「ディアハンター」という感覚

|
アーケイド・ファイアにつづいて、今度はディアハンターに関する投稿をご紹介します。なんとも豪華な感じですな(笑)...とか言ってる場合じゃないか。実はこれも、昨年10月にいただいていたお便り/原稿です。非常に興味深いものではあるのですが、編集部ふたり(小熊&伊藤)ともドタバタゆえ、アップできずにいました。すみません...!

昨年5月にこのサイトの「ヴァージョン4」を公開して以来、こんな感じを「読者諸氏とのフィードバック」感覚の基準にしたいと思いつつ、昨年初夏「フライング」的にこのコーナー、The Kink Controversyを始めていたわけです(ただし、ここには、読者さんからの「とくに興味深い」お便りだけではなく、コントリビューターさんや我々編集者の原稿を掲載させていただくことも、あると思いますが)。

でもって、今回お便り/原稿ご紹介させていただく財津奈保子さんは、ここにも、ここにもご投稿いただいています。いや「八百長」...「出来レース」とかじゃないですよ。

おそらく彼女には、クッキーシーンみたいなしょぼい(笑)...少なくとも「メジャー」ではないメディアをとおしてでも「なにかをひとに伝えたい」という衝動が強くあるのでしょう。うれしい/ありがたいことです...。

では、どうぞ!

>>>>>>>>>>

 ディアハンターの新作『HALCYONDIGEST』を初めて聞いた時、大分穏やかになったなぁ、と思った。「穏やか」って言うと語弊を招くかもしれないが、前作『MICROCASTLE』でヒリヒリと感じていた「狂気」が減って大分精神的に安定したというか。とにかく私が前作に感じていたのは、すごく細い縄の上を笑いながら歩いてるような「狂気」だった。それをむせかえる程甘ったるい音の波にのせて、せめて死後の世界は美しいものであるように...と思わざるをえないレクイエム。その美しさに魅了され思わず足を踏み入れたくなるような心地よさ。ギリギリのバランスでとても危ういものをディアハンターに感じていた。そんな音楽を作ってしまうのだから、本人達もさぞかし葉っぱの香り漂う物憂げな青年達なんだろうなぁ、と想像していた。しかしYOU TUBEなどでインタビューをチェックしてみるといたって普通の青年たちで、フロントマンのブラッドフォード・コックスはGEEK(奇人・オタク)などとも呼ばれてるみたいだがよく喋るし、何よりとってもチャーミング゛!好きなものの事になると話さずにはいられない!っといった感じが伝わってくる。この様子からGEEK(オタク)って言われたのかなぁ、とおせっかいにも推測してみる。

 とにかく今作『HALCYON DIGEST』の色彩は黒。私が聞いてて感じたのは深海だった。ゆっくりゆっくり光が届かない深海へ沈んでいくような。圧に塞がれた耳には少しわれたブラッドフォードの声しか聞こえなくなって...ってこれだけかくと充分狂気っぽいし私自身の頭を心配されてしまいそうだが、このアルバム全体を通して、波のようなものが無くて、すごく色んな音楽的要素が入っていると思う。が、私はアンビエント色を強く感じた。私自身はあまりジャンルについては、ほぼこだわりがない方だが「ニューゲイザー」というジャンルはディアハンターには当てはまらないように思っていた。だからニューゲイザーとしてディアハンターを紹介する記事を読んでは、明確な異論も出来ずに腑に落ちない思いをしてきた。しかし、シューゲイザーの教本のような音楽ライターさんの黒田隆憲さんがディアハンターを「シューゲイザーの遺伝子」として自身監修の著作で紹介されてて、とっっっても私はスッキリした。ブラッドフォードが幼いころからあらゆる音楽を愛で、慈しんできたのが分かる。ブラッドフォード自身が吸収していたものを素直に音として表すのはまさに遺伝子のように思う。

 そして今作にはブラッドフォードがずっと愛読し影響をうけているという作家、デニス・クーパーが書いた実際の悲劇のストーリーからのインスパイアもダイレクトに描かれている。やはり悲劇で悲しみという「負」の感情から生まれていると思うが、作品を渡り歩いた現実の悲劇は「HELICOPTER」という曲で派生ながらも「昇華」され、色んな人に愛でられている。そんな風に感じるのは私だけだろうか?そしてやはりブラッドフォードが素直にその「奇妙な」と言われてしまう才能を発揮できるのは、ブラッドフォードのソロプロジェクト、アトラス・サウンドで"ずっと傍にいてほしい"(正確な翻訳かは分かりませんが)と曲を捧げたり、双子のように趣味があってずっと刺激を与えあってる、と語る無二の友人、Gのロケット(この人のボーカルもブラッドフォードとはまた違う男っぽい声でディアハンターの魅力の一つだと思う)の存在も大きいのでは、と推測する。私は世の中の「美醜の定義」がいまいちよく分からないが、彼らはそうとう審美眼もあるし、絵を描いてもすごそうだ。おこがましい事を言うと絵を描いてる私は、羨望まじりに嫉妬まで覚えるほど「美しいもの」の本質が『HALCYON DIGEST』には描かれているように思う。

retweet