SUUNS『Zeroes, QC』(Secretly Canadian)

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 「お祈りなさい 病気のひとよ--ああこのまつ黒な憂鬱の闇の中で/おそろしい暗闇の中で--ああ なんといふはげしく陰鬱なる感情のけいれんよ」(萩原朔太郎『青猫』より「黒い風琴」抜粋)

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 思えば00年代的な「浮遊の時代」にフィットしたのが「空を飛ぶような」、ネオ・サイケデリアの運ぶユーフォリアだったとしたならば、10年代に入って「波へ乗りに」出て行ったユース達はでは今、何処に居るのだろうかと周囲に目を遣ると、「パーティーの喧噪」を遠目に見送って(Glo-Fi/ Chillwave)、彼らはどうも「祖父の」すすけた(Grimy)地下室で神経質なダンスを踊っているようだ。

 人間は自身が不安定な状況下にはノスタルジアを求めるきらいがあるそうだが(事実、911以降のアメリカではベティ・ホワイトといった往年の俳優が度々フィーチャーされていた)、インディ・レーベルに於いて少しずつ浸透しつつある、生産量が頭打ちされたバイナル盤限定というリリース形態を見る限り、前述した陳腐な比喩も強ち全くの見当はずれというわけでもないように思える。

 漆黒のオフビートに乗る沸点の低いベース、不明瞭な人間の呟き。叫喚のようなエフェクトを掛けられて唸るギター、クラップの音--そんな不安を煽るように、「神経症の子供」があやされる訳なのである。

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「今回のアルバムでは単純なリフか、或いはキーボードのループから始めて--そう、各要素を小さく限定して、それを可能な限りエクスパンデットするようにしたんだ。」--ラオス語でゼロを表す"suun"を冠したサンズはカナダはモントリオール出身の4人組のバンドであり、本作は彼らのデビュー・アルバムに当たる。

 スロッピング・グリッスル直系、フロント・ライン・アッセンブリー、スキニー・パピー然としたアグレッシブで隙間の無いビートにボディ・ミュージックの要素を挿みつつ、数々のアートロック、或いは同郷モントリオールのミニマル音楽から影響を受けたという彼らの音楽は、そのアプローチはトータル・セリエズムを踏襲しつつ十二音技法的な無調の音楽と繰り返しの否定からの「音楽/非=音楽」に関するコンフリクトから「作品」と対峙した例のノイズ・ミュージックの鱗片も感じさせるからして、なるほど洞窟を蝋燭の明かりを便りに彷徨するようなある種独特の空気感が認められる。--「例えば...「Pie Ⅸ」という曲は同じことを何度も何度も繰り返すんだけど、でもリピートの中に少しずつ要素を加えていって、緊張感を保つようにしたんだ」(Ben Shemie/ Vo)

 ブレイクグラス・スタジオのジェイス・ラセックを共同プロデューサーに迎え、『Zeroes QC』で彼らは、USインディらしい「如何にも」ヘイト・アシュベリー然としたアシッド・ロックから、「ロマンティックな」フロア対応のダンサブルなシンセポップ(「Arena」)、そして或いは、しばしば「スコール」と称される深く歪ませたギターの創出するフロウティングな空間に「俯き加減の」ロウファイなダーク・ポップといったジャンルの「可能性」を示唆しつつ、一つ一つスロウに躱して行く。

「君は君自身になっちゃいけない/君は君じゃない、他の誰かなんだから」(「Gaze」)、「君は自分自身のことがわからないのかい?」(「Organ Blues」)―そう、この「不穏な」エレクトロ・トラックは「ゆっくりと滴る血液」のように、明確に呪詛的な狙いを以て展開されるのだが、これらの迂闊に「迷い込ん」だ意識を攪乱させるような曲群は或いは、ガントレット・ヘアー(Gauntlet Hair)、WU LYFといった気鋭のインダストリアル勢との共振さえも確認することが出来るのだ。

 付則すると、配信元であるシークレットリー・カナディアン(Secretly Canadian)は1996年発足のインディアナのレーベルで、アニマル・コレクティヴ、イェイセイヤー、アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズの新譜などがまだ記憶に新しいと思うが、この辺りは現在アリエル・ピンク、リアル・エステイトらのフォレスト・ファミリー、若しくはスリープ・オーヴァー(Sleep∞Over)、ガントレット・ヘアーらが所属するブルックリンのメキシカン・サマーと並び「最も信頼できるレーベル」として、「シーン」を牽引しているインディ・レーベルの一つである。

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思えば10年代始めの一年は「センチメンタルでナイーヴな感性」に多く触れたような気がするが、嘗てのジョニー・マーのように「雨の降る11月の水曜の朝」はダブルデッカーに乗り込み、或いはただ、「頭を窓におしつけて」いるだけで良かったのかも知れない―「過去」を縫い付けて、バスは動き続ける。

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