マムフォード・アンド・サンズ『サイ・ノー・モア』(Island / Hostess)

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 エヴリシング・エヴリシング『マン・アライヴ』のレビューでも少し触れたが、2010年の英国ではフォーク・サウンドが大衆的な人気を得ていた。なんとなくの推測だが、たとえば90年代におけるオアシスのような国民的なビッグ・バンドが生まれづらくなった(それはつまり、誰でも口ずさめるキャッチーな曲を書ける人間が減ったということかもしれないし、そういう曲を書いても誰もが耳にできる環境が衰退したのかもしれない)状況下のロック・シーンで、トラディショナルなメロディーやサウンドへと聴衆が惹かれ、回帰したくなるのもわからない話ではない。

 アメリカから数年遅れで00年代初頭あたりに勃興したイギリスのアンチ・フォーク・シーン(最近は"アンタイ"・フォークと表記することのほうが一般的みたいだ。ややこしい)も、エミー・ザ・グレイトやデヴィッド・クローネンバーグズ・ワイフ(改めて素晴らしいバンド名)のような捻くれた才能を輩出してきたが、これまた代表格バンドであるノア・アンド・ザ・ホエールの元メンバー、ローラ・マーリングの2010年作『I Speak Because I Can』は、ときおりハードな展開を見せつつも、蜃気楼や森のなかを縫って歩くような英国フォーク・サウンドの伝統を継承した、"アンチ"と形容するのも憚れる威風堂々としたアルバムで、とても20歳の女の子が作ったとは思えぬその音からはシーンの成熟さえ垣間見ることができた。彼女を中心に、イギリスのこのシーンはアメリカのそれとの交流も活発なようで、彼女もジェフリー・ルイスや元モルディ・ピーチズのアダム・グリーンらともステージを共にしていたみたいだ。

 で、そのシーンがそこまでの注目を浴びるに至った起爆剤となったのが、07年デビューであるマムフォード&サンズの登場と、彼らのつくった09年のアルバム『Sigh No More』である。全英チャートに55週間に渡りトップ40圏内にランクインするという、大ヒットにしてロングラン作となったこのアルバムとライブの評判で彼らはいちやく人気者となり、フェスやアワードにも引っ張りだこに。フリート・フォクシーズのようなバンドが歓迎されたとはいえ、この手の音が受けづらい印象のあるアメリカでさえも好評を集め、いよいよ日本でも一年遅れで国内盤がリリースされた。

 ブルーグラスやカントリーの影響を受けたバンドはエレキ・ギターの代わりにバンジョーを中心に据え、ライブ盤もかくやのエネルギッシュなサウンドが全編に漲っている。"フォーク"と聞いて想像しがちな静謐さとは違う、地響きまで起きそうなダイナミックな演奏による高揚感はアイリッシュ・フォーク譲りのメロディーにも起因している(実際、アイルランドのチャートでも1位を獲得)。フェアポート・コンヴェンションよりはポーグスやゴーゴル・ボルデロの音楽に遥かに近いと思う。イントロから徐々に熱を帯び、演奏の一体感が生みだすドラマチックな展開はヒット・シングル「Little Lion Man」に特に顕著。野太い声に重なる土臭いハーモニーも美しい。

 この作風で地味な方向に陥らなかったのはバンドのオリジナリティもさることながら、ビョークの『ヴェスパダイン』やアーケイド・ファイアなどを手掛けたプロデューサーであるマーカス・ドラヴスの功績も大きかったのだろう。足踏みやジャンプをしたくなる彼らの熱演はフェスでも大合唱の渦を巻き起こし、一方でレイ・デイヴィスもセルフ・カヴァーのお伴として起用、グレン・ティルブルックも最近のお気に入りに挙げるなど、老若男女に愛されるのも頷けるエポック・メイキングな作品だ。アルバム全体をとおしてやや一本調子というか朴訥なところも目立つが(それでいて、歌詞にはシェークスピアやスタインベックの影響が色濃いという!)、かつて英国パンクの先陣をきったクラッシュやダムドのファースト・アルバムがそうだったように、荒削りながら多大な可能性を秘めたサウンドが歓迎され、新たな道を切り開いているのはとても健全な証拠。正直、日本でもウケそうかと言われたら素直にウンと頷けないところもあるが、きっと彼らのステージを見たら圧倒されてグウの音も出なくなるだろう。気の利いていることに、国内盤には新曲のほかにライブCDも付属されている。

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