ROVO『Ravo』(Wonderground Music)

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 96年に結成され、現在は勝井祐二、山本精一、芳垣安洋、岡部洋一、原田仁、益子樹の6人組のバンド、ROVO。彼らは「何か宇宙っぽい、でっかい音楽」をコンセプトにし(このコンセプトは半分冗談のようだが)、フジロックや朝霧JAMなど多くのフェスに出演している。毎年5月には「宇宙の日」と呼ばれるROVO主催のフェス、MAN DRIVE TRANCEの本拠地、日比谷野外音楽堂を満員にし続けている。音楽の素晴らしさはもちろんのこと、異国の音楽性を貪欲に取り入れる姿勢や様々な音楽家との交流にも積極的でアルゼンチン音響派と呼ばれる音楽家とライヴを行なったことは記憶に新しい。キセルやポラリス、エンヴィーなど、多くのミュージシャンからの信頼も厚い。ROVOの音楽性はグレイトフル・デッドや再始動したデートコース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデンと比較され、また、なぜかポスト・ロックの文脈で捉えられることもあった。それはROVOの音楽的多面性があってこそ。生楽器主体にダンス・ミュージックを意識しているROVOは人力トランスと評される。
 
 海外では前衛音楽だと評されたこともあるようだが、たとえ前衛的だとしても、ROVOの姿勢として「分かる奴にだけ分かればいい」という妙なアーティスト気質がないことを挙げられる。ROVOはとことんアヴァンギャルド的な音楽をやろうと思えば平気な顔でいくらでもやれるとは思う。が、絶対にやらない。あらゆる種の嗜好のリスナーも虜にしてしまう包容力がある。だからこそポピュラー・ミュージックとして大きく羽ばたいているのだろうし、ファンは村社会化せず、特別ROVOに熱心ではないリスナーにも支持されているのだろう。そもそも「ライヴ・バンドだ」と自ら宣言している彼らだ。決して独りよがりにならず、オーディエンスをリスペクトする姿勢は崩さない。媚びているところもない。
 
 ROVOに関して前述したことは言わずもがな、かもしれない。ただ、ライヴで感じられるカタルシスがCDからも十分感じられるのかと問われたら、ライヴ盤を聴いても僕は首を縦に振れなかった。ライヴとCDを完全に別けて聴けばいい、という話になってしまうが、それでもだ、ROVOのライヴ体験は圧倒的過ぎるゆえに作品を聴いていて、僕は、わがままにも歯がゆさを感じていた。おそらく同じ思いをしているリスナーは多い。しかし、2年ぶり9作目のオリジナル・アルバムとなる本作『Ravo』にはライヴにも負けないカタルシスがある。
 
 ミニマル・ミュージックを意識している彼らの音楽は同じフレーズを反復することで永続性を醸し出し、徐々に沸点までもっていき、爆発させることが特徴としてあった。それは過去の作品同様、貫かれているのだが、本作ではツイン・ドラムのドラミングや攻撃的とも言えるヴァイオリン、ギターなど、全ての楽器が高揚する沸点の瞬間を瞬間的に、ではなく、常に反復させている。いわばライヴで感じられる最高潮の瞬間が本作に詰まっている。しかも瑞々しく、浮遊感があり、ヘッドホンで聴けば否応なしにトリップする。それは外から与えられているというよりも、体の中から瞬時に湧き出てくる高揚感だ。プログレッシヴ・ロックを愛する勝井祐二の変拍子に対する解釈も抜群で、より音楽を盛り上げるものとして働いている。インプロヴィゼーションも違和感なく楽曲にはまるところではまっている。ROVOの最も魅力的なところに満ちている作品だ。
 
 しかし単に「ROVOの魅力」の寄せ集めではない。スウィング感がどのスタジオ録音盤よりも増しているし、ライヴ以上の迫力がある。それはCDという「作品」にメンバーがこだわったことの表れでもあるのだろう。作品でしか表現できない細かなアレンジが、立体的な空間の中で音響をひとつ残らず聴かせるものになっていて、いくつものグルーヴが次々と一体となっていくさまは怒濤。だが圧倒的に清々しい。聴いていて音楽と分かち合えていると感じられるほどに親密性が高く開放感がたっぷりある。ROVOは感情を呼び起こし発散させる音楽をやっていると思っていたが、発散ではなく解放させる音楽をやろうとしていることに本作を聴いて気付いた。そしてそれを本作でやってのけた。感情の発散は空になるだけだが感情の解放は自由を生みだす。自由は人と人との繋がりを生み出し続ける。そんな空気を含む音楽が、閉塞感に溢れていると言われる時代にあって、堂々と響き渡っているのは爽快だ。数百年前に西洋で音楽は宇宙だということが本気で信じられていた時代があったが、「宇宙っぽい音楽をやろう」というROVOはポピュラー・ミュージックとして、曖昧だとしても宇宙を音で呼び起こしている。聴いていると彼らの宇宙とは音楽と聴き手の、そして人と人との繋がりだと思え、頼もしく、嬉しい。人との繋がりも宇宙と同じで無限だ。その可能性を音楽で突破した感がある。本作を聴き、ライヴに行くもよし、ライヴをまず体験して本作を聴くもよし、ROVOを聴く最初の一枚としても最適。

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