ザ・キャプティヴ・ハーツ「ハミングバード」EP(Vinyl Junkie)

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the_captive_hearts.jpg イギリスはグライムやダブステップなどダンス・シーンが面白い。ロック・バンドには元気がない。現在の4AD(もちろんイギリスのレーベルだ)を取り仕切る社長、サイモン・ハリデーをしてそのような趣旨の発言を残すなど、今ではこういった論調が多くの音楽ファンのあいだでも共通認識となっている。そんななかでも、いやいや若干の古臭さに目をつぶれば、聴くべきバンドは今のイギリスにも結構いるぞ...と改めて思わせてくれたのがこのEPだ。もっとも、彼らはフレッシュな新人とは言い切れない、なかなかの苦労人でもあるのだが...。

 ザ・キャプティヴ・ハーツ(The Captive Hearts)を語るには、ヴォーカル/ソングライターにして中心人物であるマーク・フリスがかつて所属したザ・トルバドールズの話題を避けて通れない。「吟遊詩人」という純朴なバンド名どおりの、ブリティッシュな気骨と味わいを併せ持ったバンドだ。イントロの甘酸っぱいギター・カッティングにつづき、軽快なビートとアンサンブルに合わせて高揚感溢れるメロディがどこまでも広がっていくデビュー・シングル「Gimme Love」で、プロデュースを手掛けたあのジョン・レッキー(80~90年代のUKロック最重要人物のひとりですね)をも虜にさせ、イギリスのメディアも注目した。しかし、一番食いついてきたのは美しいメロディに目のない日本の音楽ファンで、08年サマソニ出演、単独来日ツアー、本国ではついに陽の目をみることのなかったフル・アルバムまでリリースと圧倒的な支持を獲得。その後は相次ぐメンバーチェンジのすえに活動停止、ついに解散...と実力に反した寂しい末路を辿ってしまったが、抜群の作曲能力を誇るマークはこうして4人組の新バンドを引っ提げ、再びその天賦の才をアピールしている。

 先述した「Gimme Love」の流れも少し汲んだ、瑞々しくキャッチーなコーラスの掛け合いも印象的なオープニングの「Hummingbird」一曲を聴いても、ザ・トルバドールズ時代と変わらず、奇をてらうことないメロディ一本勝負を継続しているのがわかる。誰もが比較対象として思い浮かべるのはラーズだろう。バンドのホームページからもDLできるミドル・チューン「Set My Soul On Fire」は、イントロのフレーズから、多少のサイケデリック感も備わった淡い音像と哀愁漂う歌メロまで、ラーズの「There She Goes」と同じ匂いがする。ハーモニカの響きも印象的だ。年齢と経験を積み重ねたことを実感させる渋みと旨みが滲んだ「Je Vous Aime」や「Something's Coming Over Me」といったアコースティック・ナンバーも心地よく聴けるし、6分近くの尺で高らかに歌い上げる「Hallowed Heartbreaker」は徹頭徹尾ドラマチック。とにかくいい曲が揃っている。

 アメリカ勢に圧されぎみなイギリスのロック・シーンでも、かの国の伝統であるノスタルジックでエバーグリーンなメロディへの渇望はきっと高まってくるはず。もう20年くらい早くデビューできればマーク・フリスは才能に見合った賞賛をより集めることができたかもしれないが、2011年の今でも得がたい存在として、このバンドの価値を声高に主張したい。

(小熊俊哉)

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