吉川裕里子

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APPARATJIK 『We Are Here』*画像
ARCADE FIRE『The Suburbs』
SWANS『My Father Will Guide Me Up A Rope To The Sky』
MEW『Eggs Are Funny』
LADY GAGA『The Fame Monster』
JAMIROQUAI『Rock Dust Light Star』
THE DRUMS『The Drums』
INTERPOL『Interpol』
DAFT PUNK『Tron: Lagacy』
MGMT『Congratulations』






 まず断とつトップを飾るのはアンサインドであるアパラチック。アーハ、コールドプレイ、ミューと一見何も接点のない、そして音楽性も異なる3組を代表して3人が集合。そこにエンジニアをプラスしてまさに革命と言えるデジタル・ミュージックの最高峰を作り上げた。ライヴはシークレット・ボックスの中でシルエットだけを映し出し、ボックスにはライトを駆使した覆面バンドならではのこれまた画期的なショウを幾つか行なっている。滅多にライヴを披露しない彼らだが、契約のないロンドンなどでもショウを行ない、各国からファンが押し寄せ大変話題となった。また独自のメディア『アイ・オン・コミュッテ』を通じ、顔を変形または覆面にして、英語でのプレスも展開している。こちらはポッドキャストから閲覧可能だ。声も加工しているため英語のサブタイトル付きとなっている。CDは拠点ノルウェーでのインターネット通販でしか取り扱わず、シングル「エレクトリック・アイズ」の7インチも含め非常に希少価値の高い一品だ。数人のヴォーカルを取り入れ、中でもミューのヴォーカリスト、ヨーナスの歌う1曲目「デッドビート」は究極のインパクト。アルバム全体としてもとにかく完成度が高く、1曲も隙のない大変素晴らしい一枚となっている。現在iTunesでの取り扱いが最も便利だが、通販のMP3も大きなスリーヴが付いてくるなど特典は満載。まだ未聴の方は是非ともお手に取るべきアルバムだ。現時点で私が主催するヘッジホッグ・レコーズでは日本での契約を申請中。もしかしたら日本で販売出来る機会が訪れるかもしれない。その点では国内盤を待つという手段もお薦め出来る。

 次のアーケイド・ファイアは実はアメリカからサンプルとして取り寄せたものである。CD好きには嬉しい紙ジャケに、今回主立って2種類のサウンドが盛り込まれている。一つには「ザ・サバーブス」に代表される古風なギター・サウンド。もう一つが2曲目以降に見られるインディー・サウンド。筆者は後者のバランスの多さに大変感動した。これがアーケイド・ファイアである、それをいつまでも聴かせてくれる。内容の充実さにも感銘を受けた。貫き通す勇気、彼らはどこまでもアーケイド・ファイヤーで居続ける。その姿勢を充分に感じさせる劇的な一枚となった。

 そしてスワンズ。9分以上に渡るオープニングから始まるインダストリアル/オルタナティヴの雄、渾身の最新作だ。全編通してダークで破壊的であり続け、現在も生き続けるその根性を十二分に見せつけるニュー・アルバムとなった。また、来日も控えておりこれを入門編としてスワンズ初体験をするのも良いだろう。過去『サウンドトラック・フォー・ザ・ブラインド』等大傑作を出してきたスワンズが、いかに今現役であるかを感じさせられる。もちろん過去の作品は非常に多いため、いわゆるゴスと呼ばれる比較的安値で売られている作品を全部聴けとは言わない。だが、ファンとしては今を感じ取ってほしい気持ちも大いにある。そしてリリースはもちろん彼らのレーベル、ヤング・ゴッド! 80年代、全盛期から少し落ち着いた印象はあるもののまだまだパワフルで、彼らの挑戦は終わっていない。列記とした破壊的名作と言えよう。
 
 次にミュー、『エッグス・アー・ファニー』。こちらは14年に渡る彼らの初のベスト盤となる。ここに至るには実は全米デビューが大きな鍵を握っているのだ。2006年、オリジナル・リリースの翌年4thアルバム『アンド・ザ・グラス・ハンデッド・カイツ』が徐々に脚光を浴び始め、遂にソニーUSAと契約。続いて前作の『フレンジャーズ』もリリースされたとあって、初めて聴く人たちへ向けて新たなツアーが始まった。それまで『アンド・ザ〜』を中心にプレイしてきた3人(全米デビュー直前に4人目のメンバー、ヨハンが子供が生まれたことを機に脱退する)は、3人になったことで一段と結束力が強まり、少しずつ『フレンジャーズ』の曲を入れながらプレイするように変化していく。その結晶が実を結んだ結果がこの一枚だ。2009年には『ノー・モア・ストーリーズ...』のリリースにより方向転換を迫られた彼らだが、その中からもヴォーカル、ギター、ドラムスが特に活かされた曲を収録。日本人の知っているミューから世界のミューへと羽ばたいた、その奇跡が存分に味わえる。ライヴに行ったことがある方はもちろん、ライヴ未体験の方にも是非是非一聴していただきたいと思う。

 そしてレイディ・ガガ。2009年の最高傑作『ザ・フェイム』からどれだけ成長したのかと言えば、まずビヨンセをフィーチャーした「テレフォン」において非常に完成度の高かった『ザ・フェイム』を上回る大名曲を新曲として収録したことだ。また、今度はいろんなコラボレートも実現させており、一人の場合でも昨年に負けない新曲を多数詰め込んできた。尚、限定ではあるがディスク2に『ザ・フェイム』が再録されているヴァージョンが最もポピュラーで、2010年のミリオン・ヒットを記録している。彼女の全てが実力、才能というものだろう。

 そしてお馴染みジャミロクワイの新譜がリリースされた。クオリティは群を抜いて素晴らしく、JKの一人芝居ではなくバッキング・ヴォーカル陣も演奏隊も上手くJKと絡み合って迫力のあるダンス&メジャー・サウンドを聴かせてくれる。流石だ。スペイシーでもあり、大ヒット作『トラヴェリング・ウィズアウト・ムーヴィング』の延長にありながらどんどん新しい面を出してくるその奇才ぶりは未だ健在。ファンク&ソウルをベースとしながら、JKによるヴォーカルがただのダンス・ソングでないことを裏付けるように多ジャンルに支持される包容力を持っており、だからこそ聴く者を大いに高揚させてくれるのだ。

 続いてザ・ドラムス。元エルクランドとして活動していた中心人物が新たに結成したニュー・ヨークの新人バンド、デビュー・アルバムとなる。エルクランドでのエレクトロ・アプローチから一転、ニュー・ウェイヴやネオアコを感じさせる統一感のある作品。全体に統一感があるということは逆に言えば嫌いな方は耐えられないかもしれないが、そのある種の退屈感が少しずつ色を付けたザ・ドラムスという存在を確立させたとも思う。特にデビュー盤として無駄のない一枚だと筆者は感じた。EPを買った方にとっては被る部分も見られたかもしれないが、一枚のアルバムとして出来ればアルバムの方をまずは手にしてほしい。これでザ・ドラムスがどんな存在であるかがわかるだろう。

 次にインターポールのセルフ・タイトルド・アルバム。インターポールがインターポールであり続け、その前提の上で進化し続ける方法、その回答がここにある。中にはゴッドスピード・ユー!・ブラック・エンペラーを思わせる、迫り来る恐怖と躍動感に溢れたコード進行も見られ、また新たなステージへ上っていったことを実感する。そして今でも失われない詩的な知性を合わせ持ち、インターポールという集団としての成長を遂げている。前作と比べるとベーシストのカルロスが脱退しパホがサポートしているが、今作においては特にギターのダニエルが今までにない単音ギターを披露し、より一層ギター・バンドであることを際立たせる一役を買って出ている。もちろんアルバムの完成度は完璧。インターポールは基本的にどのアルバムから入っても受け入れやすいバンドだと思っているが、唯一1stアルバムだけはジョイ・ディヴィジョンの生まれ変わりと言われるように、聴く者を偏らせてしまう難点がある。だが次々とアルバムをリリースするにつれ、独自の方向へと転換させていることから、偏見のある方でも新作を一聴するには相応しいのではないだろうか。これまでのファンをも驚かされる展開となっており、初心者にも熟練者にも両方お薦めできる完全なるインターポールが誕生したと思う。アメリカらしく、これまでのブリティッシュ・サウンドを一新させる一枚となっている。

 そしてサウンドトラックという大役を任されたダフト・パンクの2人だ。どちらかと言えば成功とは言えない一枚だが、その一因にオーケストラの多用起用にあるのではないだろうか。随所にエレクトロ・サウンドが聴かれるものの、一番聴いてみたいと思わさせたのはそのデモだ。エンド・タイトル曲こそ素晴らしいが、全体に漂うのは常に映画用のストリングス・サウンドとなってしまっている。映画『ソーシャル・ネットワーク』のトレント・レズナーがゴールデン・グローブ賞を受賞したのは非常に納得する。それに比べてダフト・パンクは負けたのかというと、実はそうでもない。彼らは今までハウス界の頂点に立ちながら、やったことのない新しい第一歩に踏み出したのだ。それだけでも快挙だろう。今回はウォルト・ディズニーによる3Dアクションということもあり、あまり多くの自由はなかったのだろう。有名作品になるほど映画への協調性が求められる中、彼らのおそらく90%は出し切ったように思われる。殆どが映画のスコアとも言っていい作品ではあるが、ダフト・パンクらしさもまだ残されている。映画と一緒に楽しんでみるのも良いのではないだろうか。

 最後はMGMT。これは2010年において最も世界を震撼させたアルバムの一つ。皆に好かれる音楽とはこのことだ。非常に爽やかでありながらロック系クラブ・ヒットにもうってつけの楽曲が名を連ねる。EPからの成長も目覚ましく、ポップであり、かと言ってギター・ポップの枠に収まらない緻密なアレンジが施されている。当然好みにはよるが、比較的暗かった2010年を明るく彩ってくれるのはこれしかない。王道ポップスの最新進化系だ。2009年のパッション・ピットの登場には正直劣ると思うのだが、それでも2010年におけるシーンの中にここまで爽快な音楽を打ち出すこと自体勝負に出ていると感じる。キラキラとしたギター・ポップ・ソングが低迷する昨今においてシーンに上手く入り込んだキラー・サウンドと言えるだろう。ただ一つ許せないのが「ブライアン・イーノ」という曲が入っていることだ。これをギター・ポップで明るく歌うというのは、イーノ・ファンにとっては個人的にだが一種の冒涜。あとはアルバム一枚通して聴いて気持ちよくなる作品になっていると思う。

 さてこの中でいただいたのはアーケイド・ファイア、ミュー、インターポールの3枚、あとは自分自身で購入したものから選出した。まだまだ購入出来ていない作品はごまんとある。皆さんが聴いた2010年を今はとても楽しみに待っている。

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