CUT COPY『Zonoscope』(Modular)

|

cut_copy.jpg いまやインターナショナル規模のダンス・アクトとなった彼らの待ち望まれた新譜が、どうしてこんな肌寒い季節にリリースされるんだろう...とちょっとだけ不思議だったが、そういえばこの人たちはオーストラリアのバンドだった。この原稿を書いている一日の、彼らが拠点としているメルボルンの最高気温は19度。土地によっては30度を超えている。本当にそういった事情がリリース・タイミングに関係あるのかは正直よくわからないが、南半球は温かさそうだな。羨ましい...あはは。

 08年に発表された二作目『In Ghost Colours』で彼らは一躍その名を世界中に轟かすところとなった。シンセサイザーを駆使した煌びやかで光の渦のようなサウンド・スケープと、メランコリックで郷愁あふれるメロディ、80年代エレポップの影響を根幹に据えながらも、フレンチ・エレクトロやエレクトロ・シューゲイザーなどの流れも汲んだ、極めてモダンな疾走感。「ニュー・オーダーのアルバム再発(これも08年)はカット・コピーが促した」なんて評まで見かけたが、オーストラリア産らしいセンスの微妙な"ズレ"も含めて、バンド名どおりに情報の取捨選択センスも存分に発揮された快作はセールス的にも大成功を収めている。

 思い切り乱暴に仕分けすれば、この『Zonoscope』は『In Ghost Colours』の続編、あるいは焼き直し...みたいな位置付けもできると思う。相変わらず歌声を聴けば胸を掻きむしらずにいられないし、フェアライトCMIのような旧式の電子楽器や、それらを駆使した古のミュージシャンたちに対する研究の跡もうかがえる。カット・コピー印のキラキラしたエレポップは健在だ。しかし、アルバムを聴くと長めのインターバルが空いただけの工夫と苦労も見え隠れしてきて、そこがリスナーによって評価を二分させるであろう要因になっていると思う。

 マンハッタンの摩天楼を浸食するナイアガラの滝。意味深なジャケットは日本のデザイナー、故・木村恒久氏による有名なフォト・モンタージュ作品が用いられている。人工的な建築物を大自然がなぎ倒していく...。このモチーフは彼らが本作で企図したサウンドと一致したようだ。メルボルンにあった廃墟を改築し、長期に渡るジャム・セッションのすえにこのアルバムは完成した(そのときのようすはMySpaceでも現在公開されている)。そのエピソードを聞いて予感させるとおりの、デジタルとオーガニックの融合を目指した冒険の成果がここには記録されている。

 先行シングルである「Take Me Over」は、ねちっこい唸るベースラインとファンキーなギター・カッティングを基調としたトム・トム・クラブを思わせる緩いグルーヴに、チープな電子音が絡まるバレアリックなディスコ・ナンバー。かつてのタフ・アライアンスあたりにも通じるトロピカルな空気は、つづく「Where I'm Going」でも継続している。いやらしい見方をすれば昨今の流行を押さえた作りになっているが、もともとファンク・ミュージックや90年代のアシッド・ハウスもルーツにもつ彼らが籠もってジャムり続ければ当然の帰結というか、単に地の部分があからさまに出ただけな気もする。一方、「Blink And You'll Miss A Revolution」や「Hanging Onto Every Heartbeat」のような楽曲はAOR的と形容できるほどポップスとして洗練され、2分弱のインスト曲「Strange Nostalgia For The Future」での穏やかな響きは、その曲名と合間って『Zonoscope』の世界観を読み解くヒントのように機能している。ヘラクレス・アンド・ラヴ・アフェアの新作同様に80年代後半あたりのハウスからの影響が見え隠れする曲もあるが、そこから汲み取れるのもエロスではなくてやはりノスタルジアだ。

 前作よりやや丸くなって落ち着いた作風になっているぶんアルバム全体としてはやや間延びしている感も否めないが、曲のひとつひとつを取り出せば聴きどころも多く、ネタの種類も豊富になっている。なんとも悩ましいレコードだ。収録時間の4分の1を占めるラストの長尺曲「Sun God」が、トリッピーなアシッド感覚が全開ですばらしい内容になっているのもまた悩ましい...。強引に喩えれば前作がニュー・オーダーの『Technique』で、こちらはトーキング・ヘッズの『Speaking In Tongues』。どちらが好みかは人それぞれ...、というところでしょうか。ちなみに、彼らはトーキング・ヘッズ的(『Stop Making Sense』的)なシアトリカル路線のライブ・ステージの構想を練っていたりもするらしい。それはぜひお目にかかりたいぞ。正しい姿勢として断固支持したい。

(小熊俊哉)

retweet