田中喬史

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PERFUME GENIUS『Learning』*画像
BUFFALO DAUGHTER『The Weapons Of Math Destruction』
CARIBOU『Swim』
GIL SCOTT HERON『I'm New Here』
SUFJAN STEVENS『The Age Of Adz』
ROVO『Ravo』
THE BOOKS『The Way Out』
AUTECHRE『Oversteps』
THE LAST ELECTRO-ACOUSTIC SPACE JAZZ & PERCUSSION ENSEMBLE『Miles Away』
THE LIVING SISTERS『Love To Live』





 音楽という実体のない、人間が作りだした観念に笑い、涙し、時に安らぐというのは、いくら商業と切っても切れない関係になってしまったポップ・ミュージックであっても、僕に、そして誰もにロマンを、または成長させる何かを与えてくれる尊いものである。ひどく淡泊に考えれば、音楽とは観念でしかないが、その観念に、僕らは毎日こころ動かされている。音楽を聴いてきた体験の集積が人間を形成する強い要素と成りうることは珍しいことではなく、むしろ人間に何も与えない音楽があるとすれば、それは観念ですらない。僕はもし、良い音楽を定義するとしたら、人間を形成するとても強い要素に成りうる音楽のことを指して言う。

 近代の価値観で言えば、音楽には創作者の意思が宿っていて、創作者の想いや祈りにも似た願いが聴き手である僕ら聴衆を感動させるのだ、ということになってはいるが、たとえそうだとしても音楽という観念は漠然とした表現であり、創作者の意志を汲み取るのはとても困難であるし、漠然としているから面白いとも言え、創作者の意思が100パーセント表現されているとは限らない。というよりも、100パーセントの表現など成しえないと僕は思う。だからこそ僕らリスナーの想像力が表現というものに対して真摯に向き合った時、音楽という表現は完成する。鳴っている音が全てではなく、聴き手も含めて音楽なのである。そしてそれは聴き手の想像力を音と向き合わせることのみならず、音が聴き手の想像力を触発し、何かを生じさせ、つまりは人間の中にある感受性を音が引き出し、初めて音楽になるという場合が多い。音が音楽として聴こえるとき、創作者と聴き手の関係とは個別ではなく、対等でもなく、一体という言葉がふさわしい。もし音を聴いて、拒絶反応が起こったとしても、その拒絶という感覚もまた、聴き手と音の関係性の中で生まれた音楽の一部である。どんな感情にしろ、聴き手が音を聴いて何も感じないのならば、音が音楽という観念として働かないからだ。

 音を音楽として認知する、あるいは理解する術は時代背景や解説書を読むなど様々ではあるし、解説書から音楽が透けて見えることはあるが、それが音楽の全てではないことは当然で、ひとつの側面であることを自覚しないと解説書をなぞりながらしか音楽が聴こえなくなってしまう可能性がある。実際僕にはそういうことがあったのだった。それは良いか悪いかの問題ではなく、僕はときどき裸で音楽と向き合うことをおなざりにしてしまっていると自分で感じることがある。できることなら裸で音楽の前に立ちたいと思っているが、ほんとうの意味で先入観を抜きに音楽の前に立つことは不可能で、言ってしまえば音楽を音楽だと意識した時点で先入観を持っている。先入観を覆されることも音楽の醍醐味だということは分かっているつもりだが、僕としてはやはりというべきか、裸で聴きたい。そして言葉にしたい。でもそれは不可能だということにもやもやしてしまう。いっそのこと岡田暁生の『音楽の聴き方―聴く型と趣味を語る言葉』(中公新書)にあったように、音楽を語る言葉も含めて音楽だと考えれば腑に落ちるのだが。

 選んだ十枚はなるべく裸で聴きたいと思い、これからも聴き続けたいと思った盤であることと同時に僕を構成する強い要素になったのではないかと思える盤でもある。特にバッファロー・ドーター、ギル・スコット・ヘロン、パフューム・ジニアスは聴いていると知らない自分がどんどん胸の内から広がってきた。こんな気分は初めてだ、というやつだった。とんでもなく革新的な音楽ではないと思うが、それでも、音楽に身を乗っ取られる思いがした。不器用な僕はそんなふうにしか音楽を愛せないのである。旧譜なので十枚には入れていないが続々と出てくるマイルス・デイヴィスのライヴ盤を聴いたり、武満徹を聴いた一年でもあった。これまた十枚に入れていないがコーカスとヘラジカはライヴを観たら僕の中で印象がガラッと変わった。とても面白いことをやっているバンドだと思う。秋口に極度の不眠症になったが、やはり音楽はリアルに響いてくるのだなと実感した2010年。今年はさらにリアルに音楽と一体になりたい。音楽シーンに爆発的な何かが起こりそうな予感がする。

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