January 2011アーカイブ

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「俺たちはダークなレコードを作りたかった。最近は楽観的で花飾りしたような音楽が増えてるよね。まるで祝い事のようなさ...いったいアイツら何を祝うってんだよ!」

 ピッチフォークによる2010年のインタヴューで、背丈が2mを越すことで知られるバンドのフロントマン、アンガス・アンドリューはこんな発言をしている。NYで猛威をふるうサーフ・ロック勢に向けられた言葉である。気がつけば結成から10年が経ち、いつも変わらずダークな音楽を作り続けてきたが、それとともに常にシリアスに構え、その勤勉さをおかしな方向に向けたまま突っ走ってきた。ライアーズはそんなバンドだ。

 かのバンドによる2010年のアルバム『Sisterworld』は、アメリカ人らしい陽気なポジティブ・シンキングに背を向けた人たちの作りだした住処をテーマにしたというコンセプト作となっている。彼らは00年代の半ばに活動拠点としたベルリンを離れ、かつてバンドが学生時代を過ごしたロサンゼルスに移り住んだ。アルバムの特設ページを開くと、画面上に木々や海が静かに広がる。ここに映るロサンゼルスにはグット・バイブレーションした爽やかな波風は存在しない。倒壊したホテル・カリフォルニアの瓦礫が淘汰されたあとの、絶望的な桃源郷とでもいうべき景色。上記のインタヴューでも、LAで連想する面々としてドアーズやラヴ、そしてデヴェンドラ・バンハートを挙げている彼ららしい世界観だ。

 仰々しくおどろおどろしいコーラスのあとに、暴力的でけたたましいバンド演奏と絶叫が鳴り響く「Scissor」でアルバムは幕を開け、そのあとは背筋が凍りそうなストリングスとクラウトロック的なミニマル・ビートがアルバムを支配している。ときにシューゲイザー的なギター・サウンドに目配せしながら(「Scarecrows On A Killer Slant」)、ディーヴォを彷彿とさせる得意の痙攣ビートも披露(「The Overachievers」)する。どことなく『Another Green World』のころのイーノやアトラス・サウンドの近作を思わせるドリーミーな曲(「Proud Evolution」)も含め、アルバムはドラマチックな躁鬱状態を繰り返すが、安易なポップに走る瞬間は一秒も用意されていない。各アルバム・レヴューごとにジャンルや類似アーティストをわかりやすく整理している律儀な音楽サイトTiny Mix Tapeも、本作に関しては「STYLES: rock? Liars?」と匙を投げるほど、ある意味で集大成的な作品ともなっている。

 ムックのほうでも触れたが、"ポストパンクはサウンドではなくアプローチの言葉"という概念を彼らは誰よりも生真面目に体現してきた。結成後初となる01年の『They Threw Us All In A Trench And Stuck A Monument On Top』では時代に適合したNYダンス・パンク勢の一味として名を売り、あのストレイテナーも当時、ライブの入場時にこのアルバムの収録曲を使っていたというほどキャッチーな仕上がりだったが、すでにこの時点で、ラスト・トラックには20分超に及ぶエクスペリメンタル・サウンドが仕込まれていた。次の『They Were Wrong, So We Drowned』でポップなスタイルを簡単に捨て去り、ドイツの魔女物語をコンセプトに騒音ギターと電子音、壊れたリズムによる狂騒的でジャンクな闇鍋サウンドを展開。あまりの悪趣味ぶりにほとんどの媒体から理解されずボロクソにけなされたものの、それをまったく意にも介さず、ベルリン移住後の06年『Drum's Not Dead』ではドローン・サウンドとともにタイトルどおりに太鼓の音を乱舞させ、呪術的でアブストラクトなそのサウンドは過去にも類を見ない強烈すぎる個性を放つ。アーティスト性をこじらしたすえに咲いた大輪の花のようなこのアルバムでバンドは地位を確立させた。今こそ改めて聴かれるべき、鬱蒼とした暗黒ダンス・ミュージックだ。

 黒魔術的なモチーフや一見ポップさの欠片もないサウンドのせいか、この頃から日本では無視されがちになるが、4作目の『Liars』は、アメリカン・ニューシネマ的なPVも印象的な名曲「Plaster Casts Of Everything」を筆頭に、ソニックス~プライマル・スクリーム的なロックンロール作になっている。難解なアート・バンドと思われがちだけども、見るからに野蛮人なルックスそのままのフィジカルな躍動感はどの作品にも溢れているし、聴けば聴くほど感覚的でシンプルに作られてあることに気づかされる。00年代初期に現れた多くのポストパンク・リヴァイヴァル勢が袋小路にはまって消えていったなかで、唯我独尊状態でクレイジーな舵取りとともに音の変遷を重ねつつも、うまい具合に時代に適応しながら追求する快楽性には首尾一貫したものも見える。10年の長きに渡って絶好調ぶりをキープしているバンドなんて、80年代のオリジナル・ポストパンク・バンドでも数えるほどしかいない。ここまでオンリーワンな存在である彼らがまもなく来日するというのは、個人的には大事件なのですが...どうでしょう。

 招へい元のContraredeがご丁寧にライブ映像をまとめてくれているので、もちろん全部観てみた。ここまでくると、難しい言葉を使って語るのはもはやバカらしくなってくる。ノイズと汗を撒き散らしながら、大男が全身をしならせる。ヤバい。カッコいい。優等生が増えてきて、見せものとしてのロック文化が衰退していくなかで、それこそ"化け物"を観察しに行く感覚でライブに足を運べる機会なんていまやそうそうないはず。ヤー・ヤー・ヤーズとともに来日した03年から今日までの空白は日本の音楽ファンにとって確実に損失だった。トム・ヨークもブラッドフォード・コックスも憧れるこのバンド。見逃してしまうのはあまりにもったいない。

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過去クッキーシーンは、00年代初頭からバンドをフィーチャーしたDJイベント、クッキーシーン・ナイトをおこなってきました。今回、バンドをフィーチャーしないDJイベント、ラウンジ・クッキーシーンをやってみたわけですが、おかげさまで大盛況! とても楽しい時間をすごすことができました。会場に来てくださったみなさんも、楽しんでいただけたのであれば幸いです。そして、ありがとうございました!

ラウンジ・クッキーシーン、今後もつづけていきたいと思っています。その際は、ここで告知していきます。よろしくお願いします!

2011年1月23日21時55分(HI)

2011年1月

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  • R.E.M.

    伝えたかったのは"困難な変化が訪れても怖れないで自分のプラスに変えよう"ってこと

  • ザ・ヴァクシーンズ

    バンドとして有名になることに抵抗はないけれど、セレブリティーと呼ばれる存在にはなりたくない

  • モグワイ

    いろんな意味で、変化する時期にあったんだと思うよ

  • ハーツ

    僕達は「それ以外」のことを強調した 音楽を作っているんだ

  • ジョニー

    自分たちが楽しむ音楽を自由にやろうっていう、それがジョニーだね

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今週のカヴァーは、キャロラインです(「萌え...」 by 編集長伊藤)。彼女のニュー・アルバムに関するレヴュー記事は、こちら

「DLすると横幅が1500pixel」となる画像をアップしました。あなたのPCの壁紙に使えるかも、って感じです!

2011年1月18日20時45分 (HI)

2011年1月18日

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GLENN TILLBROOK
 
バンドという感覚は始めてすぐに手に入るものではなくて
時間をかけて培っていくものだ

「80年代のレノン/マッカートニー」と謳われ、ビートリーな曲調とひねたユーモアで一世を風靡した80~90年代の英国ロック・シーンを代表するニューウェーヴ・バンド、スクイーズ。歌詞担当のクリス・ディフォードとともに、バンドのソングライティングの中心を担っていたのがメイン・シンガーでもあるグレン・ティルブルックだ。スクイーズが99年に活動を停止したあともソロ活動を熱心につづけ、これまで三枚のアルバムをリリース。いずれも良作だが、とりわけ"グレンのポップ・ソング集"というよりは"バンドの作品"と位置付けるべき09年の三作目『Pandemonium Ensues』はペット・サウンズ風のジャケもあいまって、勢いあるグッド・メロディーが次々飛び出す傑作だ。ソロでの弾き語りや、みずからのバンドであるフラッファーズ(The Fluffers)を従えてのライヴも定評があり、日本にも何度も来日している。
 
昨年にはセルフ・カヴァー集『Spot The Difference』もリリースし、絶好調である再結成スクイーズのツアーが(日本にいるとイマイチ想像しづらいが)英米で爆発的な人気を誇り多忙を極めているなか、今年1月に(つまり、本当にまもなく!)グレンは5度目となる来日公演を控えている(*日程はコチラ)。瑞々しさを保った歌声と、表現力とサービス精神がたっぷり詰まったステージングは必見! なのだが、彼はその前にも昨年8月に来日している。癌患者支援のためのチャリティ団体Love Hope and Strength(以下LH&S)の参加者のひとりとして、富士山を登るために真夏の日本を訪れていたのだ。LH&Sは自身も2度の癌を克服した(これまた80年代を代表するバンドである)ザ・アラームのマイク・ピーターズが設立した団体であり、多くの有名ミュージシャンを含めた支援者たちは過去にもエヴェレストやキリマンジャロなどの名峰を登り、山頂ライブなどの活動を通じて基金を募ってきた。
 
このインタヴューはその8月来日時に行われたものである。今回はスクイーズの大ファンである方々に質問作成協力をいただき、その甲斐あってマニアックな部分まで訊くことができた。一方で、グレンの発言には昨今の再結成ブーム時代をサヴァイヴするひとりのミュージシャンの現実も含まれており、文中で語られる原盤権についてなど多くのベテランが抱える問題や、ザ・ルーツのクエストラブとの意外な関係など、グレンのことを知らない若い音楽ファンにもぜひ興味をもっていただけたらと思い、註釈を多めにつけてある。

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直前の告知になってしまい申し訳ありませんが、来たる1月22日(土)、渋谷の「Bar&Cafe 特異点」で、クッキーシーン・ムック第一弾『Cookie Scene Essential Guide: POP & ALTERNATIVE '00s: 21世紀ロックへの招待』の発売記念DJイベントを行います。題して「ラウンジ・クッキーシーン」。

チャージ500円プラス・ワン・ドリンク・オーダー・マスト、合計1000円程度で朝まで楽しめちゃう(ちなみに、スタンプを押してもらえば入退場自由)。

そのうえ、すでに上記ムックをご購入の方は、入り口で現物を提示していだたければ、チャージがただになります。また会場でも上記ムックを販売しますが、そこでご購入いただいた方にはワン・ドリンク・サービス!

どちらにしても、それをご入手された方は、最低500円程度でワン・ドリンクをゲットしつつ、かっこいい音楽を聴きながら朝まで遊べる...というわけだ!

豪華ゲストありのDJラインアップは以下のとおり。上記ムックのピックアップ基準(1990年以降にファースト・アルバムを発表したアーティストの、2000年1月から2009年12月までにリリースされた音源)でDJたちがセレクトした素晴らしい音楽がかかりまくり。きっと楽しい夜になると思います。よろしければ、是非遊びにきてください!

場所:Bar&Cafe 特異点

日時:1/22(土) 21:00〜翌朝5:00くらい

DJ's ...do you think they're 2 many? :-)
伊藤英嗣

小熊俊哉

上野功平
近藤真弥

しょう子&ゆか子

@K(マイブラ・ナイト, DAVI)

YANAGAWA(CAUCUS)
KATO(CAUCUS)
TWEE GIRRRLS CLUB

クッキーシーン編集部から伊藤と小熊が、そして上記ムック執筆者から上野と近藤が、そして「Bar&Cafe 特異点」でおなじみの素敵な女性DJデュオ、しょう子&ゆか子が参加! このイベントを仕切ってくれている(マイブラ・ナイトや、昨年2月のクリエイション・ナイトの主催者でもある)@Kが珍しく00年代ものをスピン! さらにはスペシャル・ゲストDJ陣も豪華だ。期待の若手バンド、コーカスから柳川くんとカトちゃんが! そして、泣く子も微笑むトップ女性DJグループ、トゥイー・ガールズ・クラブのフィーチャリングも急遽決定! まさに最強のラインアップ...かも!

2011年1月14日9時18分(HI)

2011年1月7日

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2011年1月7日更新分レヴューです。

ディーヴォ『サムシング・フォー・エヴリバディ』
2011年1月7日 更新
マムフォード・アンド・サンズ『サイ・ノー・モア』
2011年1月7日 更新
JAMES BLAKE「Limit To Your Love」10"
2011年1月7日 更新
ダフト・パンク『トロン:レガシー』
2011年1月7日 更新
神聖かまってちゃん『つまんね』
2011年1月7日 更新
神聖かまってちゃん『みんな死ね』
2011年1月7日 更新
エドウィン・コリンズ『ルージング・スリープ』
2011年1月7日 更新
キッド・カディ『マン・オン・ザ・ムーン2:ザ・レジェンド・オブ・ミスター・ラジャー』
2011年1月7日 更新
SUUNS『Zeroes, QC』
2011年1月7日 更新
クロコダイルズ『スリープ・フォーエヴァー』
2011年1月7日 更新
VARIOUS ARTISTS『コンゴトロニクス世界選手権』
2011年1月7日 更新
マウント・デソレーション『マウント・デソレーション』
2011年1月7日 更新
ザ・ブライダル・ショップ「イン・フラグメンツ」EP
2011年1月7日 更新
DESERTSHORE『Drifting Your Majesty』
2011年1月7日 更新
フランキー・アンド・ザ・ハートストリングス「アングレイトフル」EP
2011年1月7日 更新
TALONS『Hollow Realm』
2011年1月7日 更新
CARLINHOS BROWN『Diminuto』
2011年1月7日 更新
ダイレクターサウンド『トゥー・イヤーズ・トゥデイ』
2011年1月7日 更新
MUSEUM OF BELLAS ARTES 「Days Ahead」10"
2011年1月7日 更新
磯部正文『Sign In To Disobey』
2011年1月7日 更新
MOTORCITYSOUL「Ushuaia」EP
2011年1月7日 更新
ボブ・ディラン『ザ・ブートレッグ・シリーズ 第9集:ザ・ウィットマーク・デモ』
2011年1月7日 更新

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 アメリカ人と日本人のハーフ、キャロライン・ラフキン。彼女のライブは僕も一度観たことがある(本作の日本盤解説を書いている上野功平さんといっしょに行った)。2010年4月の代官山UNIT。現在は日本を拠点に活動しているという彼女だが、ソロ名義としての日本でのライブは意外にもこれが初だったという。深夜のイベントで、他にはハー・スペース・ホリデイがアコースティック・セットで心地いい音楽を鳴らし、KIMONOSが素晴らしかったLEO今井も熱いパフォーマンスを見せてくれた。

 で、肝心の彼女だが、僕は...ごめんなさい。正直に告白すれば、まずは愛くるしいルックスの虜になってしまった。萌え画像きわまりない今回の表紙や、本作のジャケットをご覧になっていただければ同意もいただけると思うが、それはまあチャーミングなのである。華奢な体躯に凛とした表情。妖精のような佇まい。これは仕方がない。ミュージシャンだって人間。リスナーもまた人間。恋も人間関係もいつだって第一印象は見た目から判断し、スタートするものだ。いわゆる一目惚れ。見た目にイイものをもってるミュージシャンの音楽にハズレなし。そろそろしつこいが、しかし、その次の瞬間には彼女の歌声に耳を奪われ、涼しげでやさしさのこもったエレクトロニクス・サウンドと生楽器演奏の端正な融合ぶりに足も硬直し、背景に映されたアニメーションに視界を潤され、才気走ったオーラを放つ彼女のステージングに気がつけば見入ってしまっていた。

 自身もそこで生活し、収録された楽曲のほとんどが作られたというロサンゼルスの都市バーバンク(ヴァン・ダイク・パークスなどで知られる"バーバンク・サウンド"などで聞き馴染みがあるかもしれない)を囲む山々を名に冠した5年ぶりのアルバム『Verdugo Hills』は、日本でも人気のあるマイス・パレードのメンバーとして世界中を飛び回った経験から、特異な環境で育った彼女のプライベートな心情まで広く反映された充実作となっている。サンプリングやドラムマシーンを駆使した電子音を中心に、ハンドクラップから生活雑貨による音まで隠し味として含まれる気配りの利いた音響が、さえずりを思わせるキャンディー・テイストな歌声を穏やかに彩り、その音はポップな浮遊感に包まれている。昔のディズニー・ソングも意識したというドリーミーなムードが一貫して流れる一方、マーチング・ドラムやホーンを大きくフィーチャーした楽曲やアップビートな楽曲を後半に配したことで、糖分過剰摂取な単調さに陥ることを見事に回避しつつ、豊かな物語性まで生まれている。かと思えば、音楽同様に丁寧に紡がれた、英語による歌詞世界で謳われるテーマが悲恋についてなのだから、これまたおもしろい。

《わたしのハートを壊したいの?/こんなシーソーみたいな愛がいいの?》(「Seesaw」)《わたしはどうなるのだろう/もしあなたに会えないなら》(「Waltz」)など、「私自身の経験や、ライフスタイルが反映されている」という歌詞は、シンプルな単語の並ぶトラックリスト同様に言葉も最小限に抑え込まれ、過去の苦難を偲ばせる痛切な吐露が並ぶ。安易で安っぽい回復は決して訪れないが、アルバム最後の曲(日本盤ボーナストラックを除く)である「Gone」で、"あなた"が去ってしまったことを暗に仄めかしつつ、《何かを探し求めているわ/穴を埋めてくれるものを/わたしのハートは妥協できない》と、どこかポジティブな気分を思わせる方向に収束していくのもいい。簡素なセンテンスは音楽と相まって映像喚起力を生みだし、ヘッドホンでこのアルバムを聞き進めると心の奥まで溶け落ちそうになる。

 個人的に、本作を聴いて連想した作品はふたつ。まずはここを読んでいる人の大半はご存じであろう、ムームの02年作『Finally We Are No One』(もうすぐ、この作品が出て10年ですよ...)。もうひとつは、80年代から90年代にかけて、多くの耽美寄りでクレイジーなNW作品や環境音楽を輩出し、最近ではコノノNo.1などのリリースで知られるベルギーの多国籍ポップ・レーベル、クラムド・ディスクから発表された日本人女性SONOKOによる87年の隠れた傑作『La Debutante』だ。

 前者の作品を中心に、北欧エレクトロニカ・シーンが共通してもつ絵本を思わせる世界観や手作り感覚と彼女はずっと比較され続けてきたが、それらの音楽と彼女を絶対的に区別しているのは、後者の作品と共通する、ほんのりと香る東洋的でエキゾチックなムードだ。これは沖縄で生まれ、日本とアメリカを行き来しながら育ってきた彼女のインターナショナルな境遇が大きく反映されていることの顕われだろう。「自分のなかの日本人っぽい細く高いヴォーカルが、自然と出てしまうみたい」と本人も認めているが、名門であるバークリー音楽大学で学んだという音楽的素養の高さとともに、良質なJ-POPや日本の童歌を想起させる人懐っこい感性が節々に見てとれる。そして、先に挙げたふたつの作品と同様に、本作にも日差しに照らされているかのような明るさと、枕を濡らしたアンニュイな陰が同居している。

『La Debutante』をプロデュースした(ワイアーの)コリン・ニューマンはその作品を「純粋で特別な音楽だ」と評したそうだが、この『Verdugo Hills』にも、思わず同様の言葉で形容せずにはいられない甘美な魔力が秘められている。日本盤には彼女の狂信者であろうディンテル(Dntel)とハー・スペース・ホリデイによるリミックスも収録。今ではオールドスクールと括られそうな、この10年を振り返らずにはいられない懐かしく味のあるエレクトロニカ作品に仕上がっており、この作品の魅力をささやかに膨らませている。

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 今考えても、デビュー作『サンダー・ライトニング・ストライク』の衝撃は凄まじかった。ザ・ゴー!チームの天衣無縫な音楽性と個性を鮮烈に印象付けたのだから。サンプリングを多用した何でもアリなビートに、60'sポップやヒップホップなどを加えてにぎやかなトラックに仕上げ、そして、ニンジャのアクの強いラップが曲のインパクトを倍増される。彼ら以外には作りえないトラック群には度肝を抜かれた。ソニック・ユースmeetsジャクソン5という例えも、突拍子もない組み合わせでありながら、何とうまく彼らを言い表したものだろう、と思ってしまう。その後、セカンド『プルーフ・オブ・ユース』では黒いグルーヴを全面的に導入し、バンドのポテンシャルの高さを見せ付けた(そういえば、パブリック・エネミーのチャック・Dも参加していたなあ)。

 だが、この3作目でも僕らに予想以上の驚きをもたらしてくれるとは! ロックにファンクにクラシックなポップ、ヒップ・ホップ、はたまたJ-POPまで・・・縦横無尽に他ジャンルを横断するにぎやかさは健在。しかもメロディの自由度は一層増しているようだ。特筆すべきが豪華なゲスト・ヴォーカリスト陣。ベスト・コーストのベサニーやディアフーフのサトミ、元ボンヂ・ド・ホレのマリナ、タンパの新人ラッパーDominique Young Uniqueなど、実に個性豊かな面々が揃っている。更に、各人のためにアレンジされたのでは? と思うほど、トラックと彼らの相性がいい。特に、「Buy Nothing Day」は本人との共作では?と思えるほど、ベスト・コースト風の甘いメロディが印象的だ。

 だが、その一方でザ・ゴー!・チームを特徴付けていたニンジャのラップが消えている。収録曲中、彼女だけがマイクを握るトラックはオープニングの「T.O.R.N.A.D.O」くらい。その上で、聴けば一発で彼らとわかる、ファンキーでハッピーなヴァイブがいたるところからあふれ出す。自らのトレード・マークを1つ捨てたにも拘らず、DIY精神を貫く彼らのコアは一切ぶれていない。そこにただただ驚かされる。

 ジャケット通り、想起するのは各トラックごとにまったく別の風景。中心人物イアン・パートンは映画から曲のインスパイアを得るというが、だとしたられほどカラフルな映像を網膜の裏側に映し出すアルバムもないだろう。このアルバムをひっさげて、どれだけのパフォーマンスをするのか、何としても見てみたい。

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