ザ・ソニック・エグゼクティヴ・セッションズ『ザ・ソニック・エグゼクティヴ・セッションズ』(Thistime)

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 いきなり私事で恐縮だが、今年に入って職場が変わり、そこで流れるラジオ局もJ-WaveからInter FMに。JUJUや平井堅の番組もちょっと好きだったが、岡村有里子さんのDJがやっぱり素敵ぃ~♪ と聴き惚れていたら、頻繁にプレイされているある曲が耳につく。あまりに流麗なコーラスワークっぷりに一発でノックアウトされ、声質と音づくりのオタクっぷりからしてロジャー・マニングjr.の新曲かな...? と思ったらそうではなかったが、調べたら過去にジェリーフィッシュのカヴァーもしている人たちみたいで、そんなに間違えてもなかった...どころか、そのカヴァーのあまりの出来のよさに本人たちのお墨付きまでいただいているみたい。すごいな。

 ウェールズ出身の三人組、ザ・ソニック・エグゼクティヴ・セッションズ(The Sonic Executive Sessions)。スタジオのオーナーとセッション仕事やTV音楽などをこなすミュージシャンによるユニットで、楽曲の完成度のあまりの高さにアルバム発表前からMySpace経由で一部では大変話題になっていたそうだ。待望となるアルバムのほうも、期待を裏切らなかったろう文句なしのポップ・アルバムだ。スティーリー・ダンとジェリーフィッシュのドリーム・ユニットによる巧みかつハッピーで活き活きとした演奏に乗せて、疾走感あるサーフィン期と夢見心地なペット・サウンズ期が融合したビーチ・ボーイズ風の甘いコーラスが気持ちよすぎる...とまで書いても大袈裟でなさそうな「You'll Never Happy」(ラジオで大プッシュされている曲だ)を筆頭に、多少ウェットな憂いを帯びたり、とびきりチャーミングだったりしながら、甘美なメロディが全編に詰め込まれている。メリーゴーラウンド的な多幸感はロジャー・マニングjr.のソロ近作にも通じるものがあるし、冴えわたるソングライティングとピアノ・ポップぶりはベン・フォールズやルーファス・ウェインライトを彷彿とさせる。パワーポップ然ともしながらAOR的な音づくりの丹精かつ端正な職人気質で、クイーンから初期のキリンジまで、日本の音楽ファンのツボを押しまくる展開の連続だ。フックの強さは実にラジオ・フレンドリーだし、どの世代が耳にしても郷愁に襲われるに違いない。

 似たような作風でもMIKAのようなキャラクターのアクの強さは望むべくもなく、技巧派スタジオ・バンドだけあってライブの予定も特にないそうだが、だからといって地味な印象は微塵も受けない。どうやら筋金入りのポップ職人らしく、メイン・ヴォーカルであり作曲も手がけているChristian Phillipsはあのコリン・ブランストーンの近年のアルバム制作にまで携わっていたとのこと。日本盤ボーナストラックにはStack-O-Vocalsバージョン(ビーチ・ボーイズがよくやっていた、ヴォーカルのみのミックス)も収録。スゴ腕コーラスっぷりを堪能できる一方、これを聴くことで改めて彼らの録音技術/芸術の精巧さを再発見できる。ここまで書いて、誰がこの作品を賛辞しても似たりよったりな文面になりそうなことに気づいたが、それだけ広いストライクゾーンに対応している証拠で、音の魅力が誰にでもわかりやすく伝えられるというのもポップの世界においてはすばらしい長所だと開き直れるほどミラクルな瞬間に満ちている。雨の日も笑顔になれそうな、しかめっ面した人々の耳にイヤフォンを捻じ込んででも聴かせたくなる好盤だ。

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