アンナ・カルヴィ『アンナ・カルヴィ』(Domino / Hostess)

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anna_calvi.jpg 風が吹きすさぶ不穏なパノラマ――、それはまさに幕開けにふさわしい。オープニングのインスト曲、「Rider In The Storm」は、そんなヴィジョンを脳裏に焼き付ける。この曲が示唆するとおり、このロンドンの新星、アンナ・カルヴィ(Anna Calvi)のセルフタイトル・デビュー・アルバムはあまりに映像的でドラマチックだ。

 このアルバムは、全体を通してひとつの物語が展開されるコンセプト・アルバムではない。だが、ひとつひとつのシーンを克明に語りつくすような歌詞や、オーケストラ風の音のとり方で壮大さを表現したサウンドスケープは、彼女自らデヴィッド・リンチの作品を目指しただけあり、悪魔や欲望をテーマとした映画と呼ぶに相応しい。

 ジミ・ヘンドリックスに影響を受けたというギターは言葉より巧みにストーリーのディティールを語り、ニーナ・シモンやマリア・カラスの歌唱法を取り入れたヴォーカルは堂々と存在感を示す。プロデューサーはPJハーヴェイの仕事で知られるロブ・エリス。彼が、無駄を削ぎ落としたサウンドを煌びやかに輝くよう組み立てている。また、バックを支えるマルチ・インストゥルメンタリストのマリー・ハーペズとドラマーのダニエル・メイデン・ウッドの腕も確か。スキルの高さが、スト-リーの陰影を際出させ、迫真の演技を想起させるようだ。

 ここ数年、フローレンス・アンド・ザ・マシーンやマリーナ・アンド・ザ・ダイアモンズといった、非日常的な世界観を提示するポップ・アイコンが台頭してきた。彼女たちの音楽には、繰り返される貧しく苦しい日常を一瞬でも忘れさせるための妙薬、という側面があるといえるだろう。そして、このアンナ・カルヴィ。音楽的にはかけ離れているが、ひとときの夢にリスナーを浸らせてくれる、という役目においては同じだろう。

 確かに、BBC SOUND OF 2011のリストに選出されたことや、ブライアン・イーノが熱烈な援助を行なっているなど、熱心なリスナーなら食いつかずにいられない話題が彼女には尽きない。だが、何よりこのアンナ・カルヴィは、そういった余計な情報を一切排除して耳を傾ければ感じられる、類まれなる物語性によって真価をはかってほしい。

(角田仁志)

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