画)『ゴースト・ドッグ』みたいな(笑)。

黒田:そうそう。黒づくめの人がすごい多かったね。

上野:そして女の子がみんな可愛い。これは特筆すべきですね。

それは聞き捨てならないですね! ところで、日本人の観客も多いんですか?

黒田:1回目と2回目はすごい多かったみたいで、たしかにマイブラの時は日本人がたくさんいたんだけど。2010年のフレーミング・リップス(がキュレーター)のときは動員があんまり良くなかったみたいで、その分、日本人の割合がすごく目立ったらしい。会場にいた売り子のおばちゃんにも、「去年はいっぱい日本人がいたんだよ」って言われて。今年は少なかったよね?

上野:少なかったですね。去年はボアダムスとボリスが両方出てたし、出演者も入れたら日本人が結構いたなっていう。今回はホント僕らと、ボリスのメンバーを入れても10人前後かなと(笑)。

黒田:あと、リピーター率も高いよね。

上野:メンツに関係ないっていうところは、フジロックとも通じる部分なのかなと。

上野さんが「フェイスブックやってて良かった」って言ってましたけど、あれは具体的にどういうことだったんですか?

上野:こっちでいうミクシィに比べてみても、向こうでのフェイスブックは当たり前というか、名刺代わりみたいなものなんで。あれをやってると、現地で仲良くなった人とも後で連絡が取れるし、写真も共有できる。単純に外国の友達が欲しいのであればマストかなとは思いましたね、フェイスブックは。

黒田:やっぱりフェスとか行くと、友達がどれくらい出来るかで楽しみが全然違ってくるんだなっていうのは、すごく思った。

上野:日本人はせっかく海外に行っても、日本人どうしで固まりがちなので、それはもったいない。英語ができないのも向こうはわかってくれるから、多少ブロークン(・イングリッシュ)でも喋っちゃえば何とかなるかなと。じゃないとソンするだけですよ。

では、そろそろメインの、ご覧になったアーティストの話を聞かせてください。初日はちょっと特殊ですよね。

上野:「Don't Look Back」というATP恒例の名盤まるごと再現企画があるんですけども、今回は最初に出たのがオーストラリアの重鎮ガレージ・ロックバンド、ザ・サイエンティスツで『Blood Red River』を全曲披露。次が僕のお目当てであるマッドハニーで、しかも『Superfuzz Bigmuff』を演奏。その後はイギー&ザ・ストゥージズが『Raw Power』をやり、最後にスリープの『Holy Mountain』+『Dope Smoker』。たまらない人にはたまらないメンツでしたね。

日本じゃ絶対見られないですもんね(笑)。ちなみに、黒田さんはこの「Don't Look Back」では他にどんなものを見られてるんですか?

黒田:えっと、08年に行った時は2日目からの参加だから「Don't Look Back」は見られなくて...。だから「Don't Look Back」をガッツリ見たのは今回が初めて。といっても今回、ちょっと時差ボケがひどくて、かなりキツい状態だったんだけど(笑)。でもマッドハニーとかの観客からの受け入れられ方というか、イギー・ポップもそうなんだけど、"一体感"というのはものすごく感じた。

上野:そのへんは海外で見る醍醐味だなーというか。向こうの「ホーム」なんで。

黒田:あと、スリープはちょっと驚いた。ストーナーに関してはあんまり明るくなかったんだけど、生で見たときの「ボディ・ミュージック」感というか、低音が来たときのカラダが...。


「音」自体は他のフェスに比べてどうなんですか?

上野:メインのボールルームはもともとちゃんとした設備があるんですよね、円形で。だからPAも良かった。セカンド・ステージはただの宴会場みたいな部屋にステージを組んだだけだから、ちょっとノイズで耳が痛い時もあったんですけど。

黒田:屋内なんで、野外みたいに音が散ったりとかは無いです。

めちゃくちゃ見やすいらしいじゃないですか。

上野:メインの方はちゃんと勾配があって、ステージとしてしっかりしているから。ただ、アメリカ人はアホなのかクーラーが尋常じゃないぐらい強くて、涼しいを通り越して寒い(笑)。パーカーとか着ていないと確実に風邪をひくので、そこは気を付けた方がいいかも。

では、2日目はどんな感じでしたか?

黒田:オールスター的な、ATPがセレクトしたバンドが出た日ですね。

上野:僕みたいに初めての人には結構たまらないメンツでしたね。ファック・ボタンズに、バード・ポンド(Bard Pond)、シェラック...。Apse(*ファック・ボタンズと同じくATP RECORDSから作品をリリースしている、マサチューセッツのポストロック・バンド)もいればエクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイもブリーダーズもトータスもいるし。そしてトリがソニック・ユースっていう、ある意味わかりやすい。

黒田:ATPの世界観を凝縮した感じだよね。

バード・ポンドとか絶対に日本は来ないですよ(笑)。

上野:会場内で会えたんで、ちゃんと黒田さんが来日懇願してましたけどね(笑)。

黒田:バード・ポンドは、出発前に友達がYouTubeで「Tommy Gun Angel」っていう一番代表的な曲を聞かせてくれて、それがホントに素晴らしかったから。ノイズ・ギターがどんどんレイヤーされていく中で、浮遊感のある女性ヴォーカルが歌っている...シューゲイザーっぽいといえばシューゲイザーっぽいんだけど、どっちかというとアメリカのオルタナ的な感じ。「絶対これは良いだろう」って見に行ったらやっぱり良くて、しかも最前列で見られたので幸せでしたね。


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バード・ポンド

ソニック・ユースもすごかったらしいじゃないですか。

上野:2~3年前にも「Don't Look Back」のアメリカ版で代表作の『Daydream Nation』完全再現をやったことがあるんですけど、今回はそれに近い感じで。いきなり「Candle」とか「The Sprawl」とか(『Daydream Nation』収録曲の)3連発だったんですよ。それでもうモッシュやダイヴがとんでもないことになって、アメリカでのライヴの洗礼を浴びたというか...。「NYでソニック・ユースを見る」っていうのも一つの夢というか。00年代以降の曲は一切やってないんじゃないですかね。

黒田:セットリストも後で見たけど、『Daydream Nation』率の高さにビックリしたよね。「Don't Look Back」じゃねーかぐらいの(笑)。

上野:最っ高でしたね、あれは。で、今回のポイントとしてはソニック・ユースのメンバーによるサイド・プロジェクトが多かったっていう...。リー・ラナルドの「Text of Light」が同じ日にやってて、「Hallogallo 2010」っていう元ノイ!のミヒャエル・ローターがやってるバンドではスティーヴ・シェリーがドラムを叩き、最終日はサーストンがソロを。あとは、キムのフリー・キトゥンもいればコンプリートじゃないっすかぐらいのソニック・ユース祭りでした。ほかにも、2日目の朝にサーストンとジャームッシュが対談したりしていて、言ってる内容の全部は聞き取れなくても饒舌なトークで楽しかったです。質問コーナーもあって、「ジャームッシュのその髪型は、どうやってキープしてるんですか?」とか(笑)。

黒田:お客さんから前もって質問を募集していて、「(ガンズ・アンド・ローゼズ~ヴェルヴェット・リヴォルヴァーの)スラッシュのアルバムではどれが映画に使えそうですか?」っていう、ふざけた質問も...。


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サーストン・ムーア

すげーどうでもいい(笑)。

上野:でも改めてラインナップを見ると、アヴィ・バッフォローとかUSインディーのニューカマーもきちんと押さえていてエラいなあと。

黒田:この日はやっぱりファック・ボタンズがすごい良かった! 1曲目が「Surf Solar」で...。前見た時も、アルバムが気に入っていたうえでライヴを見たら「ホントこのバンドすごいなあ」と思って。で、今回もすごくて。アルバムの曲も、ライヴでやるともっと良いし。

どんなライヴなんですか? ステージに立つのはメンバーの2人だけですよね。

黒田:テーブルに「これでもか」とエフェクターや機材が置いてあって、それを向かい合っていじりながら、どんどんノイズを重ねていく感じ。

上野:すごかったです。ドラムのフロアタムとかも置いてあって、結構肉体的。


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ファック・ボタンズ

いいなぁ。絶対に最高ですよねー!

上野:2日目は僕にとって「来日キャンセル組」が3つ続いてるんですよね(笑)。一つはポーティスヘッド...もといジェフ・バーロウのBeak>で、ブックスも1年前に都内の某イベントで初来日が決まってたんですがキャンセルになってしまい、ファック・ボタンズもさっき話した通り。不遇な人達が多かったけど、いずれもライヴが素晴らしかった。

そして、ついに3日目。この日はジャームッシュがキュレーションしたんですよね。

黒田:ヴィヴィアン・ガールズを筆頭に...。

ヴィヴィアン・ガールズはドラマーが代わりましたもんね(インパクトあるルックスのアリ・コーラーはベスト・コーストに移籍。昨年7月ごろに発表された)。

上野:前任のアリちゃんに比べると地味なんですが、演奏はすごい上手かった。

黒田:そうそう、ATPの良さとしては撮影が自由なところで。いくらでもカメラ撮影が自由で、しかも撮った写真を後でFlickrとかで呼びかけてお気に入りの写真を共有したり、オープンなんだよね。だからヴィヴィアン・ガールズは2人してもう、パシャパシャとアキバのカメラ小僧状態(笑)。

ケイティ・グッドマン(ヴィヴィアン・ガールズ)
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上野:ケイティ(・グッドマン。ヴォーカル&ベース)にフォーカスしっぱなしでしたね。3日目の最初はサーストンのソロがあり、優しいノイズからポエトリー・リーディングまで聞かせてくれて。で、カート・ヴァイル(Kurt Vile)もまず日本で見られないですよね。めちゃくちゃ轟音だったんですけど、前の方に行ったら隣でキム・ゴードンがノリノリで見ていたりとか...。なんか、お気に入りらしいですよ。マタドールの後輩だし。ああやって還暦近くなっても若手を見てるのはエラいなあって、惚れ直しましたね。

黒田さんはヒップホップ勢がすごい良かったと聞きましたけど?

黒田:(ウータン・クランの)レイクウォンを見たんだけど、普段、家ではヒップホップって熱心に聞かないから、とりあえず見てみようかなと思って。そうしたらキックの音圧とか、巨漢の黒人がノシノシ歩きながらラップしている姿はホントに格好良くて。それも一気に前の方に行って見たんだけど、周りもみんな陶酔しているように見つめていて。

上野:客層も3日目は少し変わりましたからね(笑)。ルーズなスウェットの黒人が増えだして、「こえー」とか思いながら。

黒田:アメリカのフェスって黒人がほとんどいないんだよね。これまでも裕福な白人とかヒスパニック系の人がすごく多かったんだけど、今回のATP NYでは黒人率が異様に上がったのにビックリした。

上野:ウータン・クランのGZAとかRZAは(ジャームッシュの)『コーヒー&シガレッツ』にも出演してましたしね。


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レイクウォン

ホープ・サンドヴァルはどうでした?

黒田:このときだけは異様な雰囲気で、フラッシュ焚いて撮影するとスタッフがすっ飛んできて怒られたりとか、謎めいた感じ。ブルー・ライトが後ろから当たっているだけの真っ暗なステージで。

アルバム(09年リリースの『Through The Devil Softly』)も良かったですけど、演奏自体も?

黒田:良かったですね。ただ、やっぱりコルムのドラムは予想通り突っ込み気味で(笑)。静かな曲だと気になるところがあったけど、大体ホープ・サンドヴァルの曲って後半でバーストしていくから、そこでのフィルの連打とかはマイブラのファースト的な感じの凄まじさがいっぱい出てきて格好良かった。もちろん、ホープ・サンドヴァルも素晴らしかったです。

上野:ストリングス部隊はいなくて、基本的なバンド編成ですよね。でもホント、「まどろみ」の世界って感じで映像もクラシカル。ホープ・サンドヴァルはさすがに会場内ですれ違ったりできなかったですね~。あの人はそう簡単には近付けない気がしました。

黒田:ガールズも良かったんだっけ?

上野:初来日の原宿アストロホールも見ているんですが、その時ほどの衝撃は無かったんですけど...。やっぱりいいライヴをする人達だなと。そのガールズのステージを見ていたヴィヴィアン・ガールズも、ATPの直後にポリヴァイナルとサインしたようで(*4月12日に新作アルバムをリリース予定)新曲も1~2曲やってくれて。ソロ・プロジェクトも盛んだし、次の来日を待ちましょうって感じですね。

黒田:あと、T・モデル・フォードっていう黒人のブルース・シンガーも良かった。その人は初日からホテルのロビーでギター弾き語りをしていたり。

上野:そうそう、帰って調べてみたら90歳とかで...。

90歳!?

上野:車椅子でずっと移動していたようなんですけど、サインとかにも快く応じていて。物販エリアによくいましたね。で、いきなりギター1本で歌い始めたり。

黒田:ホテルのロビーみたいなところがわりとアーティストが集まったりする場所で、前回はディアハンターのブラッドフォード・コックスが夜中にいきなりセッションを始めて、観客も一緒に音を鳴らしながら一晩中騒いでいたりとか。そういうのもホントにATPの魅力かな。

上野:フジロックでいうオレンジ・コートよりも奥地的な、ああいう「参加型」といいますか。ずっと身近な感じで。


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T・モデル・フォード


日本人勢だとボリスが出ましたね。Sunn O)))と共演(スプリット・アルバム『Alter』を再現)。

黒田:最初はお客さんがいっぱいいたんだけど、進むにつれて人がどんどんいなくなって(笑)。振るいにかけられているわけじゃないけど、残ったコアな人達の反応はもうすごかったね。

上野:みんなデビル・サイン。

黒田:ステージにズラーッとギター・アンプが壁みたいに並んでいて。

上野:銅鑼をグワングワン鳴らしながら始まったんですけど、最初の音圧からして尋常じゃなくて。もうスモークも焚きすぎで、みんな黒装束で出てくるもんだから、「何の儀式ですか?」っていう(笑)。

黒田:僕なんか3日目は最初から最後までずっと耳栓をしていて。ホント耳がやられるような轟音アクトが多かったけど、最後にトドメをさされた感じですよ。

上野:そのあと彼らツアーを続けたみたいなんですけど、どこかのハコで音がデカすぎて警察に中止にさせられたらしく(笑)。まあ、そうなるわなと。

黒田:アメリカ人とイギリス人の、20代前半くらいの男の子達と仲良くなって話していたんだけど、目を爛々と輝かせながら「ボリス最高だ!」みたいな。

上野:ホントにこの欧米との人気格差は...。日本人だけに鼻高くもあり、寂しくもあり(笑)。でも、(映画の)『告白』でも楽曲が使われて。もしかしたらそろそろブレイクするんじゃないかと。

黒田:このときはマリファナ率も異常に高かった...。もうモクモクしすぎで、マリファナなのかスモークなのかどっちかわからない(笑)。


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ライヴ以外にも色々とお楽しみがあったみたいですね?

上野:CRITERIONっていう、過去の名作映画を商品化しているレーベルがプロデュースしているシネマ・ルームだとか、あとはスティーヴ・アルビニがディーラーとして取り仕切るカードゲーム・コーナーがあったりとか。夜中のバーではピッチフォークやATPのスタッフもDJになって回していたり、フラっとステージ以外のところに行っても楽しめるなと。

黒田:カラオケ大会もやってた(笑)。

上野:あと室内のプールでもみんな泳いでましたね。で、スタッフの人か誰かはわからないんですけど、マジックで書いたイラスト入りの張り紙がどんどん増えていくんですね。「ダンス・コンテストやるよ!」とか。その場のノリというのもあるけど、オフィシャルでもシェラックのボブ・ウェットンが「草野球やろうぜ」って呼びかけていたり、そういう「ユルさ」はアーティストも来場者も関係ないなって。ホント家族ぐるみのピクニックに近い部分もある。

そのシェラックはどうでした?

上野:そりゃ最高ですよ。アルビニなんてダッサいリスのTシャツとか着てて、お腹も...ストラップの上にお肉が乗っかってるけど(笑)、ギター弾いた瞬間にもう「こ、これは...!!」っていう。ソリッドとはこういうことを言うんだなあと。ZAZEN BOYSの向井(秀徳)さんが、いかにアルビニを好きなのかもちょっと理解できたり...。


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スティーヴ・アルビニ(シェラック)


話を聞いているとATPってホントに楽しそうですけど...。他に行ってみたい海外フェスはあります?

上野:なんでしょうね、最初にこじんまりしたフェスに行ってしまうと、逆にグラストンベリーとかでっかいところに行くとショックを受けちゃいそう(笑)。何万人で大合唱というのもフェスの醍醐味なんで、コーチェラとグラストは行ってみたいなとは思いますね。

黒田:僕はATPの本場である(イギリスの)マインヘッドは、冬にやった<ナイトメア・ビフォア・クリスマス>しか行ってないから、春のATP UKを見たいのと、リピーター的にもう1回行きたいなという気持ちがすごくある。あとは北欧とか、日本人では誰も行ったことのなさそうなフェスにも興味があります。

上野:やっぱりそのアーティストの「ホームグラウンド」で見るのは大事だなあって。シガー・ロスをアイスランドで見られたら「もう死んでもいい」とか思えそうだし(笑)。だから僕は今回、NYでソニック・ユースを見るというのは、自分の中でもデカいなと思いました。


2010年9月
対談構成/小熊俊哉
文/上野功平、小熊俊哉
写真/黒田隆憲、上野功平

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