エドウィン・コリンズ『ルージング・スリープ』(Heavenly / Hostess)

|
edwin_collins_losing.jpg
<希望と絶望>

 エドウィン・コリンズは、ずっと聴いてきて個人的にもとても大事なアーティストだ。そのせいか脳溢血から本格的に復帰した今作のレビューを書くのも、いろいろ思いがありすぎて書くのに時間がかかってしまった(某ネオアコ/ギターポップのBBSでのハンドル名を'Edwyn'にしていたこともある)。

 エドウィン・コリンズ(以下、エドウィン)との出会いは、リアルタイムで聴いたオレンジ・ジュースのセカンドからだ。当時、「シティロード」の音楽欄でオススメ盤の大枠で取り上げられていたのが聴くきっかけだった。同世代的な歌詞として意識したアーティストのかなり始めの一つだった。《世界は君の敵じゃない》(「Hokoyo」)など、印象に残る歌詞がいくつもあった。その後、すぐにファーストは馬場の中古レコード屋のタイムで輸入盤の中古を買った(音源で買ったり、アマゾンで買ったりしている今の人は、こういう買ったお店の記憶もないのに今気付いた)。このファーストは聴いた当初と変わらぬ新鮮な音楽で、今も聴きつづけている。その後のミニアルバムとラストのサード(フールズ・メイトの伊藤英嗣さんのレビューが買うきっかけだった)もリアルタイムで輸入盤で買った。
 
 ソロでは、ファーストは特に愛聴している。タイトルトラックの「Hope & Despair」で《You were offered hope. But you chose despair.》と歌われているが、仕事としての映画や音楽をやめていった友人や仲間を思い出す。このことに関連して書くと、今年2010年は10年というキリのいい年だからだけでなく、「今年何をしたかで今後数年が決まる。同じことをやっていたら漸次下がっていくだろうし、新たに何かを始めたり、きちっと結果を出したことは起点になるだろう」と近しい人には言っていた。それぐらいのメディアや人の気持ちの転換点になると、どこか肌で感じていた。
 
 だからこそ、このエドウィンの復活は象徴的だったし、今作を聴いてエドウィンの正直さに改めて気付いた。いや、今まであまり歌われていない一歩踏み込んだ感情を表現していると言ってもいいかもしれない。冒頭のタイトルトラックの「Losing Sleep」で《眠れない/自分にはなんの価値もないような気がしてくる/恩義を感じるものすべてが目の前に並んでいる/それがぼくを落ちこませる》と歌いながら《信じたほうがいい/取りもどすべきだ/自分が知っているものを/正しいと思うものを/大切だと感じるものを/必要なものを/それが欠けている/ぼくの人生には》と前向きな固い決意を歌う。そう、本能的に必要と思うものを掴みとるべきなのだ。諦めかけている人が、こちらの周りにも何人かいるが今こそやりたいことをやるべき時で、今することが如実に今後につながってくるのだから。
 
 次の曲「What Is My Role?」では《あまりに考えすぎたら 自分にはなにも似合わないような気分になってしまう/わかってる ぼくらは「悩むことそれ自体」のために悩んでいるんだ》と生きる不安を吐露する。でも、これらの曲は驚くほどアッパーでシンプルなチューンだ。後遺症でギターは弾けなくなったが、再び歌う喜びをリトル・バーリー、クリブス、マジック・ナンバーズ、フランツ・フェルディナンドのメンバーやポール・クック、ロディ・フレイムなどの仲間と演奏する。最新号の「Uncut」のインタビューでも、エドウィンは「今は希望と喜びに満ちている。後ろ向きな人生観から脱け出したんだ。今作はオレンジ・ジュースのファーストのようだと感じている」と語っている。そして、同じインタビューで奥さんのグレイス・マクスウェルは「入院しているときは本当に暗い気分だった。他の入院患者の命がわたしたちの周りにあるようだった」、その返答で「本当につらかった」とエドウィンは答えている。これらのことはYouTubeにもアップされているエドウィンの闘病記のドキュメンタリー「Edwyn Collins - Home again」を見れば分かる。
 
 上記と同じく「Uncut」誌の今年の号の回顧インタビューでオレンジ・ジュースのサードを作るときに、どれだけ新しいことをしようとしていて、それまでの自分たちのアルバムのアイデアがヘアカット100やブルーベルズに盗まれているかを辛辣に話していて、当時、情報のあまり入ってこない日本では、同じような音楽として楽しんでいた身としては驚かされたが、それぐらい道を切り開いてきた自負があるのだとも強く感じた(そのことは今年、ドミノから出たオレンジ・ジュースのボックス『Coals To Newcastle』を聴いてもよく分かる)。
 
 アルバム最後の曲(ボーナストラックを除く)である「Searching For The Truth」のカントリーミュージックのテイストにOJのセカンドのラストの曲「Tenderhook」に通じるものを感じ、とても嬉しくも思った。

retweet