ウォーペイント『ザ・フール』(Rough Trade / Hostess)

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 人は他人との距離を測りながら生きている。そのなかで失うものもたくさんある。これが「大人になる」ということで、だからこそ「若いうちにやっておけ」なんて言葉も聞こえてくるわけだけど、僕みたいに、本来失うはずのものに執着しているような人間は、「大人」という集団から疎外され孤独に生きるしかない。でも、愛というものがある限り、人間は孤独になりきれないわけで、だからこそ自由や快楽を求めてしまうのかも知れない。LAの4人組によるこのデビュー・アルバムは、孤独のなかで自由や快楽を謳歌している。ちなみに、彼女達のデビューEPは「Exquisite Corpse(=素晴らしき死体)」という。つまり、彼女達は「死」から始めているのだ。それでもなお、自ら求めるものを鳴らしながらどこまでも堕ちていく。そんな彼女達が鳴らす音を聴いていたら、不思議と涙が出てきた。

 初めてこのバンドを聴いたとき、ちょっと昔の懐かしい思い出が蘇ってきた。周りの景色が捻れ、色彩感覚が狂っていく。地上から数センチ浮き、体が花開くような覚醒感。こんな感覚を音楽で体験したのはかなり久しぶり。シット・ゲイズ/ニュー・ゲイザー以降の流れを意識した音になっていると思うし、ジ・エックスエックスもお気に入りと公言するのもよく分かるダークな雰囲気もある。でも一番すごいのは、雰囲気だけの凡百シューゲイズ・バンドと違って、しっかり音楽的な冒険と好奇心があるところ。プロダクションも凝っているんだけど、これはトム・ビラーとアンドリュー・ウェザオールの影響というよりも(トムとウェザオールはミックスを務めていて、トムはプロデューサーでもある)、彼女達自身が音作りの段階でかなり作り込んでいる思われる。それでも「理性的な本能」ではなく「本能そのもの」として聞こえるのは、理性と本能が共にレッドゾーンを超えているからだと思う。それは、最早どっちかだけで生き抜くことは難しい(時代的にも音楽的にも)ということを図らずも証明しているようだ。そういう意味で言うと、まさに「今」でなければ生まれなかったアルバムだと思うし、だからこそ多くの人に聴いてほしい。癒しや救いとは相反する死と隣り合わせの陶酔をもたらしてくれる『The Fool』は、間違いなく現代のサウンドトラックだ。「ただの良いアルバム」として片付けてはいけないし、片付けられないアルバムだと思う。

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