フォー・ボンジュールズ・パーティーズ

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4 BONJOUR'S PARTIES

コンセプトは夢、つじつまが合わないような
見た後に不思議な感じがするような


日本を代表するチェンバー・ポップ・バンド。もしくは、東京発手作りオーケストラル・ポップ楽団。07年に発表されたファースト・アルバム『Pigments Drift Down To The Brook』を最初に聴いた時は思わずそんな印象を抱いたものだったが、あれから3年、フォー・ボンジュールズ・パーティーズ(4 bonjour's parties)はさらなる高みに辿り着いたようだ。リーダーの灰谷歩がオーストラリアはメルボルンに留学するなどマイ・ペースの限りを尽くした末にようやく完成させた2作目『Okapi Horn』は、視界がグッと広がり、価値観も柔軟になった新たな8人の姿をクッキリと浮き彫りにする象徴的な1枚だ。

ファーストではまだどこか神秘的な翳りをも秘めていた曲調はブライトになり、演奏にも躍動感と覇気が備わっただけではなく、メンバーそれぞれが何より楽しんで音楽と向き合っているのが伝わってくる。灰谷と矢作美和がメルボルン在住のた最終的にデータの交換などでアルバムを完成させたそうだが、そうした"物理的距離"を逆に生かしたような、想像力溢れる曲構成には何度聴いてもハッとさせられるし、聴くたびに新たな発見も多い。前作に引き続きTsuki No Wa/マヘル・シャラル・ハシュ・バズの庄治広光がミックスとマスタリングを担当。チェンバー・ポップという枠を超えたところで、「エッシャーなどの騙し絵の影響も大きかった」という灰谷らがいかに自由自在に音楽に向き合い、その迷宮を楽しんでいるかがわかる実に開かれたこの新作について、久々に日本に"里帰り"した灰谷が熱く語る。

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結局、オーストラリアに留学したのはいつのことだったのですか?

灰谷歩(以下H):09年の6月ですね。ちょうど1年半ですね。初めて海外に行ったのは00年くらいで、その時はイタリアだったんです。で、その時はいつかイタリアに留学してみたいなって思っていたんですよ。要は、海外に住みたいな、みたいなね。そうこうしているうちにこのバンドを始めちゃって忘れてしまっていたんですけど、2年くらい前にちょっとバンドが煮詰まってきたっていうか、考える時期になってしまって。これからどういうスタンスでやっていこうかな? とかを考え始めたんです。で、その頃、ちょうど親からも留学を勧められて。当時、僕はまだこのフォー・ボンジュールズ・パーティーズ(以下、4bon)はその時の7人でガチッとやらなきゃって思っていたから、留学したらバンドを続けていくこと自体が難しいのかな? みたいに思っていたんですけど、もうちょっと柔軟に考えてもいいかって。それに、俺が留学しなくても、この先メンバーの誰がいつどうなるかわからないってことも思えてきたんで、このタイミングでちゃんと捉え直した方がいいなって思ったんです。

で、メンバー全員で話し合ったと?

H:そうです。で、話し合いをした中でまとまってきたんで、じゃあ、留学しよう、オーストラリアに行こうってことになったんです。

メンバーから反対はされなかった? 他の誰でもなくリーダーである灰谷くんが長期的に日本を離れることはやはり大きな問題ではあるでしょう?

H:はい、もちろん、最初は「(留学期間が)長すぎるんじゃないか?」とかって意見もありました。だから、納得してもらうにはちょっと時間もかかったんですけど、でも、最終的には全員にわかってもらえました。もともと、僕は直感で決めちゃうところがあって。最初にオーストラリア・ツアーした時も、まだメンバーが納得していないにも関わらず飛行機のチケットを押さえちゃったりして(笑)。だから、今回もまた俺がひとりで勝手に言い出したよ、みたいに最初は思われたかもしれないんですけど、今回は「戻ってくるけど、最悪戻れなこともあるかもしれない」というところまでちゃんと話して。

では、日本を離れている間、どういう活動のプランを考えていたの?

H:俺が向こう行っている間に、向こうでも4bonを別にやろうくらいに考えていたんです。オーストラリアに行ったのは僕とメンバーの矢作なんですけど、オーストラリアで僕らふたりと現地の人とかでやれればいいなあとかって考えていて、日本とオーストラリアの同時進行でふたつ4bonがあるのって面白いなあとかって。

うん、それは実現したら面白い。増殖していくみたいに東京とメルボルンに4bonがあるなんて他にないし。

H:ですよね! 既にレコーディングが始まっていたし、今は離れていてもネット上でデータの交換をしながら曲を作っていくことができるなあって考えてもいたんでね、何とかなるだろうと思っていたし、東京の方でも僕がいなくても他のメンバーで代わりにライヴをやってくれればそれも面白いなあと思っていて。僕のいない間に東京では僕抜きでライヴをやったりもしていたんですよね。

畠山実(&レコーズ・オーナー):実際、灰谷がいないライヴの方が評判良かったりしたんですよ(笑)。

ちなみに、メルボルンでは何を学んでいたの?

H:学校に通うというよりは、実際の農家に住み込んで農業をやっていたんです。で、それが一定期間終わってからはカフェでアルバイトをしていました。でも、今回クビになって帰国しました(笑)。

え?

H:(笑)帰国するために2週間お休みをもらいたかったんで、ギリギリになってからお店のボスに伝えたんです。そしたら、それまでボスと僕との仕事の相性がよくなかったこともあって、「こんなギリギリになって言われても困るが、わかった。ただし、もうバイトには来なくていい」って言われて(笑)。「正直言うと、お前と仕事をするのは僕もしんどかった。全然値段も覚えなくて上達しないし!」って(笑)。でも、一方で、僕、ひとりでテルミン演奏で路上演奏とかもしていたんですけど、それで結構お金も稼げていたんで、多分食っていく分には十分なんですよね。だから、まあ、カフェをクビになる分にはいいか、と(笑)。

へえ! そのバスキングでは4bonの曲を演奏しているの?

H:いや、4bonの曲は難しいんで(笑)、民謡と簡単なオリジナルを演奏してました。それは本当に楽しいですね。映画を作ってる人とかブッキング・マネージャーとかに声をかけてもらったりして人脈も広がったんですよね。

メルボルンでは、そういうバスキングと、バンド活動とを平行させているわけだ。

H:そうです。バンドのメンバーはメルボルンの仲間が一緒なんですけど、ほぼ4bonと同じ編成で。トロンボーンやトランペットもいるし...あと、チェロがいますね。ギターがいなくてベースとドラム。あと、僕と矢作で。初めはあまり考えてなかったんですけど、今はそのバンドで4bonの曲もやってるんで、結果として、さっき話したような東京とメルボルンの両方で4bonをやっているような感じになっていますね。名義は違いますけど。ただ、実際に同じ4bonの曲をやってみてわかったのは、東京とメルボルンとでは解釈がちょっとづつ違うってことなんですよね。前は4bonの曲は東京のメンバーとじゃないとできないと思っていたところもあったから考えたことなかったんですけど、メルボルンのミュージシャンとやってみるとやっぱり演奏が少し違っていて面白いんですよ。

メルボルンでのバンド・メンバーはどうやって集めたの?

H:いや、これがすごく運が良くて。別に募集とかしたわけじゃなかったんですけど、知り合いの知り合いとか紹介とかツテとかで次々と集まってきたんです。中には、偶然ですけど、4bonのCDを通販で買ってくれていた人もいたりして。すごい自然と集まってきたんですよね。今はドラマーがふたりいます。向こうの人ってしょっちゅう旅行とかに行くんで、すぐ旅行でいなくなっちゃうんですけど、逆にいないならいないでやろうって感じで柔軟にやっていますね。

メルボルンでもやはり灰谷くんの曲をプレイしているの?

H:基本はそうですね。でも、日本で4bonだけをやっていた時とは考え方がガラリと変わりました。さっきも話したように、今では東京とメルボルンでは同じ曲をやるにしても違うんですよ。本家(笑)はいい意味でしっかりとしていて、メルボルンではラフで柔軟で。僕自身は元々の作りをカッチリと忠実に再現してほしいって思うタイプなんですけど、メルボルンの方はメンバーに自由に任せてみてるんですけど、かえってその方が面白かったりもするんです。で、ああ、こういう捉え方もできるんだなって認識を新たにしたりして。そういう意味でも留学して良かったですね。今後、メルボルンでのそういう体験が生かされていくかもしれないです。

でも、今回のアルバムの制作自体は留学をまたいでいるんだよね?

H:そうです。3年~3年半くらい前から東京で始めたので。ファーストの時に既に1曲か2曲くらいはあったかな? 俺の曲は2年半くらい前からかな。ベーシック・トラックは東京にいる時に全部録ってちゃって。あとはメルボルンと東京とでデータ好感して仕上げました。あと、1、2、3、9曲目は、前にオーストラリア・ツアーをやった時に向こうで録っておいたんで、それをそのまま使いました。ミックスに全部立ち会えなかったのが残念なんですけど、思っていたよりはスムーズにできましたね。俺がいない方がいいのかな、やっぱり(笑)。

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留学関係なしに、今回のアルバム制作に向けて、具体的に音作りに対する価値観や意識が変化した部分もありました?

H:それは少しありました。ファーストの曲は、ライヴでは不向きとは言わないまでも、俺たちもっとはしゃぎたいタイプなのに、落ち着いていた感じもあって。もっと素を出していった方がいいかな? って感じていたんです。その方が自分達も楽しいし、見に来てくれた人も楽しいしって。あと、ザックリとしたコンセプトをファーストより考えていた方がいいかなとも思っていました。

具体的にはどういうコンセプトを?

H:"夢"ですね。夜見る方の夢。結構つじつまが合わないような、でも、見た後に不思議な感じがするような面白い感じですね。みんなで話し合ったわけじゃないんですけど、俺の中ではそういうことを考えていました。どの曲でもいつも目指しているのは同じで。今回のアルバムの中で一番最初に作ったのが1曲目の「Skipping Birds & Stones」で、その次に作ったのが2曲目の「Pins And Needles」なんですけど、最初がちょっと現実っぽい感じで、そこから急にぶっとんだ方に行くような、そういう展開を歌詞で考えてみたんです。音にしても、あまり結びつかないような感じのサウンドをつなげてみたり...まあ、構成ですよね。俺、構成を考えるのが好きなんで。

そういう構成を考える際、今回だと何かリファレンスとなった作品とかアーティストはいます?

H:それはもう結構色々ありますよ。曲ごとに細かく影響を受けたりするんで。1曲目はメルボルンで見たアートの作品のタイトルからヒントを得たものだし、2曲目なんかはクルー・トゥ・カロが日本に来た時に話していたことから着想したものだし、ホント、色々なんです。音と言葉が結びついた時に思い浮かぶようなことが多いですね。でも、まあ、一応、通して常に意識しているのはビートルズの「A Day In The Life」なんです。あの曲が一番カッコいいと思っているんですよ! あれが一番の理想! メッチャカッコいいって追いかけて、いつも違う感じの曲になるんですけどね(笑)。

へえ! 結構構築力ありきなイメージで曲に向かっているんだね。

H:そうなんですよ。まあ、ファーストの時はまだ探り探りで作っていたところもあったんですけど、でも、今回はファーストでできなかったことをじっくり作業したので、僕自身すごく満足してますね。と同時に、今回はメンバーそれぞれの個性を生かしていこうという思いもあったんですよ。例えば、ドラマーは押さえつけないでドン! と行った方がいいタイプだから、見せ場を作ろう、とか、ホーンのセクションはこの部分はこのメンバーにやらせた方がもっと面白くなるんじゃないか? ってことを考えながら作ってみたんです。ファーストは全部俺が考えてそれをメンバーにやってもらう、みたいな感じだったんですけど、今回はかなり委ねることができましたね。実際、俺以外のメンバーはそれぞれスキルが高まったというのもあるし(笑)、のびのびとやってくれてる感じもしますね。俺は...ダメですねえ。練習もしないですしねえ。研究は好きなんですけどねえ。

どういう形で音楽を研究をするの?

H:とにかく聴きまくるんですよ。同じものを何度も何度も聴くんです。何でここにこの音があるんだ? ってことを、聴いて聴いて聴きこんで探るんです。俺は楽譜とかも読めないし書けないけど、その分、聴きまくるんですよね。でも、今回のアルバムを作り終えた後、スフィアン・スティーヴンスのアルバムを1曲だけ聴いて、もうガックシして。ああ、もう、なんでこんなにいいんだ! こっちに来んな! みたいな(笑)。その日は本当にふて寝して(笑)。何もやる気がしなくなったんですよー。

なるほど。確かに4bonの今回のアルバムの5曲目なんかはちょっとスフィアンぽいアレンジだなって思ったけど。

H:ああ、そうですね、あの曲は少し入ってますね。ただ、俺は本当にスコアとかをしっかり学んでってことはしていないんで、好きなことを好きなようにやっている感じなんですよね。昔の音楽とかをしっかり勉強もしてないから。

例えばホーンのアレンジなどで参考にしてきた作品とかはある?

H:そういうのもねえ、あまりないんですよ。アナサロの作品とかは結構好きで、僕らと共通しているような感じもするんですけど。アナサロも試聴した時に「わー! すごいな!」って好きになったって感じだし。

へえ。ビーチ・ボーイズとかは?

H:ほとんどちゃんと聴いたことないんですよー。バカラックもわからないですしねえ。

ヴァン・ダイク・パークスは?

H:全然(笑)。わからないです。他のメンバーは聴いているとは思うんですけど、僕は実は全然知らないんです。「~っぽいね」って言われても全然わからないという。全部感覚でやっちゃうんですよ。でも、それがかえって面白いっていうか、それを楽しんでいるところがあるんですよね。


2010年12月
取材、文/岡村詩野

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